監督・原田眞人の沼にハマるための映画“3選”|『ヘルドッグス』公開記念
(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会
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9月16日(金)、待ちに待った『ヘルドッグス』が公開となる。
監督は原田眞人、原作は深町秋生、主演は岡田准一師範と、筆者の大好物が揃っているので、楽しみでならない。
『ヘルドッグス』の特徴として、以下の3点が挙げられる。
1:岡田師範主演
2:クライム・アクション
3:警察もの
原田眞人監督の過去作から、以上の特徴に当てはまる3作品を紹介したい。『ヘルドッグス』未見の方は予習として。すでに観て原田眞人監督に興味を抱いた方にも、これから挙げる3作品をおすすめする。
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1:『関ヶ原』('17)岡田准一師範主演
(C)2017 「関ヶ原」製作委員会
まずはなんといっても岡田師範主演作である。原作は、天下分け目の大合戦を描いた司馬遼太郎の名作。西軍大将・石田三成を演じるのが、岡田師範。東軍大将・徳川家康には役所広司。
石田三成と言えば智将のイメージだ。したがって、岡田師範としてはアクション少なめである。だが、やはり師範をキャスティングしといてアクション無しはもったいないとの判断であろう。ちゃんと師範の戦闘シーンはある。武器は刀でも弓矢でもなく、“投げ矢”だ。ダーツを想像してもらえばいい。矢をつがえる手間が省けるので、連続で放てる。合理的な武器だ。流鏑馬的に馬で走りながら、投げ矢で的を狙うシーンもある。従来の石田三成像とは若干異なるが、師範が演じているのだから仕方がない。
(C)2017 「関ヶ原」製作委員会
師範や役所広司だけでなく、“三成の右腕”島左近役の平岳大も、“くノ一ヒロイン”初芽役の有村架純も素晴らしい。だが筆者的にもっともハマリ役だったのが、“ミスター風見鶏”小早川秀秋を演じた東出昌大だ。東西どちらに付くか、いつまでもうじうじうじうじ悩み、一応西軍(師範側)に付くも、いざ合戦が始まってもまだ悩み続ける。業を煮やした家臣にまで「どちらに付くのか早くお決めなされ!」とどやされる。
(C)2017 「関ヶ原」製作委員会
東出昌大自身のイメージもあってか、日本一の“小早川俳優”といっても過言ではないほどだった。結局、この東出小早川の寝返りにより、西軍は敗れる。どうせ寝返ったのならそのまま開き直ればいいのに、この東出小早川、捕らえられた三成に涙を流して謝罪するのである。この裏切り者に対して、三成は優しく声をかける。
「涙をぬぐって拙者を罵りなされ。家康も喜ぶ」
三成に情けをかけることで小早川の立場が悪くならないよう、気を遣ってやるのである。いい人過ぎるよ、三成!!
劇中、前田利家(西岡徳馬)が三成について語っている場面がある。
「将となるには純粋過ぎるやもしれん」
岡田師範演じるひたすら純粋で純情、何かといえば「正義」を語る石田三成。純粋過ぎるが故に、天下を獲れなかった男。同じく原田眞人×司馬遼太郎×岡田准一となる『燃えよ剣』をはじめとして、司馬遼太郎の描く「敗れゆく者」を描いた作品はどれも哀しく美しい。
ぜひ、観てほしい。
>>>『関ヶ原』を観る
2:『KAMIKAZE TAXI』(’95)クライム・アクション
組の金を強奪したチンピラ・達男(高橋和也)が、たまたま拾った訳ありそうな運転手(役所広司)のタクシーでひたすら逃げるロードムービーである。
筆者的には、本作は原田監督の最高傑作だと思っている。『ヘルドッグス』で原田監督に興味を持ったなら、まず観るべき作品が『KAMIKAZE TAXI』だ。
今ではすっかりいい感じのおっちゃんになった高橋和也だが、この時期のチンケなチンピラぶりが素晴らしい。それでいて母性本能をくすぐる(であろう)可愛げも兼ね備えており、なんだかんだうらやましい。
役所広司が演じる、ペルー育ちのタクシードライバー寒竹(かんたけ)さんの個性も強烈だ。片言の日本語でにこやかで可愛いキャラなのだが、実はめちゃくちゃ強い。
主演2人も素晴らしいのだが、筆者的なこの作品の見どころは、サブキャラたちの“死に様”である。
死に際して、見苦しく取り乱すキャラがいない(雑魚以外)。みんな「あっ、俺はここで死ぬのか。まー、それが寿命なら仕方がない」といった風情で、あっさりと受け止める。「90年代のインテリ・ヤクザと言えばこの人!」な矢島健一も、凶悪なのに憎めない組長のミッキー・カーチスも、みんな世間話したり談笑したりしながら当然のように死んでいく。
「カッコ良く」死ぬのではなく、みんな「キュートに」死んでいく。死に様に対して「キュート」という形容詞が正しいのかはわからないが。
『鬼滅の刃』の煉獄さんや『鎌倉殿の13人』のようなドラマチックな死も、もちろんカッコいい。だが、主要キャラが「キュートに」死んでいくこの作品も、ぜひ観てほしい。
>>>『KAMIKAZE TAXI』を観る
3:『突入せよ!あさま山荘事件』('02)警察もの
1972年に長野県で起きた、連合赤軍によるあさま山荘立てこもり事件の映画化。実際に対策本部の指揮に当たった佐々淳行警視正を、役所広司が演じている。
今気づいたが、この記事で取り上げた3作品とも、役所広司が主演もしくは準主演である。原田監督、役所広司のことが好きすぎるだろう。(ちなみに、近年の原田監督の好きすぎ俳優は、岡田師範であると思う)
『突入せよ!あさま山荘事件』の素晴らしい点は、有名な同事件を警察サイドから「のみ」描いていることだ。連合赤軍サイドからの視点は、一切描かない。そのことにより、良質なエンターテイメントに仕上がった。
警察サイドのすったもんだを、シチュエーション・コメディ気味に描いている。三谷幸喜の舞台のようでもある。連合赤軍側の内ゲバをドロドロと描いたり、もしくは“革命の志士”としてヒロイックに描いたり。そのようなドラマを完全に排除したことにより、2時間強のこの作品を最後までテンポ良く観られる。
ところで、立てこもり犯を演じているのは誰なのか。逮捕シーンも薄暗い屋内で、アップで顔を抜いたりもしないので、全然誰だかわからない。無名の俳優さんなんだと思っていた。
エンドロールが流れ、武田真治と鈴木一真であることがわかった。贅沢の極みである。
>>>『突入せよ!あさま山荘事件』を観る
『KAMIKAZE TAXI』から『ヘルドッグス』へ
筆者は、ハタチそこそこの時に『KAMIKAZE TAXI』を観て、頭を殴られたような衝撃を受けた。「映画ってこんなに面白いのか!」と思い、まんまと沼にハマった。
『ヘルドッグス』にも、同じ匂いを感じている。
ようこそ、原田眞人の沼へ。
(文:ハシマトシヒロ)
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