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2022年09月24日

「雪女と蟹を食う」第12話:呪縛から解かれたとき、北(重岡大毅)と彩女(入山法子)が辿り着いた場所

「雪女と蟹を食う」第12話:呪縛から解かれたとき、北(重岡大毅)と彩女(入山法子)が辿り着いた場所

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

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重岡大毅が主演を務めるドラマ「雪女と蟹を食う」が2022年7月8日より放送を開始した。

冤罪により人生を狂わされた男・北(重岡)が死ぬ前に蟹を食べようと思い立ち、図書館で出会ったセレブ妻・彩女(入山法子)を襲おうと家に押し入る。そこで彼女は思いもよらぬ行動をとり、謎の旅がはじまっていくというラブサスペンスドラマだ。

本記事では、第12話をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。

「雪女と蟹を食う」第12話レビュー

自ら海に入って行ってしまった彩女(入山法子)は、なんとか北(重岡大毅)に救出されて病院へ。しかし、彩女の意識は戻らない。

北はホテルへ戻って彩女の日記を読み、本心を押し殺して雪女としての“私”を演じていたことを知る。

とめどなく流れる涙は、重岡大毅の最大の武器だ。彩女への愛情、失うかもしれないという恐怖がどれほどのものかが痛いほど伝わってくる。日記が濡れて文字が滲む。彩女が儚く消えていってしまうことを予感させるようで心が落ち着かない。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

翌日、彩女に呼ばれてホテルへやってきた雪枝(勝村政信)と話す北。

北は彩女を呪縛から解いてやれと懇願する。だが、果たして呪縛に苦しめられていたのは彩女だけだろうか?

彩女が雪枝との唯一の思い出だと書き残していたらしい包丁を涙ながらに握りしめる雪枝を見ていると、この人もまた呪縛に苦しんでいるのだろうと確信する。

雪枝の呪縛とは、彩女からの過剰な期待と、世間に注目を浴びた「蝉時雨」が彩女の体験をもとにした物語であったこと、そしてそれが本人の意に反して純文学ではなく大衆文学だと言われてしまったことだ。雪枝の創作は彩女の犠牲の上に成り立っており、小説家としての存在をほとんどすべて彩女に依存していたともいえる。

当初は年若い妻を置いて愛人との不倫旅行を楽しむふてぶてしい小説家のように見えていた雪枝が、小さく哀しく映る。教師を辞めて上京し、小説家として生きようと決めた人なのだから、これまでさぞ苦しかったことだろう。彩女への愛情がねじれていってしまうのも頷ける。

だが、彩女がまだ生きていると知って泣いてるわけで、雪枝にもまだ気持ちはあるのだ。愛と情が入り混じったものではあるだろうけれども。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

雪枝から彩女の日記を見せられた編集者の巡(淵上泰史)は小説化を勧めるが、雪枝はそれを固辞する。それでは雪枝の呪縛は解けないし、きっと彩女を解放することもできないから。彩女が命を懸けて書き上げた日記が燃やされていく。「愛する人の文字になりたい」、彩女の思いが灰になる。

そして雪枝は、彩女の日記には頼らない新たな小説を発表する。タイトルには「雪女」が入っていた。きっとこれまでの2人の過去を浄化する物語になっているのだろうと想像する。

サイン会には、高校生の頃の彩女(坂口風詩)が並んでいた。もちろん雪枝の目にそう映っただけだろうが、その彼女が笑いかけてくれた刹那、きっと本当の意味で雪枝も呪縛から解放されたはずだ。

Ⓒ「雪女と蟹を食う」製作委員会

無事に意識を取り戻した彩女を、北はある場所へ連れて行く。それは一面に花が咲き乱れる、広大な場所だった。さまざまな色が画面にあふれたあの瞬間、生きていることの素晴らしさを感じるようだった。矛盾しているし陳腐だけれど、天国ってもしかしたらこんな場所なのかもしれないと思う。

その場所では、毎年違う景色が見られるという。北は、この景色を毎年見せたい、と彩女に伝える。ただ好きだの愛してるだのと言われるよりも、温度のある決意の言葉だと感じた。今はお金も仕事も、何も持っていない北の、等身大の愛情表現。2人は、北の大地で共に生きることを選ぶ。

かくして、死にたかった男女の旅は終わりを迎えた。想像しうる中で最も幸せなラストだった。もう2人が迷うことがなければいい、と願う。



全12話、毎回心を揺さぶられながら楽しく鑑賞していたが、思えば半分以上が重岡大毅と入山法子の2人芝居だったのではないだろうか。

自暴自棄になったり感情を爆発させたりしながらもそこにしっかり脈絡が感じられる重岡の北。この作品において、北がかっこよく見えたのは、店で客の妻に襲われたマリア(久保田紗友)を助けたときと、最後に彩女に思いを告げたときだけだった(ファンの皆さん、ごめんなさい)。つまり、普段アイドルをしている重岡の影を、一切感じていなかったのだ。表情からまとう空気から、すべてが異なっていた。恐るべし、重岡大毅。

それに対して流れるような静かさが美しく、放っておいたら消えてしまいそうな恐怖を覚える入山の彩女がとても好相性で、見応えがあった。

良質な作品を堪能できたことに感謝しつつ、レビューを締めくくりたい。

(文:あまのさき)

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