「初恋の悪魔」最終回レビュー:「あなたに会えて良かったです」切なくて優しい、三角関係の行方


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林遣都と仲野太賀がW主演を務める「初恋の悪魔」が2022年7月16日スタート。

本作は脚本家・坂元裕二が送るミステリアスコメディ。停職処分中の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)、総務課・馬淵悠日(仲野太賀)、生活安全課・摘木星砂(松岡茉優)、会計課・小鳥琉夏(柄本佑)ら曲者4人がそれぞれの事情を抱えつつ難事件に挑む姿を描いていく。警察モノ、ラブストーリー、謎解き、青春群像劇……全ての要素をはらんだ物語の結末はどこへ……?

本記事では、第10話(最終回)をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。

「初恋の悪魔」第10話(最終回)レビュー

ああ、ついに終わってしまった……。
来週から土曜の夜なにをすればいいのか。

……先に今の気持ちが出てしまったが、レビューはちゃんと書く。

車を移動させた琉夏(柄本佑)が戻ってくると、家の前には血痕が。
しゃがみ込み、どうするか、逃げたほうがいいかと一人でぶつぶつ言う琉夏だったが、星砂(松岡茉優)が中にいる可能性がある以上、突入するほかないのだった。いい奴。

前回ラストでは、玄関で星砂が弓弦(菅生新樹)にハサミを振り下ろされそうになったところ、森園がかばって背中にハサミが刺さっていた。あのときは弓弦も突き飛ばされて倒れていたが、2人はどうなったのだろうか。

悠日(仲野太賀)と鈴之介(林遣都)に電話をするが出ない。2人の登録名が「総務課の友達」「刑事課の友達」になっていて笑ってしまった。そして想い人の渚(佐久間由衣)からの電話がかかってきて表示されたのは「あの人」だった。名前で登録しないタイプなのね。普通に会話して切り、彼女がお礼に持ってきてくれたというアイスを「会計課の誰かに渡しておいてください」と伝えたけども「アイス、何味かな」とつぶやくのが何だかフラグみたいで怖い。声をあげちゃって自分の口を押さえるの、ちょっとかわいい。

”あの部屋”があやしいと気づいてしまった琉夏、様子をうかがっていると中から伸びてきた手に引きずり込まれてしまった。ああ……。

折り返しても出ない琉夏に不穏なものを感じた悠日と鈴之介は、走って家に向かう。家に帰ると弓弦がおにぎりを頬張りながら、女の人(星砂)がけがをしたので男の人(琉夏)が連れて行ったと説明する。途中で森園を見なかったかと聞かれると、その人が星砂と言い争っていたと説明を加える。この子、息をするように嘘をつくな……。怖い。

おかしいことに気づいた2人は本当のことを言うように説得するが、弓弦はハサミで鈴之介にけがを負わせる。弓弦は「またやっちゃった」と父親である雪松(伊藤英明)に助けを求めていた。鈴之介たちと対峙しているとき以外、ひっきりなしにメッセージを送っている。単なるサイコパスではなく、動揺しているのだろうか。

弓弦が閉じこもった状態で、雪松がやってきた。息子の犯罪を隠蔽してきたことを指摘されると、雪松は今までのことを告白する。はじめにキャンプで死んだ友人は、弓弦たちほかの4人が遊びのつもりでからかっていたら溺れて死んでしまったらしい(からかうにも限度があると思うが……)。

泣いて助けを求められた雪松は、死んだ子の靴を脱がせて川に流し、その子の遺体も川に流し、靴を取ろうとして溺れたと言いなさいと指示した。それも、必ず4人でやりなさい、と。前回「3人の少年たちを殺したのは私です」と告白したことから、キャンプで死んだ子のことは知らなかったのかと思ったが、がっつり知っていたしこのときから隠蔽ははじまっていたのか。

「大事な息子が泣いて助けを求めているのに、何もしないでいられる親がいるか」というようなことを言ったのだが、そのためなら誰かにとって大事な息子たちを殺して、罪のない人たちに濡れ衣を着せて、朝陽を殺してよかったというのか。身勝手すぎる。

そして、かばってそう言った可能性もあるが、弓弦はそのことをきっかけに人格が歪んでしまったらしい。”悪魔”をかばってきただけでなく、生み出したのも雪松だったということか。その後も自分たちのしたことに耐えられなくなった同級生たちを殺してしまった。「またやっちゃった」「靴は脱がせた」「どうしよう」と、そのたびに雪松に泣きついてきたのだ。どこか小学生のままになってしまったのかもしれない。

雪松は、なおも自分と取引きしないか、自分が罪をかぶって死刑になるから、黙っていてくれたらいいポストを用意するというのだ。鈴之介も指摘したように、雪松が罪をかぶって死んだとて、弓弦はまた新たな殺人を繰り返すだけだ。

鈴之介は、ある決意をする。雪松の指示で動くと声をかけるが、悠日に「摘木さんたちはもう駄目かもしれない。警察に引き渡されたらこっちは何もできない。やるなら今だ」と、コレクションのハサミの額を割る。そうか、もう3人とも殺されちゃったのかな。でも今までの人たち、みんな殺してるもんな、最悪の展開だ……。終わらせるために自分が引き受けようとする鈴之介の決意にも泣けてしまう。

様子を見にきた弓弦を引きずり出し、馬乗りになり、「悪魔(弓弦)を殺せるのは悪魔(自分)だけだ」というが、なかなか振り下ろせない。星砂たちのことを見に行った悠日は、ぐるぐる巻きにされているが彼らが生きていることに気づく。「生きてます!」その声を聴いた瞬間、ハサミを放って手錠をかけた。ハサミを拾った雪松は、泣きながら自分の喉元に当てようとする。鈴之介はやめろと首を振るが、弓弦を押さえているので動けない。でも雪松は死ねず、鈴之介はほっとするのだった。

3人は病院に運ばれ、悠日と鈴之介に囲まれて星砂は目を覚ました。
喜ぶ2人だったが、言葉を発した瞬間、スカジャンのほうの星砂だとわかる。僕ちょっとおトイレ、と咳を外す鈴之介。無事で本当によかったけど、うれしいけど、予想もしていたことだけど、切ない……。蛇女の星砂、「リサ(満島ひかり)を助けられれば私は消えたっていいんです」という言葉通りになってしまった……。

3人が無事で何よりだが、弓弦の行動には謎も残る。なんで弓弦は、今まで都合の悪い相手は殺してきたのに3人のことはすぐに殺さなかったんだろう。

スカジャンの星砂は、蛇女の星砂のことを気遣っていた。お互い今いないもう一方を気遣っていて、いい子たちなんだな2人とも。杏月(田中裕子)の言葉が沁みる。

「あんた、その子のことが好きなんだね」

「少しすれ違っただけだけどね、いい子そうだった。
ずっとあんたのこと守ってくれた子なんだよね。
だったらあんたの中にも、その子は生きてるんだね。
お別れじゃないよ。会えなくても、離れていない人はいるの」

今作は意外と出番少ないんだなと思ったのに、最後の最後にこんな名言を残す田中裕子さんよ……やはり坂元裕二作品の田中裕子、めちゃくちゃいい。

二重人格ものというと、片方がとんでもないサイコパス、みたいな設定は多かったが、こんな形もあるんだな。

そして、見ているほうも会えなくなった大事な人を思って励まされるような言葉だ。「大豆田とわ子と3人の元夫」で、突然亡くなった親友・かごめ(市川実日子)の話をしたとわ子(松たか子)に、小鳥遊(オダギリジョー)がかけた言葉も思い出して泣けてきてしまった。

「あなたが笑ってる彼女を見たことがあるなら、今も彼女は笑っているし5歳のあなたと5歳の彼女は、今も手を繋いでいて今からだっていつだって気持ちを伝えることができる」

坂元裕二さんのセリフは、たまにずっと苦しんできた思いみたいなものを救ってくれるから、好きだ。

なぜか、鈴之介の家で生活する悠日と星砂。蟹を持ってきた森園を家に入れまいと押し問答する様子がおもしろすぎて声出して笑った。彼が持ってきたグッドニュースは、リサが釈放されるというもの。事情を知らない森園は、迎えに行って差し上げてくださいと言うが……。

釈放の日、星砂はリサを迎えに行く。といっても、こっちの星砂はリサと面識がないのだ。おそるおそる声をかけると、リサは「どちらさま?」と言う。姿は同じでも、違う人だと一発で見抜いたのだ。さすがリサ、すごい!

喫茶店でナポリタンを頼む2人。目をつぶって、聞いてない振りして2人っきりで話させてくれないかな、というリサ。

「ただいま、星砂。待っててくれてありがとうね」
「これからはずっと一緒だよ」

泣いちゃう……星砂(蛇女)、よかったね。
その後の楽しそうにナポリタンを食べる2人がまぁ……。
いいシーンだなぁ。坂元裕二作品×満島ひかり×ナポリタン、ぐっときてしまうな。

悠日はクビが取り消しになり、総務課に戻れることに。
琉夏も渚との間にちょっと進展がありそう。
鈴之介はいい加減出て行ってくれと2人に言い、また独りに。
悠日に渡された、新しい住所のメモを捨て、でも後になってゴミ袋をひっくり返し、2つの林檎が出てきて「帰ってきたら林檎のむき方を教えて」と蛇女星砂に言われていたのを思い出して切なくなる……。

箱庭と、4人のコマを作った鈴之介。
切ないけど、得たものが何もかも失われたわけじゃないのかも。

ここで早めのエンドロール、まだあと10分くらいあるぞ? と思ったら、最高の続きが待っていた。

夜、ふと何かに気づき、家の外に出る鈴之介。
ドアの前に、星砂(蛇女)が立っていた。

風の気持ちいい夜、だった。
ああ……戻ってきてくれたのかな、と思ったけど、たぶん最後だから会いに来たんだという。そうか、やっぱりそんな都合のいい話はないのか。
でも最後に会いたいと思ったのが鈴之介だったんだというだけでも結構すくわれる。

2人で散歩しながら、星砂はずっと言えなかった言葉を伝える。

「鹿浜鈴之介さん、
あなたに会えて良かったです。
あなたのことを好きになりました。
あなたはとても素敵な人です。
これからも、あなたのことを想っています」

顔を両手で覆って泣く鈴之介がもう愛おしくて仕方ない。
こんなの泣いちゃう。切ないけど、よかったね……。

その後、楽しそうに話す2人がとってもよかった。
ちょっとした笑い話から、2人がどんなことを大事に思って生きているかわかる話まで。

「人にできることって、耳かき一杯くらいのことかもしれないけど、
いつか、いつかね
暴力や悲しみが消えたとき、そこにはね、僕の耳かき一杯も含まれてるかもしれないです。

大事なのは、世の中は良くなってるって信じることだって」

と言う鈴之介。

「大事なのは、ちゃんと自分のままでいることだって」

と言う星砂。

鈴之介と星砂(蛇女)も、悠日と星砂(スカジャン)も、どっちも出会うべくして出会って惹かれ合ったんだな。

別れ際、
「元気でいてくださいね」
「努力します あなたも元気で」
「努力します」
という独特なやり取りのあと、背を向けた星砂に鈴之介はお礼を言った。

「ありがとう、ありがとう、僕はもう大丈夫です」

胸がいっぱいだ。
最後に手を挙げたのはどっちの星砂だったんだろう。

鈴之介が序盤で「僕が大丈夫だったことは一度もありません」と言っていたのを思い出す。この物語はある意味、鈴之介の成長物語だったんだな。
いや、悠日の物語から始まって、グラデーションで鈴之介の物語になっていった感じだろうか。そしてそれぞれに、星砂の物語が絡んでいた。
欲を言えば、琉夏スピンオフももっと観たい。

悠日、琉夏、星砂(スカジャン)、星砂(蛇女)。誰か一人でもいなければ、今の鈴之介にはならなかった。そして、失ったものばかりではないし、もう元の孤独な鈴之介ではないのだ。

ひさびさに開かれた自宅捜査会議、なんだかうれしそうな鈴之介の顔が、そのことを物語っていた。

結局悪魔って雪松息子のことだったのか、雪松のことだったのか、星砂だったのか、初恋そのものだったのか……はたまた全部か。

ものすごく大切な作品のひとつになったことは間違いない。
あー、もう1クールやってほしい!
ありがとう、4人(5人)+(個人的には)森園。
ありがとう、初恋の悪魔。

最後に、めちゃかっこいいこの番組の最終章テーマ曲のMVを貼ってお別れしよう。



(文:ぐみ)


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