インタビュー

2022年10月24日

制作統括・熊野律時インタビュー「『舞いあがれ!』は善人しかいない、日常をすくいとっていく物語に」

制作統括・熊野律時インタビュー「『舞いあがれ!』は善人しかいない、日常をすくいとっていく物語に」


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朝ドラこと連続テレビ小説『舞いあがれ!』の制作統括・熊野律時チーフプロデューサーは、ヒロイン・舞がこれまでの朝ドラヒロインには少ないタイプであると語る。どんな点が特徴的なのか。また、舞のようなヒロインが今、誕生する理由、そして空を目指すヒロインに込めた思いとは――。

空を飛ぶことと人生のアップダウンを重ねて

――まず『舞いあがれ!』の構想はどんなふうにしてできあがったのでしょうか?

熊野律時(以下、熊野):構想は2020年から考えはじめました。脚本の桑原亮子さんに「朝ドラを書きませんか?」とお声がけしてお引き受けいただきました。まず、どんなドラマにするか話し合ったとき、桑原さんが飛行機好きなこともあって、空を目指すヒロインのアイデアが浮かびました。前向きで希望のある感じがして、今の時代に送るメッセージとしてふさわしいのではないかと思っています。

――2020年から企画を考えたということはコロナ禍の影響も受けていますか?

熊野:2020年にコロナ禍がはじまり、その影響で飛行機が飛ばなくなりました。桑原さんと、空を飛んだり行きたいところへ行ったりできることは、当たり前のようで実はとても幸運なことであることを見つめ直すいい機会ではないかという話をして、空を飛ぶことを人生のアップダウンと重ね合わせてドラマを作ろうと考えました。

――舞台が東大阪と五島列島です。まず東大阪にしたいきさつは?

熊野:飛行機は膨大な数の部品と優れた技術の結晶によって飛んでいるのだと桑原さんに言われ、なるほどと思いまして、モノづくりの街・東大阪を舞台にすることが浮かびました。町工場が多く、製造業の事業所密度日本一と言われている地区で、技術を積み重ねて生きてきた人たちがたくさんいますし、製造業は時代の影響を大きく受ける職種。挫折と再生ではないけれど、職人たちが大変な時期、どう生き抜いて先に進むかがドラマになりますよね。

――五島列島はどうやって決まりましたか?

熊野:東大阪のほかにもう一つ舞台になる場所が必要で、その場合、東大阪とは距離があったほうがいいから、島はどうだろうといろいろ検討したなかで五島列島を当たりました。そこでばらもん凧に出会ったんです。凧も飛行機と同じく空に向かうものであり、それも向かい風を受けて上がるのだと聞いて、これはいい、と。移動に便利ではない離島と製造業が盛んな街・東大阪と対照的な場所を舞台にすることに決めました。「向かい風を受けてこそ空高く飛べる」というドラマのキャッチコピーは、ばらもん凧から想を得たものです。凧はまさに向かい風を受けないと揚がらない、実に象徴的な存在です。五島列島ではばらもん凧を子どもの健やかな成長を願って揚げる風習があるそうで、ドラマのテーマとぴたり一致すると思いました。向かい風は主人公が経験する逆境やつらいことを含みますが、彼女に吹いてくる風は、向かい風だけではありません。いろいろな人の手助けや関係や絆というものも彼女を高く上げていく風と捉えています。生きていて、しんどいと思うことも多々ありますが、それを受け止めて、ポジティブに前に進んでいく力に変えていくことができるような生き方を、ヒロインを通して伝えていきたいです。

ヒロインと彼女を取り巻くキャラクターたち

――ヒロイン・舞のキャラクターはどういうふうに考えて作りましたか?

熊野:桑原さんとは、ひとりだけがんばって空に上がっていくのではなく、いろいろな人と手を携えて空高く上がっていくイメージを大事にしようと話し合いました。他者の気持ちがよくわかる舞は、出会った人たちそれぞれの個性や能力を尊重し、一緒に大きな困難を乗り越えていこうとします。ゆるやかにいろいろな人たちとつながって、一步一步、前に進んでいく。空に舞い上がるということは、未来や夢、希望、前向きというメッセージであると同時に、いろいろな事情や心情を抱えている人たちと一緒に、より幸せになることでもあります。桑原さんが言うには、舞は方向確認をする人なんです。前に進むとき、横や後ろをしっかり確認して、みんながついて来ることができているかなと気にしながら、誰一人置いていかずに進んでいくのです。

――舞役に福原遥さんを抜擢した理由を教えてください。

熊野:福原さんは、自分が先頭を切ってぐいぐい突き進むのではなく、周りの様子を感じながら、一緒に進んで行く舞にぴったりな方だと感じています。福原さんがいると、あたたかい陽だまりができて、そこにみんなが集まって、福原さんを真ん中にして一緒ににこにこおしゃべりしながらお茶を飲む、そういう空気感なんですね。なごやかに楽しい、心やすらぐ時間を過ごしていたら、気付くと本番になっている。そういう雰囲気の撮影現場になることが福原さんの魅力で、映像にもきっとそれが出ていると思います。

――舞の幼なじみを演じる赤楚衛二さんと山下美月さんの魅力を教えてください。

熊野:朝ドラでは幼なじみの存在が欠かせません。物語全般で、貴司(赤楚衛二)と久留美(山下美月・乃木坂46)が舞を支え、かけがえのない存在となっていきます。久留美は苦労人で自立して生きていく、地に足のついたキャラクターです。舞も地に足のつかないふわふわした人物ではないですが、空を飛びたいという大きな夢を持っているので、そういう舞と比べると対照的に地に足のついたキャラということです。違った目線でお互いのことをよく見ていて、何かあったときに気軽にアドバイスしたり、一緒になって喜んだり悲しんだりする関係となります。山下さんは丁寧にきちんと考えて話す堅実な方で、久留美の実直さにぴったりだと感じます。貴司は朝ドラの幼なじみにはあまりいない気がする内向的で不器用な性格で、人が当たり前に思っていることに合わせることをストレスに感じもしますが、優しい人物です。赤楚さんは貴司の繊細な部分をよく理解して演じてくれています。赤楚さんの資質もあると思いますが、男らしくたくましいというよりは中性的な感じもあって、舞が一緒にいて心地よい、思いを素直に語れる相手として長く関わっていきます。赤楚さんの柔らかい笑顔は魅力的で、舞が大変なときにホッとできる存在になったらいいなと思っています。

――人力飛行機サークル仲間役の高杉真宙さんと航空学校の同級生役の目黒蓮(Snow Man)さんも気になります。

熊野:人力飛行機サークルの先輩・刈谷博文役の高杉真宙さんは、サークルのなかで、ちょっとクセのある設計担当です。頭が良くてとがったこだわりをもっているため、周りとぶつかりがちですが、ピュアで思い入れが強いだけという、不器用さや熱いものを持っている人物です。それが高杉さんのお芝居と個性にはまりました。ひとりで強気でやっていくのかと思えばそうでもない、その微妙なところを高杉さんが出してくれてすごくチャーミングです。目黒蓮さんが演じる航空学校の生徒・柏木弘明はエリートパイロットの息子という設定で、舞の優秀な同級生。プライドが高くてとっつきにくいタイプの柏木と、突出した能力がなくコツコツと好きなことを懸命にやっていく舞は対照的で、最初のうち、柏木は舞にとって近寄りがたい存在です。でもチームで学ぶうちにお互いの良さに気付いて協力するようになります。飛行機は連携して飛ぶもので、チームワークが大事です。柏木も自分だけ突出していても事が回っていかないことを学びます。目黒さんの演技がすばらしく、例えば確たる自信がちょっと崩れたときの表情にハッとさせられました。

今作は「些細だけど切実なことをすくいとっていく物語」に

――前作の朝ドラはネットで視聴者が内容にツッコんで盛り上がりました。今回はどうなりそうですか?

熊野:そういうことは意識していません(笑)。桑原さんは派手な出来事を起こすような作風ではないですし、他者から見たら些細なことでも本人にしてみたら切実なことを丁寧にすくいとっていく物語にしたいとおっしゃっていて、それが結果的にドラマのテイストに表れていくのかなと思います。さだまさしさんが「この作品には善人しかいない」と言っていたのですが、本当にそうで。もちろん、欠点があったり失敗したりもしますが、それが悪い方向に行くことはありません。

――熊野さんが以前担当した『おちょやん』は、お父さんが朝ドラ史上最凶と言われ話題になりました。今回はそういう人は出ないと考えて良いでしょうか。

熊野:ははは(笑)。『おちょやん』は時代や芸能の世界という、日常よりもはるかに非日常寄りのクセの強い人たちが集まる場を舞台にして、劇的な人間関係を面白がっていただく方向で作りました。今回は全く違うテイストです。そもそも極悪人や生活態度が型破りな人にはそうそう日常生活で出会わないですよね。今回のドラマは、より日常生活に近いところを描きます。そこでも当然、行き違いとか勘違いとか、よかれと思ってやったのに相手にとっては迷惑だったり逆に事態が悪くなったりすることはあって。そういうことのなかで物語が転がっていきますが、特殊な人物や出来事はあまり出てこないと思います。最も異質で派手なのは飛行機かもしれません(笑)。

――桑原さんのほかに脚本家3人体制ですが、それぞれの個性の違いはありますか?

熊野:それぞれ個性はありますが、全体のコンセプト作りも担当の分量的にも桑原さんがメインなので、基本的には桑原さんの世界観をキープしていきます。同じドラマにもかかわらず違うテイストの回があると観ている人が戸惑うと思うので、そこはしっかりすり合わせながら、大きな一つの物語として作っていこうと思っています。

インタビュー全文は、10月17日(月)発売の『CINEMAS+MAGAZINE』にて掲載!

(取材・文=木俣冬)

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