(C)I.T.PLANNING,INC. (C)2022 SLAM DUNK Film Partners
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映画コラム

REGULAR

2022年12月03日

『THE FIRST SLAM DUNK』を褒めちぎりたい理由、そして思い知る原作の偉大さ

『THE FIRST SLAM DUNK』を褒めちぎりたい理由、そして思い知る原作の偉大さ

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2022年12月3日(土)より『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されている。

本作は1990年代に連載され社会現象を巻き起こし、シリーズ累計発行部数が1億7000万部を超えるバスケットボール漫画「スラムダンク」のアニメーション映画だ。

原作の連載とテレビアニメ版は1996年に終了しており、それからかなりの年月が経過している。公開日当日、朝の早い時間にも関わらず、おそらくは当時に熱狂していた、30代〜40代と思しきファンがたくさん劇場へと駆けつけていた。(それよりも若い方や、子ども連れもいた)

結論から申し上げると……『THE FIRST SLAM DUNK』は、本当に、本当に素晴らしい作品だった。間違いなく、今の劇場で観る価値がある。

1:ファンは感涙でき、一見さんでもおそらく楽しめる内容に



筆者は「原作を一応は全部読んでいた」程度で、それほど熱狂的なファンというわけではないのだが、それでも20年前以上前に親しんでいた原作の興奮を思い出して、そして映画の内容そのものに感動して涙した

いやもしかすると、熱狂的なファンで完璧を求める人ほど、細かいところで不満も出てくるのかもしれない。だが「スラムダンク」の魅力を「わかっている」スタッフとキャストが、後述するアプローチでできることを最大限にやり切っているので、全面的に否定する意見はほとんどないと思うのだ。

それでいて、本作は実は「スラムダンク」を全く知らない、一見さんでも楽しめる内容であると思う。不自然すぎない程度に、キャラクターそれぞれの特徴を示すセリフが用意されているので、何も知らなくても十分に把握できると思うのだ。きっとこの映画で初めて「スラムダンク」に触れた方も、原作を読みたくなることだろう。

そして本作は、事前に明かされている情報がとにかく少なく、あらすじすら不明という現状がある。そのため、ここでも物語の詳細はいっさい明かさないで、さらなる本作の魅力を記していこう。

2:絶対に「映画館」で観てほしい理由がある


『THE FIRST SLAM DUNK』は映画館で映画を観る意義を最大限に感じられる作品だ。

その理由の1つが、劇中のバスケの試合にも「観客」がいることだ。この映画を観ている観客は、試合を観ている劇中の感覚と一致する。もしくは「ベンチ」にいるチームメイトに同調して、試合で活躍する仲間を応援する気持ちにもなれるだろう。

2つめの理由は「音」の演出が素晴らしいことだ。ボールや相手チームの身体がぶつかる音、シュートの瞬間の音、盛り上げどころでかかる音楽でのギターの響き、それぞれが超一級品。そして、映画館でこそ体験できる興奮に「無音」の演出がある。ここぞという時に、音がない、もしくはごく一部の音だけを鳴らすことで、試合の映像にだけ集中できるし、選手の「研ぎ澄まされた感覚」を演出しているように思える。

3つめの理由は、これこそがいちばんの理由なのだが、たくさんの観客と共に「固唾を飲んで見守る」体験ができることだ。頑張れ、頑張れ……!という、まさに目の前の選手を応援している空気と一体感は、絶対にスマホやタブレットでは味わえない。なるべく多くの席が埋まっている回を、ぜひ狙って観に行くことをおすすめする。

3:事前の炎上を覆す、豪華キャスト陣の最高の演技


ご存知の方も多いだろうが、本作は「声優の交代」のニュースが炎上してしまっていた。その主たる問題は、映画の公開が1ヶ月後に迫ったタイミング。テレビアニメ版の声優の続投を望んでいたファンが多かったにもかかわらず、前売り券を販売した後に発表したことに批判が殺到していたのだ。

だが今回に起用された豪華な実力派の声優陣は、それぞれがキャラクターの印象にバッチリハマり、かつその演技そのものにも感動がある、求められる以上の最高の仕事をしていたのは間違いない。筆者はテレビアニメ版をかいつまんで観ている程度で、ほとんど思い入れがなかったということもあるかもしれないが「漫画のイメージそのままだ!」と思えたことにも感動があったのだ。

ちょっと斜に構えたところもある宮城リョータ役の仲村宗悟、やさぐれた時もあるも熱い信念を持つ三井寿役の笠間淳、棘もあるがクールな流川楓役の神尾晋一郎、お調子者で自信過剰だがハートも強い桜木花道役の木村昴、リーダーシップに溢れた赤木剛憲役の三宅健太など、文句のつけようがない。いまだ公式には発表されていない、他キャラクターも全員が全員とも素晴らしい。

なお、松井俊之プロデューサーは公式サイトのインタビューで「井上雄彦監督は声優さんを選出するのに“演技の質”より先に、その人が自然に日常話す時の“声の質”にこだわっておられたので、私としてはオーディションはできるだけフラットに、幅広い選択肢の中から自由に探求させてあげたかった」などと、声優のキャスティングについて語っている。

実は、本作は試合シーン以外の日常の「物語」にも重きを置いた内容でもあり、その日常のドラマにも声優陣の熱演もあって感動できたのだ。

4:原作者である井上雄彦が監督・脚本を務めた意義が「物語」に最大限反映された


さらなる重大なトピックとして、原作者である井上雄彦が監督・脚本を務めているということがある。漫画の作者がアニメ映画を初めて監督をすることに不安の声もみかけたが、例えば『AKIRA』は原作者の大友克洋自身がアニメ映画の監督も務めており、『風の谷のナウシカ』も宮崎駿が原作となる漫画を描きつつ着手していたりもするので、そのアプローチで名作が生まれた例は確かにあるので、期待できる要素だった。

実際の本編では、もう「井上雄彦先生ありがとう……!」と感謝を告げるしかない。さすがは作者本人だと思える「原作愛」を、これでもかと感じたのだから。観たかったあのシーン、聞きたかったあのセリフ、その再現そのものにももちろん感動したのだが、さらに賞賛すべきは前の展開が後に呼応している、物語の完成度だった。

具体的な展開は秘密にしておくが、誰かのネガティブな言動が後に「反転」して、ポジティブなメッセージとして跳ね返ってくる。そのいくつかは原作からあったものでもあるのだが、公式に明かされていないある大きな主軸となる物語と、漫画で読んでいたシーンにさらなる描写も追加され、それも伏線となっていたのだ。原作から取捨選択されている部分もあるが、ダイジェストのような雑な印象はない。もちろん誰よりもキャラクターへの愛が深い井上雄彦自身によるものなので、ほとんどの人にとって解釈違いもならないだろう。

ちなみに、その大きな主軸となる物語は「原作でこういう設定あったっけ?」と思った方もいるだろう。だが、それは井上雄彦自身が(筆者も今回調べてみて初めて知ったが)「実はこの映画よりも前に考えていた」ものだったのだ。気になった方は今回の物語で打ち出された、とある重要な要素を検索してみてほしい。その物語をこの映画で活かしたことに感動する、井上雄彦のファンもいるだろう。

個人的には、描かれているのは確かに「スラムダンク」の物語ではあるのだが、同じく井上雄彦による漫画『リアル』のテイストも強く感じた。「熱血スポ根もの」というよりも、落ち着いた“静”の演出も重視したドラマとしても側面も強く感じたのだから。人間の弱さを鋭く、でも優しく描く『リアル』にあった、井上雄彦ならではの魅力が、存分に発揮されていることも間違いない。

余談だが、筆者が子どもの頃に原作を読んでいて「『スラムダンク』は雑誌でその話だけ読んでも魅力があまり伝わらないよね」と話していたことがあった。もちろん画の1つ1つが大迫力なのだが、単行本でしっかり読んでこそ試合の流れやキャラクターの熱い気持ちが伝わると思っていたのだ。

今回の映画で「一気に物語を追った」ことでも、『スラムダンク』がいかに大きな流れのもとに構築された作品であるかも再確認できた

4:キャラクターが「生きている」3DCGのバスケの見事な動き



さらにさらに重大なトピックとして、3DCGを活用した映画であることがある。実は、松井俊之プロデューサーは公式サイトのインタビューで、企画を持ち込んでも断られたことや、パイロットフィルムを5年間の間に計4本も製作し、そのうちひとつには映画1本ぶんのカロリーがかかっていたなどの、企画の実現までの尽力、いや執念を語っている。

井上雄彦本人からも「一番はキャラクターが生きていない、あいつらがそこに生きて動いている感がない」という厳しい言葉と共に「NO」を突きつけられたこともあったそうだ。

つまり現状の本編は、そうした「井上雄彦本人が求める高いハードルを乗り越えた」ものということだ。そして前述した声優陣の熱演のおかげもあってか、おなじみの「あいつら」たちが生きている姿が確かにあった、そして井上雄彦というその人にか描けない「手描き」のイメージも見事に3DCGにマッチしている。知っている、カッコよくて、愛おしい「あいつら」がそこにいたのだ。

バスケの動きひとつひとつをとっても「本当のバスケの動きそのものだ!」と思えることに感動があった。アニメは時に、現実の世界におけるあらゆる動作を「こうなんだよなあ」と思えるほど細やかに表現することにも感動がある媒体だと思っていたが、『THE FIRST SLAM DUNK』は3DCGでその魅力を極限まで持っていっていた。

そして漫画で読んでいた、後述するが良い意味での「一枚絵」でもあった原作のシーンが、「動き」で表現されていることそのものにも感動がある。原作の見せ場が「空間」を持って示される、だからこその没入感があるというのも、3DCGならではの魅力だろう。

まとめ:原作の偉大さを、それでも思い知る


ここまで絶賛し尽くしたが、ひとつだけ「思い知らされた」ことがある。それは、当たり前すぎることだが、原作「スラムダンク」が「漫画作品として偉大すぎた」ということだ。何しろ、ここまでスタッフとキャスト陣が全力を尽くし、誠実に作り上げた作品であっても、原作を読んだ時の、あの「ページをめくるのが惜しいほどの興奮」は超えなかったのだ。

映画館で観てこそ音の演出も、キャストの熱演も、井上雄彦自らが作り出した物語も、本物のバスケそのままの3DCGの出来も、完璧と言えるのに、それでも「原作漫画」が改めて読み返しても「一番」というのは、おそらくは漫画ならではの描きこまれた「1枚絵」で物語を紡いでいく手法がいかに優れているか、ということだと思う。

「アニメ映画でここまでした」ことがわかっているのに、そう思ってしまうことは、ある意味ではショックでもあるが、それほどに「スラムダンク」が「不動」の漫画作品であることがわかって嬉しかった。

だが、それ以上に『THE FIRST SLAM DUNK』は素晴らしいところがたくさんある、「アニメという映像でこその『スラムダンク』」になっている。大興奮した理由もある。涙を流した理由もある。

26年前に完結した、多くの人が熱狂した物語を、これ以上はないほどの形で再構築し、スクリーンで見届けることができるのは、もはや奇跡だ。ファンならずとも、今のリアルタイムで、当時と同様の熱狂を、体感することを願っている。

(文:ヒナタカ)

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