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2022年12月22日

ドラマ「silent」に心を鷲掴みにされるワケ

ドラマ「silent」に心を鷲掴みにされるワケ



日々を忙しなく生きていく中で心の隙間を埋めてくれるような、まるで自身が登場人物と錯覚してしまうかのような、そんなドラマが時々、私たちを苦しめる。この苦しみは、人生を豊かに彩ってくれる“片想い”のようなときめきを感じられるものでもある。

ドラマ「silent」

放送終了後のSNSは情緒溢れる感想で埋め尽くされ、翌日馴染みのある人と会ったときには手話が挨拶代わりとなる。それは「プリン」だったり「ずっと」だったり、その時によって様々だ。これほどまでに私たちの生活の中に浸透しているドラマ「silent」が、ついに結末を迎えてしまう。

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深く深く、入り込んでくる「silent」の魅力



いちドラマ好きの観点で見ても「silent」ほどのコンテンツ力を持っているドラマは、そう多くはないと断言できる。意を決してテレビの前に座り、スマホやPCなど気が散乱してしまうものはそっとテーブルの隅に寄せ、ぐっと集中して向き合う54分間。この感覚は、ちょうど1年前に放送されていた「最愛」以来だ。

“タイパ”や“ネタバレ消費”が台頭するこの時代に、「silent」に対しては贅沢に時間を使うことが許されるーー1秒たりとも見逃せない、目を離したくない「silent」の世界に、どっぷりと浸らざるを得ないのである。

「silent」の要となる脚本を手掛ける生方美久氏は、第33回「ヤングシナリオ大賞」大賞受賞時、このようなことを語っていた。

「坂元裕二さんみたいに、唯一無二といわれる脚本家になりたい」

繊細且つリアリティのある言葉選び、時折登場するファミレスのシーン、人物名の音の響き方……どことなく“坂元裕二っぽさ”を感じていたことは必然だった。ちなみに、本作の劇伴は「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」でお馴染みの得田真裕氏。これまた坂元裕二作品だ。

殿堂入りドラマをも彷彿とさせる「silent」。懐かしさを感じさせるエモーショナル加減も間違いなく魅力のひとつだ。ただ、ここまで人々を魅了する理由はもちろんそれだけではない。

■さりげなく、ズシリとくる伏線



第1話冒頭、高校時代の紬(川口春奈)が想(目黒蓮)に駆け寄った時、彼は耳にイヤホンをつけていた。

「静かだね」
「うるさい」

後々、想の現状を把握するからこそ胸が痛くなる動作と言葉たち。

「そういう刷り込みがあるんですよ。偏見っていうか。手話。耳が聞こえない。障がい者。それに携わる仕事。奉仕の心。優しい。思いやりがある。絶対いい人だろうなって勝手に思い込むんですよ。ヘラヘラ生きてる聴者のみなさんは。」

「はじめから出会わなければよかったって。この人に出会わなければ、こんなに悲しい思いしなくて済んだのにって思いません?」

「特別扱いはもちろん違うし、ただ平等に接することが正解だとも思わないんです。手話ができるってだけで、わかった気になりたくないんです。どうしたって僕は聞こえるので、分かり合えないです。」



当初、なんでもない存在だと思っていた春尾(風間俊介)の、若干の毒味も感じさせる意味ありげな台詞たち。第8話での奈々(夏帆)との回想シーンですべての点が線となる。

「想、今どこでなにしてるか、知らない?」
「湊斗が知らないなら誰も知らないでしょ」

湊斗(鈴鹿央士)にとっての想が、どれほど大きい存在なのかがわかる1往復のやりとり。同時に、一緒にいる同僚が高校の同級生であることもわかる秀逸さに脱帽だ。

「好きな人がいる」

結果として、紬のことを思うがための言葉だったということは、想と湊斗の紬への想いの大きさから見て取れる。だがしかし、紬のみならず、全国民のトラウマとなったことは言うまでもない。

ショーウインドウに飾られた青いハンドバッグを見つめる奈々。たったこの一幕から、聴者とろう者の絶対に超えられない壁を見せつけられる。

人物名から連想される青色と桃色は、聴者とろう者の線引きなのかもしれない。

紬が無意識のうちに誘い込んだてんとう虫によって湊斗から幸せを奪ってしまった、だなんて思いたくない。タンポポを連想するふわふわのヘアピンは捨てられたのに、パンダのぬいぐるみは手放せずにいる。実は想の口癖だった「晴れてるね」。本当、仲良しだね。

一筋縄ではいかない複雑に絡み合った人間模様がさりげなく組み込まれ、はっと気付いた瞬間に胸にズシリとくる数え切れない伏線たちこそが、「silent」の魅力なのである。

想像力が膨らむストーリー展開にまんまと夢中になっていく



「silent」が単なる“圧倒的正統派ラブストーリー”だったら、これほどの話題性は生まれていないのではないだろうか。「画面を見続ける必要があるから」という理由だけでは、ここまでの熱量は生まれていないのではないだろうか。

いやでも想像力が膨らんでしまう「silent」のストーリー展開に、私たちはまんまと夢中になっていっていく。

結末を迎えても、「Subtitle」を聴くたびに「silent」のことを思い出してきっと泣いてしまうに違いない。

(文:桐本絵梨花)

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