「舞いあがれ!」お父ちゃん急逝に「うそや」永作博美の名演技に震えた<第66回>
本作は、主人公が東大阪と自然豊かな長崎・五島列島でさまざまな人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。ものづくりの町・東大阪で生まれ育ち、 空への憧れをふくらませていくヒロイン・岩倉舞を福原遥が演じる。
本記事では、第66回をライター・木俣冬が紐解いていく。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
▶︎「舞いあがれ!」画像を全て見る
「舞いあがれ!」をU-NEXTで視聴する
お父ちゃん…
工場の起死回生を目指して、新製品のネジを本注文の前に作り始めた浩太(高橋克典)。ところが、取引先の設計が変わって取引がなくなります。もし注文されたら納期に間に合わないから先に作り始めたことが仇になりました。こういうことって町工場でなくてもあります。例えば、企画が通る前に書き始めてと編集者に頼まれて書いていたら企画が通らなかったなんてこともあります(涙)。本注文を待つか先に動くか、どちらにしてもリスクがある。そんなときどちらを選ぶかーー。人生、選択の連続です。攻めるか守るか、攻めに出た浩太は選択を誤ってしまいました。でもこれは紙一重のことで誰が悪いわけでもありません。
そうまでして守りたかった工場。浩太が愛する仲間と積み上げてきたノウハウがある場所で浩太の話を聞く舞(福原遥)は、もっと手伝いたいと思うようになります。飛行機、どうした? と客観的には思いますよね。でもちょっと待って。こういうときは情にほだされてしまうものですし、舞がしたいことはたくさんの人たちの思いを背負っていくことであって、飛行機もそのひとつなのだと思います。
浩太とめぐみは、悠人(横山裕)にもほんとうの夢を叶えてほしいと言います。ドライな金融業だって彼のやりたいことで、それを夢ではないと断じてしまうのはいかがなものかとも思いますが、パイロットや金融や製造業という表面的な職業のことではなく、なぜそれをしたいのか、そのことの本質を見ることが大切なのです。つまり、舞も飛行機を作る→飛行機を操縦する→町工場を再生したい という変遷は決してブレてはいないのです。職業は彼女の夢(人生観)の本質に気づいていく過程なのです。
飛行機を作る→飛行機を操縦する→町工場を再生したい
胃潰瘍で入院する→復帰する→心臓発作で死亡
ともすればこれを物語と思ってしまいがちですが、これは物語ではありません。→やじるしの部分に物語があるのです。「舞いあがれ!」は→部分を書いています。これが「丁寧に描く」ということです。場面場面の人と人との心情のみならず、主人公の人生の道程(→)を丁寧に描くのです。
第66回の丁寧さは、死に至るまでのストロークです。浩太が突然に逝ってしまいます。病院で一瞬ポカンとして「うそや」と言いながらどんどん感情が昂ぶっていき医者にすがるめぐみ。永作博美さんの迫真の演技で涙が出ましたが、ドライなことを言えば、浩太の死は物語上必要な点です。胃潰瘍になって復帰してとひねりを入れてはいるものの、文字にすると、前述した「胃潰瘍で入院する→復帰する→心臓発作で死亡」と事務的な味気ないものに過ぎません。が、そこへ至る前に、めぐみ(永作博美)が働きすぎて工場で寝てしまい浩太が心配して探しに来てくれたという過去のエピソードを舞に語ります。それが、浩太の死と重なるようになっています。夜、めぐみが心配して電話すると浩太が出ません。心配して工場に見にいくと、事務所で倒れている。めぐみを心配してくれた浩太と、浩太の死に間に合わなかっためぐみ。だからこそ余計に哀しみが募ります。
また浩太の選択も、悠人に「損切り」するように助言されたり、彼が自分を信じることだと雑誌のインタビューで自信満々に語っているのを読んだりするなかで、損切りはしたくないし、俺だって自分を信じて勝負に出るのだという、父として、同性の男としてのプライドだったのではないかと思うと、また悲しくなるのです。
ひとりの父親の死に至るまでにじつにたくさんの心情が読み取れます。これが物語の楽しみです。
(文:木俣冬)【朝ドラ辞典 死(し)】
たいてい途中で誰かが死に、それが主人公のターニングポイントになる。主人公の死で終わることもある。
木俣冬著「ネットと朝ドラ」、現在好評発売中。
「舞いあがれ!」をU-NEXTで視聴する
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C)NHK