『レジェンド&バタフライ』公開!名作・織田信長映画“3選”
2023年は、どうやら織田信長の年のようだ。
本年度の大河ドラマ「どうする家康」では、岡田准一師範演じる世紀末覇者のような信長が、お茶の間の戦慄を呼んでいる。「俺の白兎」が、筆者の中での流行語大賞となった。
そして1月27日(金)、ついに『レジェンド&バタフライ』が公開された。創立70周年記念作品で織田信長を取り上げるとは、さすが俺たちの東映である。本作は木村拓哉が信長を演じている。濃姫(帰蝶)は綾瀬はるかだ。ここまで美しい信長と濃姫なら、スクリーンで観ないともったいない。
筆者は、三英傑(信長・秀吉・家康)の中では断然信長派なので、この“演技派ジャニーズ信長対決”が楽しくて仕方ない。だがもちろん信長俳優は、師範やキムタクだけではない。古今東西あらゆる名優が信長を演じ、敦盛を舞い、本能寺で果てた。
この記事では“信長映画”の名作を紹介しながら、織田信長の生涯をたどっていきたいと思う。
>>>【木村拓哉】時代劇の原点『武士の一分』を振り返る|『レジェンド&バタフライ』公開!
『風雲児 織田信長』1560年、桶狭間の戦い
★1959年・河野寿一監督
“尾張の大うつけ”だった信長がブレイクするきっかけとなったのが、この桶狭間の戦いだ。“海道一の弓取り”の異名を持つ今川義元を、およそ10分の1の兵力の信長軍が討ち取ってしまった。信長の天下布武への道のりは、この勝利から始まったと言ってもいい。
この桶狭間の戦いを描いているのが、1959年の東映映画『風雲児 織田信長』である。
1959年。64年前だ。いきなり半世紀以上も昔の映画ですまないが、騙されたと思って観てほしい。面白いから。ちゃんとカラーだから。
この作品は、信長の少年時代から始まる。もろ肌脱ぎで瓜を齧り、父・信秀の遺影に灰を投げつけた頃だ。信長を演じるのは若き日の萬屋錦之介(当時は中村錦之助)。名作『宮本武蔵』(1961年、内田吐夢監督)の1作目もそうだが、この時期の錦之助の“元気があり余った悪童”っぷりがいい。とてもいい。やたら動き回り走り回り笑いまくり喋りまくる。止まったら死ぬんだと思う。
そんな中、お目付け役・平手政秀が自害する。この出来事が、大うつけが“あの織田信長”になるきっかけとなる。この平手政秀は「じい」と呼ばれる少年・信長の教育係であり、信長はこの「じい」が大好きである。その「じい」が、信長に「うつけをやめるように」との遺書を残して腹を切る。その後の信長の取り乱し方が凄まじい。なぜか海に入り、暴れまくって泣きわめく。おそらく「じい!!なぜ死んだ!!」とか言っているのだが、泣きじゃくっているのでよくわからない。
その様が、滑稽で、無様で、観ているこちらまで身を引き裂かれるように悲しい。覚醒し、今川義元を討ち取った信長の、妻・濃姫と共に夜空を見上げながらの呟きと共に、映画は終わる。
「俺の戦はまだ終わってはおらんぞ。信長の戦はこれから始まるのじゃ。尾張の大うつけで終わるか、天下を取るか……」
この少年漫画の最終回のようなラストには、胸が熱くなること必至だ。さすが俺たちの東映である。
『火天の城』1576年、安土城建立
★2009年・田中光敏監督
感動のラストから16年(映画としては50年)がたち、もはや天下人となった信長は「天高くそびえ立つ天下一の城」を作らせる。それが安土城だ。筆者は、実家が安土城(跡)まで自転車で数分の距離に位置しているため、このお城への思い入れは深い。
『火天の城』で信長を演じるのは椎名桔平である。この時期の彼の鋭さは、信長のパブリック・イメージにもっとも近いと思われる。つまり怖い。抜き身の日本刀のようである。実際、怒ったらすぐに刀を抜く。
この怖い怖いお屋形様から安土城作りを厳命されたのが、宮大工・岡部又右衛門である。演じるのは名優・西田敏行だ。「西洋風にオシャレな吹き抜けにしろ」だの、5年かかるところを「3年で作れ」だの、お屋形様が次から次へと難題(というかわがまま)を吹っ掛ける。
そのたびに西田敏行が、あの“日本一の困り顔”を浮かべて走り回るのだ。だがこの西田又右衛門、ただのイエスマンではない。できないことはできないと言う。お屋形様が怒って刀を抜こうとも、断る時は断る。おびえながらではあるが。ここに来て、あの“困り顔”が俄然かっこよく見えてくる。
やがて又右衛門は、死ぬ思いで(実際何人か死者も出しながら)天下一の城を完成させ、紆余曲折の末に映画はハッピーエンドを迎える。しかし現実の安土城は、わずか数年で消失してしまうのである。無情だ。現存していれば、筆者の地元もさぞかし観光客でにぎわったはずである。残念でならない。
『本能寺ホテル』1582年、本能寺の変
★2017年・鈴木雅之監督
いよいよ本能寺の変である。又右衛門が泣きながら作り上げた安土城にまだ3年しか住んでいないのに、信長は死んでしまうのだ。これがせめて「安土城の変」であったなら、筆者の地元も今頃は……。
“本能寺の跡地に建つホテルのエレベーターに乗った繭子は、なぜか天正10年6月1日、つまり本能寺の変の前日にタイムスリップしてしまう”
最初にはっきり言ってしまうが、非常に“ベタ”なタイムスリップものである。
“恐ろしげな信長を最初は毛嫌いしていた繭子だが、実は優しい信長の心根に触れ、徐々に好意を抱くようになる。しかし明日は本能寺の変だ。そのことを話して信長を逃がしてしまっては、歴史が変わってしまう。さあ、どうする繭子!”
……というストーリーを観る前に想像し、いやいや、そこまでベタではないだろうと思っていたら、そのまんまのストーリーだった。
ではつまらないのか。いや、すこぶる面白い。この作品を観ずして信長を語ってはいけない。信長を演じる堤真一、繭子を演じる綾瀬はるか、信長の小姓・森蘭丸を演じる濱田岳。とにかく、この3人がすばらしい。いい演者がいい芝居をしたのなら、物語は王道でいい。ベタでいい。ひねる必要はない。
特筆すべきは堤真一だ。信長の怖さと優しさを、同時に体現してしまった。考えてみれば、堤真一がメインキャストに名を連ねて面白くなかった作品が思いつかない。日本映画界の宝だ。今まであらゆる作品で本能寺の変を観てきたが「信長様ーー!!死なないでーーー!!」と本気で思い、いい年した男が涙までしてしまったのは、『本能寺ホテル』だけである。堤信長が、泣きたいぐらいにかっこよかったからだ。
この記事は、ここで読むのをやめてもらってもいい。今すぐ『本能寺ホテル』を観てくれ。
そして『レジェンド&バタフライ』へ
3本の映画を通して、織田信長の人生を追いかけてみた。
織田信長というキャラクターは、本当に面白い。うつけ時代の悪童っぷりも、暴君となってからの恐ろしさも、かと思えば、たまに見せる優しさ・かわいさとのコントラスト(ずるい)も、あと一歩で天下を取り損ねた悲劇性も、すべてが映像に映える。そりゃあ、古今東西あらゆる作品で描かれ、いろんな俳優が演じたがるはずだ。
ところで時代劇での木村拓哉には『武士の一分』という名作がある。とあることから失明してしまった侍が、それでも武士としての意地を守るために、刀を抜いて戦うという物語だ。
あの時の“孤高のサムライ”が、今度は織田信長を演じるという。『本能寺ホテル』で信長と結ばれなかった綾瀬はるかが、今度は信長の正妻・濃姫を演じるという。
その映画『レジェンド&バタフライ』は、もう公開している。今この記事を読んでいるあなたも、パソコンをシャットダウンし、スマホの電源を切り、映画館に走るべきだ。
この作品は、スクリーンで観ないともったいない。
(文:ハシマトシヒロ)
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