『レジェンド&バタフライ』を究極の三角関係から紐解く


信長と濃姫と光秀


そんな中、濃姫が病に倒れる。濃姫を安土城に引き取った信長は、甲斐甲斐しく看病をする。
10代半ばで愛のない状態で結婚をし、その後も夫婦というよりは“バディ”という緊張感を保った間柄であり、一度は離縁したふたり。そんなふたりが50目前にして、初めて夫婦らしくなっていく。この温かみのあるふれあいにより、“魔王”だった信長は、また“人間”に戻っていく。


だが“魔王”でなくなった信長のことを、光秀は許せなかった。憧れ抜いた信長がただの人間になる姿など、見たくもなかった。弱くなってしまった信長を、誰かに討たせたくはなかった。だから、自分が殺そうと決めた。相当いびつではあるが、これもひとつの“愛の形”なのだ。凋落する前に死んでほしいという、狂信的なファン心理かもしれない。

燃え盛る本能寺の中で、信長は夢を見る。
濃姫と共に船に乗り、南蛮に渡る夢を。
戦の世が終わったらふたりで南蛮に渡り、名も捨てて気楽に生きたい。そんな話を、ふたりはしていた。

信長が自害したとき、病の濃姫も事切れる。ふたりで同じ夢を見て、南蛮に渡ったのだろうか。

ところでその夢だが



いい話でサラッと終わらせる予定だったが、やはり“その夢”について触れないわけにはいかない。

まず、本能寺で自害しようとした信長が、都合よく抜け道を見つける(この時点では、観てる人はまだ夢とは気づかない)。ちょうどいい所に馬がおり、急いで馬で逃げる。その頃安土城では、病のはずの濃姫が、元気に南蛮楽器を弾きまくっている。それがまためちゃくちゃ上手い。(この辺で、あれっ?と思う)

濃姫をピックアップした信長は、馬の後ろに濃姫を乗せ、そのまま南蛮船に乗り込む。甲板から仲良く海を眺めるふたりは、なぜか洋服を着ており、髪型も現代風になっている。まるで『タイタニック』のふたりのよう……って、これ夢やん! 

そう。夢である。本来「死の直前に楽しい夢を見る」という悲しいシーンなのだ。そのテンポとスピード感はスラップスティック・コメディのそれだ。往年のバスター・キートンの喜劇映画を観ているようだった。時代劇を観ているはずなのに。この夢のシーンが笑えれば笑えるほどに、その後の現実のふたりの死が、より悲しいものになるわけだが。

「実は信長は本能寺では死なず、濃姫と共に南蛮に渡り、幸せに暮らしましたとさ」

この結末バージョンも、観てみたかった気はする。それはそれで“伝説の映画”になったと思う。「東映70周年記念作品」をそんな結末にしたとしたら、監督の大友啓史と脚本の古沢良太を、筆者は死ぬまで尊敬する。


ただの悪ガキがひとりの女性と出会い、その女性のサポートで英雄となり、やがて魔王と呼ばれ、かと思えばその同じ女性のためにまた人間に戻り、人間に戻ったがために殺される。

織田信長が濃姫をさんざん振り回したと思われがちだが、実は逆だ。織田信長が濃姫に振り回される人生だったのだ。それは不幸だろうか?いや、最高に幸せな人生だと思う。33年間の長きに渡り、ただひとりの愛する女性に振り回され続ける人生。

男冥利に尽きるというものだ。

(文:ハシマトシヒロ)

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