(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館
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映画コラム

REGULAR

2023年02月21日

アニメ映画『BLUE GIANT』が全細胞を沸き立たせる大傑作である「5つ」の理由

アニメ映画『BLUE GIANT』が全細胞を沸き立たせる大傑作である「5つ」の理由



2:3人の若者たちの、ジャズに賭けた青春物語

メインの物語は「3人の若者たちがジャズバンドを組む」という、それだけのシンプルなもの。そして、3人がとても魅力的で、2時間の映画の物語の中で急激に成長するが、甘やかしたりもしない。だからこそ後述する「いつかは終わりを迎える」青春物語として、多層的かつ素晴らしい内容となっていた。

主人公の宮本大は「世界一のジャズプレイヤー」になることを信じて疑わない。サックスを初めてわずか3年で圧倒的な演奏をする「天才」だ。ともすれば感情移入しにくくなってもおかしくないが、実際は彼の「純粋さ」が他の2人の物語を大きく動かしていくことが何よりも重要だった。それでいて、彼は朗らかな面も見せているため親しみやすく、その天才的な演奏に見合う努力をしていることもタイトかつ存分に示されている。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

沢辺雪祈は「無意味」や「無駄」を嫌い、才能がある演奏者を「踏み台にします」と言い放つ。はっきり言って「常に上から目線」のイヤなやつだ。ピアニストとしての自信は一人前だが、人を見下すことをなんとも思っていない。いやそのことにも気づいてすらいない彼が、どのような壁にぶち当たり、そして前に進むのかも、大きな魅力となっている。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

玉田俊二は、ドラムにまったく触れたことのない素人。彼はあることをきっかけに2人の仲間になりたいと願うのだが、もちろん経験ゼロであることが雪祈から見下されるし、その技術が簡単に上達するはずもない。だが、それでも、彼は夢中になれるものを見つけて、青春を賭けて努力をする。もっとも多くの方から共感を覚えるキャラクターであるだろうし、その成長の物語そのものに感動があった。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

映画を観終われば、誰もがこの3人のキャラクターのことが愛おしくなるだろう。山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音、それぞれの演技と役のハマりぶりも完璧で、声だけでわかる繊細な感情表現にも感動があった。

3:超一流のジャズ奏者が、キャラクターの「らしさ」を表現した

もちろん、「音楽」そのものも魅力的だ。なにしろ劇中の音楽は、日本のジャズシーンのトップランナーであり、世界的に知られるピアニストの上原ひろみが担当。特に演奏シーンでの、書き下ろしとなるオリジナル楽曲それぞれがメロディアスで耳に強く残る。日常的なシーンでの音楽も担当しており、それぞれの場面もよりエモーショナルにしてくれていた。



加えて感動を増幅させるのは、オーディションで決まった超一流のジャズ奏者が、キャラクターの「らしさ」に合わせた表現をしていることだ。

例えば、主人公の大を担当する、満場一致で選ばれたというサックス奏者の馬場智章は、オーディション時には「艶っぽくて、大人っぽい音」だった。そのため、立川譲監督は「100%の力を毎回出しているような、突っ走っている感じ」とオーダー。音楽のディレクションも担当していた上原ひろみは「もうちょっと下手に」「大ちゃんぽくない」などと上手すぎたからこそのダメ出しをしたのだとか。それでいて、馬場智章自信は「大として演奏をするにつれ、彼の音楽への情熱や貪欲さがどんどん音になって表れるような気がしました」と、自身と役が一致していく感覚を味わったという。

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雪祈のピアノ演奏を担当するのは上原ひろみで、「少し背伸びをしたような」「距離を置いて俯瞰して見ている」ようなイメージで、自身が10代だった頃を思い出しつつ、やはり彼らしい演奏を追求し挑んでいた。しかも、上原ひろみは成長物語であるため、時系列に沿って演奏が変化していく表現にも気を配ったそうだ。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

また、玉田のドラムを担当する石若駿は、上原ひろみが指名している。彼もまた、初心者のぎこちないドラミングをスティックの持ち方にもこだわって、徐々に上手くなっていく様を表現し、その心情も自分なりに音に注入したという。実際に、素人が聞いても序盤の彼の演奏は下手だということ、そして成長物語に合わせて変わっていくこともわかるのだ。

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音楽そのものにも感動があるのに、さらに「キャラクターの感情が乗る」のだ。馬場智章は日頃から「その人を生み出す音はその人そのものを表す」と感じながら音楽に取り組んでいると語っており、それと同様のセリフは劇中にもあり、門外漢でも「ジャズの本質」を表す言葉であることがわかる。

つまり、演奏者がキャラクターの「らしさ」に合わせた表現をしたことが、物語の主題にも、ジャズという題材を扱う上でも必然だということだ。映画に限らず創作物は往々にして多数の要素が密接に絡み合っているが、『BLUE GIANT』はそれらが作品の魅力へ見事に結実している。

同じくジャズ奏者を主人公にしたアニメ映画『ソウルフル・ワールド』、「ジャズ柔道」という奇抜なアイデアと表現が面白すぎる『アイの歌声を聴かせて』、アカデミー賞作曲賞にノミネートされるほどのジャズの楽曲が全編に流れる『バビロン』を合わせて観ても、きっと面白いだろう。

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