【名言・名場面】NHKドラマ「大奥」を振り返る
八代将軍吉宗・水野祐之進編
【あらすじ】
貧乏な旗本の息子・水野祐之進(中島裕翔)は、身分違いな幼馴染との結婚を諦めるために大奥入り。その頃、就任したばかりの八代将軍吉宗(冨永愛)に夜伽相手として選ばれるが……。のちに吉宗は側用人の加納久通(貫地谷しほり)らと共に赤面疱瘡撲滅に動く。
7. 「今日からそなたは私の男じゃ」
最終回までの全9話を振り返ってみると、本作は初回の放送からしっかりと視聴者の心を掌握していた。もちろん脚本の素晴らしさもあるが、第一に冨永愛が演じる吉宗の完成度が想像以上の出来だったからだ。慎ましやかな掻取(かいどり)をピシッと着こなした冨永が御鈴廊下の入り口に立った時、「この実写化は成功だな」と誰もが思ったに違いない。時代劇初挑戦ではあるが、乗馬や殺陣を習っていたこと、また日本の歴史にも精通している冨永は説得力をもって女将軍・吉宗をこのドラマに存在させた。
また原作をただなぞるだけではなく、冨永ならではの吉宗になっていたことも多くの人の心を掴んだ理由であろう。冨永が演じる吉宗は原作よりもさらにチャーミングで親しみやすさがある。特に水野と夜伽を共にするシーンでは恋する乙女のような表情も見せており、とても愛らしかった。
だが、その後に「今日からそなたは私の男じゃ」と水野に迫る場面には、同性でありながら心がときめいたのを覚えている。
8. 大奥総取締・藤波の説法が深い
原作ファンの間で、この時代の大奥総取締・藤波に対して良いイメージを持っている人はあまりいないだろう。手に負えないほどの悪役ではないが、欲に塗れた男という印象が強い。特段大きな見せ場はないはずだが、やはり片岡愛之助をキャスティングしただけあって、しっかりとドラマでは見せ場を作っていた。とにかく吉宗や久通に「総触れはまだかまだか」とうるさい藤波。だが、そこまで頻繁に大奥の男たちと吉宗を会わそうとするのにはちゃんと理由があったのだ。その理由が分かったのは、吉宗が宿下がりを自ら申し出た藤波に暇金を渡す場面。この時に暇金を受け取る片岡の所作がそれはそれは美しいのだが、対する吉宗はとにかく事務的で情緒がない。そんな吉宗に藤波が最後に厳しくも愛のある説法を披露する。
「ここにおる者達は皆、上様の種馬にございます。けれど、それをあからさまにしてはあまりにも虚し過ぎる。故にあたかも情の通ったものに彩ってきたのが、ここ大奥にございます」
ここで、有功が大奥総取締に就任した時の言葉が活きてくる。同胞たちの苦しみを少しでも和らげる存在でありたいという有功の願いを、藤波もまた受け継いでいたのだ。最後の最後で大奥総取締としての矜持を見せつけられ、一気に藤波の株が急上昇した。
9. 吉宗と家重の抱擁
たったの数カ月でドラマ史に残る名シーンを数多く生み出した「大奥」。そして極め付きとして、観た人が絶対に忘れられない感動の場面を届けた。それが吉宗と、その娘である家重の抱擁だ。言語・排尿障害を患っており、自分が思うように身体を動かせなかったり、伝えたいことを上手く伝えられなかったりする家重。その難役を見事にこなしたのが三浦透子だ。決して褒められたわけではない行動の中に光る家重の聡明さや、その胸の内に抱えるもどかしさを表出させた。
「役立たずだから死にたい」という家重の苦しみに触れた時、吉宗はそこにある本当の願いに気づく。それは「生きるなら人の役に立ちたい」という願い。人に理解されにくいだけで、久通の言う将軍に最も大事な“他の者を思う心”を家重はきちんと持っていたのだ。
吉宗が家重の将軍としての器に気づくまでの展開もお見事であったが、吉宗と家重の思いが溢れんばかりの抱擁が胸を大きく揺さぶる。母親に認めてもらえた安心と喜び、娘の苦しみにこれまで気づけなかったことへの申し訳なさと未来を託す気持ち。双方の思いに泣けた。
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こうして振り返ってみると、改めて思う。NHKドラマ10「大奥」は脚本・演出・演技の3拍子揃った名作であったと。どれ一つ取っても欠けているところがない。
最終回もきっと涙なしには見られない名言・名場面を届けてくれることだろう。
(文:苫とり子)
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「大奥」作品情報
放送予定2023年1月10日(火)放送スタート (NHK総合)毎週火曜 よる10時~10時45分
※初回は15分拡大
出演
3代 徳川家光(堀田真由) × 万里小路有功(福士蒼汰)
5代 徳川綱吉(仲里依紗) × 右衛門佐(山本耕史)
8代 徳川吉宗(冨永愛) × 水野祐之進(中島裕翔)
原作
よしながふみ「大奥」
脚本
森下佳子
制作統括
藤並英樹
プロデューサー
舩田遼介
松田恭
演出
大原拓 田島彰洋 川野秀昭
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