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<過去最高の津田健次郎>『長ぐつをはいたネコと9つの命』攻めた「生と死」の哲学とは?



「限りある命」だからこその「人生の意義」


本作でもうひとつ重要なのは、主人公のプスが「今まで命知らずで無鉄砲なヒーロー」だったということ。というよりも、「9つの命のうち8つまでを使い切って」「次に死ぬとアウト」なため、一転して臆病になってしまう。あまつさえ、とある「終の住処」へと行きつき「隠居生活」をすることになるのだ!

前述した冒頭のアクションシーンでは、プスは実に大胆不敵……というよりも、相手を舐めきったような振る舞いで大立ち回りをしている。それは裏を返せば「何しようが死のうが生き返るから平気」なためだ。そんな彼が、「命がラス1」になると人(ネコ)が変わってしまうというのは、おかしいと共になんだか切ない。


そして、本作は「限りある命」を描いてこその、大人にこそ響く「人生の意義」を問い直すという構図がある。「死んでも平気だから怖くないしなんでもできる」というのは、それは本当に「生きている」と言えるのか? 「たったひとつの命」を失うことを恐れすぎて望まない生き方をしてしまっていいのか? いや「たったひとつの命」だからこそ人生は輝くのではないのか? などと、子ども向けとは思えないほどの「生と死」についての真理をついた哲学があるのだ。

しかも、そのプスの最後の命を奪おうとする、津田健次郎ボイスの最強の賞金稼ぎのウルフが、シンプルにめちゃくちゃ怖くて強い。その恐怖にプスがどう立ち向かうのか、そして何を得るのか? も見応えのあるドラマにもなっている。

さらに、犯罪組織のボスであるビッグ・ジャック・ホーナーは、部下たちが死ぬことに全く関心を抱いていない。今まで9つもあった「自分の命を大切にしていなかった」プスと、「自分以外の命を粗末する」悪役が、上手い対比になっているというわけだ。ていうか、子ども向け映画と思えないほど人が(しかもコミカルに)たくさん死ぬのも怖い。

余談だが、「ネコには9つの命がある」というのは、正確な起源は不明なものの古くからある伝承であり、イギリスのことわざとして「しぶとい」という意味もあるそうだ。命がいくつもあるネコの物語を描くという意味では、日本の名作絵本『100万回生きたねこ』を思い出す方も多いだろう。

不憫すぎるキャラからもわかる「生き方」の教訓


本作は「生き方」についての寓話(教訓を与える物語)だ。前述した通り、プスが「限りあるたったひとつの命」の大切さを学ぶというのも「人生じゃん……」と思わせるが、その他のキャラもなかなかに「攻めて」いる。

中でも、「ワンコ」というキャラの不憫さったらない。彼はどれだけ悲惨な状況にいても常にポジティブシンキングなため、若干……いや、かなりの「ウザキャラ」ではある。しかし、彼が語る過去は悲惨そのもので、それを笑い話というか明るく解釈しようとする様が切なくなって仕方がない。

このワンコで思い出したのは映画『デッドプール』。こちらもヒロインと共に語り合う子どもの頃の出来事が本当に悲惨だったからだ。そして、「笑いを持って悲劇性を覆い隠そうとする」作品の姿勢が、この『長ぐつをはいたネコと9つの命』と共通していたのだ。

また、劇中で「読む人によって変わる地図」がワンコにはどう見えるのかにも注目してほしい。ここで「これまで不幸であった者には良い道が待っている」「同じ道であってもより幸せを感じられる」と、「これから」のワンコの人生を優しく肯定しているようにも思えたのだから。


さらには、「3びきのくま」のリーダーであるゴルディ・ロックスも象徴的なキャラだ。彼女はくまではなく人間であり、「本当の家族」を探しながら旅をしている。彼女が道中で見る幻と、そして最終的にどのようなことを掴むのかにも注目してほしい。それもまた、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人にこそ響くものだろう。

そして、劇中では「プスとその元婚約者のキティとワンコ」「3匹のくまとゴルディ」「部下の命に無頓着なビッグ・ジャック・ホーナー」という、なんとも極端な3チームが、どんな願い事も叶うという「願い星」を巡っての三つ巴の争奪戦を繰り広げる(さらには最強の賞金稼ぎのウルフも加わる)。わかりやすくもあるが、それぞれの思惑が錯綜する物語そのものに工夫が凝らされていることもわかるはずだ。

そして、それぞれがどんな「願い」へと到達するのか?その感動的な結末もまたまた、大人こそが「じ……人生じゃん!」と感動できるのではないだろうか。『シュレック』シリーズと同様に、それが「よくあるおとぎ話」のアンチテーゼであると同時に、「もともとが童話だからこうなる」のだと納得できるのも面白い。

爆笑できる「かわいいウルウル目勝負」

本作はコメディとしても面白い、というか「かわいいウルウル目勝負」に爆笑できることも最後に告げておこう。「かわいいウルウル目」自体は『シュレック』シリーズでも繰り出されていたギャグだが、今回はさらにバリエーション豊かでくだらなさ(褒めてる)がマシマシになっていた。

しかも、そうしたギャグがそれ単体で面白いだけでなく、前述したようにそれが悲劇性と表裏一体で泣けるというのも、『スパイダーマン:スパイダーバース』との共通項だ。シンプルに「笑って泣ける」映画を期待する人にも『長ぐつをはいたネコと9つの命』を観てほしいと願うばかりだ。ていうか観てください。

(文:ヒナタカ)

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