(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会

映画『ヴィレッジ』藤井道人監督の作家性と7作品の魅力に迫る


7:『ヴィレッジ』(2023年)



ゴミの最終処分場がある村で希望のない毎日を送っていた青年の人生が、幼馴染の女性が村に帰ってきたことをきっかけに大きく動き出すヒューマンサスペンスだ。Disney+配信のドラマ『ガンニバル』にも通ずる村社会での貧困や閉塞感や同調圧力が良い意味でイヤな感じで抽出されており、もはや生き地獄の様相を呈しているからこそ、その後の「ガラリと変わる状況」に惹き込まれる物語となっていた。

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本作の素晴らしさは、横浜流星を抜きには語れない。彼の俳優としての力が、最悪な村社会での習慣や日常と見事にマッチし、ありとあらゆるタイプの横浜流星の満漢全席状態になっていたのだから。目に輝きがないどころか生気ゼロの横浜流星、希望を見つけて表情をガラリと変える横浜流星などなど……推し俳優の苦しむ姿など観たくないはずなのに、こういう横浜流星こそに圧倒されるし、もっともっと観たいと思わせた(一方で朗らかな好青年としての横浜流星も観られてほっこり笑顔にもなる)。

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他キャストも、いつもは朗らかながら暗い影を感じさせる黒木華、最悪な育ち方をしたジャイアンのような暴力性を見せ続けるため大嫌いになれる(超褒めている)一ノ瀬ワタル、弱々しい若者のようで多層的な印象を持たせる奥平大兼や作間龍斗など、褒め讃えるところしかない。スクリーン映えするリッチで美しい画、目まぐるしく状況が変化する物語に目が釘付けになり、それが良い意味で「ひどすぎて笑ってしまう(だがこうしたことは現実にもあると気付かされてゾッとする)」ダークコメディ的な領域にも達している、藤井道人監督の集大成だ。

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また、藤井道人監督は横浜流星とこれまでもタッグを組んでおり、この『ヴィレッジ』およびオムニバス映画『DIVOC-12』の中の『名もなき一篇・アンナ』が、憂いを帯びた横浜流星を美しく撮った映画の代表だろう。横浜流星のファンは、この2作を何よりも先んじて観てほしい。

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藤井道人監督の作家性とは

他にも、藤井道人監督はNetflixで配信のアニメを劇場公開した2021年の『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』で構成を担当する形で監督を、2023年の『生きててごめんなさい』で企画・プロデュースを務めるなど、多岐に渡り活躍している。しかも、1986年生まれで現在弱冠36歳と若く、すでに作品には巨匠の風格がありながらも、これからの成熟も期待できる方なのだ。

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そして、藤井監督作品では、巨大な権力に追いやられるなどして望まない状況にいて、同調圧力や一方的な価値観によって苦しんだり、生きづらさを抱えた人たちを主人公としていることがとても多い。それでいて、劇中で提示された問題を安易に解決させたりせず、悩みや苦しみに真摯に寄り添っている。それが藤井監督の作家性そのものであり、だからこそ村社会で絶望的な日々を過ごす青年を主人公とした『ヴィレッジ』はその集大成だと思えたのだ。

それでいて、作品それぞれがただ苦しく辛いというだけでなく、グイグイと惹き込まれるエンターテインメントに仕上がっており、映画館でこそ堪能してほしい洗練された画にも感嘆するものがある。繰り返しになるが、今もっとも日本映画の未来を担っている監督が、藤井道人だ。今まで知らなかったという方も、『ヴィレッジ』から観ればきっとわかっていただけるはずだ。2023年5月19日からとすぐに公開される、韓国映画をリメイクした『最後まで行く』にも期待したい。

(文:ヒナタカ)

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