©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
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音楽

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2023年06月15日

【推しの子】YOASOBI「アイドル」が心にぶっ刺さる理由

【推しの子】YOASOBI「アイドル」が心にぶっ刺さる理由

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アニメ【推しの子】の主題歌であるYOASOBI「アイドル」が、異例のヒットを飛ばしている。公開より2ヶ月でYouTubeの再生数は1.6億回を超え(6月14日時点)、コメント欄には日本語だけでなく、外国語で書き込まれたものも少なくない。さらに米ビルボードのグローバルチャート「Excl. U.S. top 10」(6月10日付)で首位を獲得した。

「アイドル」のすごいところは【推しの子】の主題歌であり、アイドルソングとしてノれる楽曲でありながら、YOASOBIの楽曲であるというさまざまな要素を完璧に共存し成立させたうえでクオリティの高い、心惹かれる楽曲だという点だ。

【推しの子】を知っている人にはもちろんのこと、知らずともアイドルを推してきた人にも刺さると思う。そして何度も繰り返し聴きたくなってしまう中毒性がある。

本記事では「アイドル」の魅力をさまざまな角度から紐解きたい。

何度も繰り返し聴きたくなる、中毒性のある楽曲



キャッチーなこの曲は、ひとつの曲にいろいろな要素が入っており、繰り返し聴きたくなってしまう中毒性がある。語りたいことが多すぎるためすべてについては語りきれないが、ここではアイドルに関する要素についてご紹介したい。

合いの手を入れられる“アイドルソング”

アニメソングでありながら、アイドルソングとしても成立している。アイドルソング特有の合いの手を入れられるような箇所がたくさんあるのだ。

イントロの「天才的なアイドル様」の後は“うりゃおい”と入れられるし(ここは好みがあるかもしれない)、サビ前の「誰かを好きになることなんて 私分からなくてさ」というBメロ部分ではPPPHという、リズムに合わせて3回手拍子した後に掛け声をかける合いの手が入る。

大サビ前の「誰かに愛されたことも 誰かのこと愛したこともない そんな私の嘘がいつか本当になること 信じてる」では、実際にTikTokライブでファンの方々もやっている、両手を捧げて前に出す動き(界隈によって「ケチャ」「ロミオ」などの名称で呼ばれる)をし、その後の大サビの入り「いつかきっと全部手に入れる 私はそう欲張りなアイドル」では手拍子をする。

ちなみに合いの手の声はREAL AKIBA BOYZが担当している。

推しを称える“讃美歌”要素

「アイドル」には、イントロなど随所に讃美歌のコーラス(クワイア)のような声が入っており、実際にその部分の歌唱は海外の方が担当している。

アニメの主題歌やBGMに讃美歌やクラシック曲のような要素が入るのは珍しいことではないが、「アイドル」に入るとファンが推しをある意味神のような神聖な存在として見ている一面やアイの完璧さとハマっていた。

この要素を入れるセンス、さすがだなと思ってしまう。先ほどのヲタ芸と同時に成立させてしまうのがまたすごい。

歌詞(ストーリー)



「アイドル」の歌詞は【推しの子】のストーリー、特に星野アイの物語にリンクしている。漫画と、漫画原作の赤坂アカによる書下ろし小説「45510」の内容が反映されており、原作へのリスペクトを感じる。そして好きなアイドルがいる人、いた人にも共感できる部分が多いと思う。

1~3番それぞれを【推しの子】を好きな人とアイドルファン、両方の立場から分析してみる。

1番:完全無欠なアイドル賛美

衝撃的なイントロとともに始まる1番は、アイがどれだけ特別で他にいない存在なのかを表現し、それを観ている第3者の視点で歌われている。

容姿やパフォーマンスのみならず、抜けているところや謎めいたところさえ彼女の魅力であり、人を惹きつける理由になる。


誰もが目を奪われていく 君は完璧で究極のアイドル 金輪際現れない 一番星の生まれ変わり
ここは、瞳に星を宿したアイのことというのはもちろん、アイドルを好きになり“推し”がいたことがある人には刺さると思う。

特に「金輪際現れない 一番星の生まれ変わり」という歌詞が天才である。こんなにも自分にとって推しが特別で唯一無二であることを表す歌詞が他にあるだろうか。人々がそれぞれの推しを好きな理由は人の数だけあるだろうが、例えば顔が好きという人の前に顔の似た他のアイドルが現れたとしても、もっと歌やダンスがうまい人がいたとしても、推しでなければ駄目なのだ。

アイへの賛美と人々が夢中になっていく様子をメインとしつつ、アイの“嘘”にも触れ、3番へのブリッジとなっている。

2番:アイドルへの負の感情



1番とは一転、ダウナーなラップで始まる2番は原作・赤坂アカによるオリジナル小説「45510」の内容にもあったような、アイへの嫉妬が描かれる。「B小町」で1人だけ圧倒的に人気だったアイは、他のメンバーに嫌われていた。嫌がらせをしたメンバーが辞めさせられたことすらあったことが書かれている。

アイ本人が悪いわけではないが、運営からの扱いも明らかに違う中、思春期の多感な女子たちが複雑な想いを抱えるのも仕方ない気はする。

そしてこの2番はアイを嫌いな人やアンチだけではなく、彼女を好きなファンからの、好きの先にある、好きだからこそ生まれてしまうある種ネガティブな感情についても描かれているところが秀逸だ。
完璧じゃない君じゃ許せない 自分を許せない 誰よりも強い君以外は認めない

弱いとこなんて見せちゃ ダメダメ 知りたくないとこは見せずに 唯一無二じゃなくちゃ イヤイヤ それこそ本物のアイ
「45510」の主人公である元B小町のメンバーは、アイに嫉妬していた一方で、アイに完璧でいてほしいと願うファンのような感情も持っていた。

【推しの子】の中に限らず、「こんなところが好き」だけでなく「こうあってほしい」という欲望が生まれてしまうことは、ないとは言えない。

例えば筆者は、推しが卒業を決めたとき、次の道へ進むことを応援したい気持ちも事実なのに、「アイドルでいてほしかった」と思ってしまう気持ちもあって、そう望んでしまうのはこちらのエゴだよなぁと思ったことがある。

そして個人的には、アイドルに限らずステージに立つ人は、実際はともかくステージの上では完璧なアイドルなりアーティストでいてほしいと思う。ステージに立つことに価値を感じていてほしいなと思うのだ。(これは「すべてを知りたい」派の人もいるのでそれぞれだと思うが)

純粋に好きで応援する気持ちと、そういったある意味こちらのエゴでないとは言えない感情が共存してしまう、そんな客観的には矛盾かもしれない複雑さを絶妙に表した楽曲だと思う。

そして2番には1回も“嘘”という言葉が出てこないが、実はある意味アイドル(アイ)に嘘(綺麗な嘘)を望んでいるのかもしれない、と思わせる内容でもある。

3番:アイだけの物語

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「得意の笑顔で沸かすメディア」~大サビ(3番?)から、それまでアイ以外の人目線だった歌詞がアイ目線になる。これまでの部分は【推しの子】を好きな人以外も共感できる部分があるが、この部分は完全にアイにしか当てはまらない物語になる。

【推しの子】を知っている場合は「あの話だ……」と胸がざわつくし、【推しの子】を知らない人は、どうしてこういう歌詞になったのか気になる。

“逸材”であったアイは完全無欠のアイドルとして描かれているが、実際は愛に飢えた女の子でもあった。
誰かに愛されたことも 誰かのこと愛したこともない そんな私の嘘がいつか本当になること 信じてる
母子家庭で虐待され、ある日母は窃盗罪で逮捕。釈放後も迎えに来なかったため、アイは施設で育った。愛を知らずに育ったアイは、アイドルのスカウトを受けたとき、はじめ「人を愛した記憶も愛された記憶もない」「こんな私はきっとファンを愛せないしファンからも愛されないよ」「自分がファンに愛してると言ったら嘘になってしまう」と断ろうとした。

だがスカウトした苺プロ・斉藤に「嘘で良いんだよ、むしろ客は綺麗な嘘を求めてる」「本当は君も人を愛したいって思ってるんじゃないか」「皆愛してるって言ってるうちに嘘が本当になるかもしれん」と言われ、いつか嘘が本当になることを信じて嘘を振りまいてきた。

「完全であるためなら嘘も平気でつける」ように見えていたアイは、そんな彼女なりの切実な願いを持ってアイドルとして活動し続けていた。嘘をつくことは、彼女なりのファンへの最大の愛だった。そんな思いが最後のサビに込められている。
いつかきっと全部手に入れる 私はそう欲張りなアイドル 等身大でみんなのこと ちゃんと愛したいから 今日も嘘をつくの この言葉が いつか本当になる日を願って
©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

極秘で産んだ双子の子供、アクアとルビーに「愛してる」と言えずにいた。もし言ったときに自分が「嘘だな」と思ってしまったら……と怖いからだった。

だが、元々ファンだったストーカーがアイを刺殺する事件が起こったことにより、事態は変わる。皮肉にも、ここでアイがどんな気持ちでアイドルを続けてきたかがあらためてわかった。

事務所の社長の名前も間違えるくらい人の名前を覚えるのが苦手だったアイは、自分を刺したファンの名前とよく握手会に来てくれたことを覚えていて、お土産でくれた星の砂を大切に飾っていた。その後も出てくる言葉は、仕事ができなくなることへの申し訳ない気持ちだった。

自分が助からないと悟ったアイは、アクアとルビーに話しかける。「これは言わなきゃ」「ルビー、アクア、愛してる」と言った後に、自分のその言葉が嘘ではないと確信してよかったと思うのだ
やっと言えた これは絶対嘘じゃない 愛してる
歌詞に書かれてはいないが、曲では「ああ やっと言えた」と、漫画のセリフと同じ「ああ」が入っている。

MVのこの部分でアイが着ている服は、刺されたときに着ていた服だ。持っていたうさぎの被り物(=嘘)を捨ててアクアとルビーに駆け寄った様子は、アイが“本当”を手に入れられたということなのだろう。アイの心象風景を表すような、ハートの前にアイが立っているシーンではずっと雨が降っていたのに、ここでは雨が止み、虹が出ている。

アイの死に顔は笑顔だった。この出来事自体起こらないでほしかったことなのは間違いないのだが、皮肉にもアイが「愛してる」と実感を持って口にでき、ずっと欲しかったものを手に入れられたという点ではある意味ハッピーエンドなのかもしれない。

ここを最後に持ってきて終わらせるセンス、いろんな意味ですごい。大サビでもアイドルソングらしくクラップ&合いの手が入っているのに、この告白のところは音が最小限になっている。アウトロではまた合いの手が入り、聴き手は何とも言えない感情の中「アイドル」の終わりを見届ける。

最後にぷつりと消えるTV画面はアイの人生なのだろうかと思うとつらいが、ここには演じているアイが映っていたから、もう演じなくて良くなったということかもしれない。

「等身大でみんなのこと ちゃんと愛したいから」でうさぎの着ぐるみではなく、生身のアイとしてパフォーマンスしているのは、アイはある意味嘘をついていたけれど、ある意味嘘ではない本気でアイドルをやっていたことが示されているのではないだろうか。

SNSを考慮した戦略と広がり

@airisuzuki_official 今夜20:00に『アイドル』カバー歌唱UPされます☺️ @らん先生 の振り付けを真似させていただいたりしながら歌いました〜(ちょっとタイミング違って覚えてるとこあるけど🥺) #推しの子 ♬ アイドル
曲のどこを切り取っても印象に残るし、何よりイントロとサビは一度聴いたら忘れられない。

TikTokをはじめとするSNSで「踊ってみた」を公開する人が非常に多く、オリジナル振付を公開する人も。中でも2021年にヤングジャンプで“【推しの子】グラビア”企画に登場したハロー!プロジェクトなどの現役アイドルが「踊ってみた」をアップし、中にはYOASOBIのAyaseや【推しの子】の作画を担当する横槍メンゴがコメントや引用したこともあり、盛り上がりに拍車をかけている。

@yoasobi_ayase_ikura #YOASOBI #アイドル #tiktoklive #推しの子 ♬ アイドル 無敵完璧 ver.

大げさでなく、最近TikTokを開くと2~3回に1回は「アイドル」が流れる。有名無名、男女問わず多くのアイドルたちが「アイドル」に載せて撮った動画を披露する様子は、一周回ってなんだかシュールだ。

さらに、YOASOBIの公式アカウントではTikTokライブの「アイドル」ライブ映像を8つに分けてほぼ全編公開。太っ腹すぎる。自分の好きな部分にいいねしたりシェアしたりでき、この曲が広がるさらなる要素となるだろう。

ボーカルのikuraが難易度の高いこの曲を生歌で、手ぶりも交えながら歌っていることもわかり、曲の素晴らしさはもちろん、YOASOBIのすごさをあらためて認識する。

英語版「 Idol 」も強すぎる!



5月26日には「Idol」(「アイドル」English Ver.)が公開され、すでに1400万回以上再生されている。(6月14日時点)

筆者は英語に詳しいわけではなく、あくまでオリジナルと英語版を聴き比べて楽しんだ感想だが、言語が異なるのに歌詞の意味がほぼ変わらず収まっていることに驚いた。ikuraが英語に堪能なため、同じ人が歌えるのも強い。

そして、日本語の発音と近く聴こえるように言葉選びされている部分が多い。サビの「That emo(tion)」のところがオリジナルの「誰も」と全く同じなところはさすがだし、「誰もが目を奪われていく」「誰もが信じ崇めてる」のサビ頭のフレーズ全体のイントネーションが近くなるように作られている。

「あれもないないない これもないないない」の「ないないない」を英詞では「why, why, why?」「lie, lie, lie」とすることで韻を踏んでいる。ラップ部分も「はいはい」「です」と「ない」の多くの韻を踏んでおり、「完璧でない」のところは「Completely deny」とすることでほぼ同じ発音にしている。

他にも「ダメダメ」を「Dammit, dammit」、若干雰囲気ではあるが「等身大」を「So, sincerely」など、お見事としか言いようのない揃いっぷりだ。

もう1回聴いてこよ!

好き勝手語ったが、毎日聴いても飽きない、飽きないどころかさらに好きになってしまう(毎日泣いてる)スルメ曲な「アイドル」。

Ayaseのセンスとikuraの歌唱力、そして【推しの子】の魅力、すべてがあったからこそ成立した奇跡の楽曲だ。今日もまた何とも言えない高揚を抱えながら、この曲を再生する。

(文:ぐみ)

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