「かしましめし」第5話:ボロボロの身体をシュクメルリの優しいとろみで包んで
おかざき真里の同名漫画を原作としたテレビ東京のグルメドラマ「かしましめし」が放送スタート。前田敦子、成海璃子、塩野瑛久が演じる、人生につまずいたアラサー男女3人がどんな日も美味しく“かしましく”ご飯を食べる模様を映し出す。
本記事では、第5話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
「かしましめし」第5話レビュー
©「かしましめし」製作委員会千春(前田敦子)が蓮井(渡部篤郎)に再会した頃、千春の足はゆっくりと死に向かっていた。大雨の中で傘もささず、虚ろな表情で赤信号を渡る千春。そんな彼女の手に蓮井はコンビニの袋をしっかりと握らせる。袋の中には買ったばかりのサンドイッチが入っていて、二人は空っぽのお腹をそれで満たした。
どんなに辛いことがあっても、自分の意思に反してグゥ〜と鳴るお腹ってありがたい。それはまるで身体が生きたがっていることを教えてくれるみたいで。生き物は食べなきゃ死ぬ。そんな当たり前のことを、私たちは時々忘れてしまうから。
©「かしましめし」製作委員会
蓮井が千春の手に握らせたコンビニのサンドイッチ。田口(倉悠貴)がナカムラ(成海璃子)に食べさせたかったキッチンカーのお弁当。榮太郎(若林拓也)が英治(塩野瑛久)の口に運ぶ病院食。
それらはどれも命綱みたいだ。毎日崖を登るように生きている彼らが足を踏み外しそうになったとき、それは助けになってくれる。そして同時に、「これを握れ」と命綱を渡してくれた相手の優しさが傷ついた心の細胞まで修復してくれるのだ。
英治が言うように、生きるとは食べて寝ての繰り返し。すべてを一度リセットして、身体を休めたら私たちはまた前に進む。
©「かしましめし」製作委員会
「かしましめし」第5話は、千春とナカムラと英治に足を前へ進むきっかけが与えられた回だった。
榮太郎とその仕事上のパートナーである土屋(坂東希)の希望に満ちた夢の話に触発され、自分も絵を描きたいと決意した英治。しかし、いざ机に向かうと思うように絵が描けなくてもがく英治に、同じ部屋に入院するおじさん(ベンガル)が過去の後悔を打ち明ける。
田口との関係性に違和感を持つナカムラに、「一緒に旅行にしてみたら?」と助言するのは同僚の常盤(大沢あかね)だ。それぞれが先送りにしてきた問題に向き合う時がきている。
©「かしましめし」製作委員会
一方、千春の元には元上司の沢渡(田村健太郎)から食事の誘いが。沢渡は千春が会社をやめるきっかけとなった人物だ。高圧的な態度で千春の仕事や人格まで否定し、彼女を追い詰めた。ナカムラはそんなやつ、相手にしなくていいと言う。もっともだった。傷つくのがわかっていて、会う必要なんて全くない。
だけど、そんな時に千春はお絵描き教室に通う子供たちのあるやりとりを目撃する。絵を「下手くそ」と言って傷つけてしまった男の子と、傷つけられた女の子。女の子は「どうしてあんなこと言ったの?私、傷ついたんだけど」とはっきり自分の気持ちを伝えた上で、「そもそも芸術って上手とか下手で分けるものじゃないんだよ。大事なのはね、自分が精一杯描けたかどうかなんだよ」と持論を展開し、男の子は「まあ、そういう考え方もあるかもな」と素直に納得する。
そこには、大人になると忘れてしまう大事なことが詰まっていた。
©「かしましめし」製作委員会
精一杯やったと自分で納得すること。自分の考えを相手にまっすぐ伝えること。そして、傷ついたら傷ついたと伝えること。こうやって言葉にすれば簡単なのに、いざ実践しようと思ったらどうしてこんなに難しいのだろう。
千春は沢渡に「あなたのせいで傷つきました」とは言えなかった。本人を目の前にすると震えて、ただ笑顔を作ることしかできない。そんな不器用で弱い自分が情けなくて、それでも前に進もうとしている彼女が愛おしくて仕方がなかった。
「その時は救われるって残酷なんだよ」と蓮井は言うけれど、きっと一瞬でも救われるってことは大事なんだ。前に進んだ先でボロボロになったら、絶対にこっちを傷つけないという安心感がある人とまた、千春たちがおいしいごはんを食べられますように。
(文:苫とり子)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
©「かしましめし」製作委員会