「ペンディングトレイン」6話:萱島(山田裕貴)は、期待しないから靴紐を結ぶ。


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山田裕貴主演の“金10”ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」が2023年4月21日放送スタート。本作は、山田裕貴演じる美容師・萱島直哉をはじめ、上白石萌歌演じる体育教師・畑野紗枝や、赤楚衛二演じる消防士・白浜優斗らが、乗車した電車内に閉じ込められ、近未来に飛ばされてしまうSFサバイバルストーリー。

本記事では、6話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

「ペンディングトレイン ー8時23分、明日 君と」6話レビュー

電車に乗っていたら緊急地震速報が鳴り響き、大きな揺れに見舞われ、気がついたら約30年後の未来に飛ばされていた。周囲に目立った建物はなく、広がるのは草木や山ばかり。食べるものも限られ、やっと見つけた仲間と思しき人間たちは怪しさ満点で、あろうことか武器を持ち襲ってくる……。

そんな状況に陥ったら、誰でも気が狂ってしまう。6号車のリーダー格・山本(萩原聖人)自身が、実は地中に埋められた金髪の殺傷犯に手をかけた張本人で、おまけに無線でSOSを送っているという話も嘘だった。けれど、彼ばかりを責められない。こういった状況下では、たとえ虚構だとしても場をまとめる人間が必要だ。それが萱島(山田裕貴)の指摘したとおり、自己顕示欲にまみれたマウントだったとしても。


5号車の人間と6号車の人間が、お互いに疑心暗鬼に陥り、手作りの武器で戦い合う。予期せず30年後の未来に飛ばされてしまった状況は同じなのに、手を取り合うことはできなかった。今後、条件次第で和解はできるかもしれないが、きっと、一度争いあった“過去”は消えない

襲われ、船に監禁までされた畑野(上白石萌歌)が無事に帰ってきたことが救いだ。まさかこのまま殺しはしないだろう、と思ってはいたけれど、故意ではないにせよ山本は人を殺めている。当初の想定どおり、キーパーソンとして注視しておいたほうがいい存在だろう。

山本が無線で送っていたSOSは嘘だった。この真実はおそらく、彼をリーダーに据え行動をともにしていた6号車の人間にこそ、衝撃的だったろう。それと比較すると、5号車の人間、とくに萱島や白浜(赤楚衛二)は警戒心が先立っていたように見える。いざSOSが嘘だとわかっても、「何にも期待しない。そう決めてる」とかねてから口にしている萱島にとっては、そこまでのインパクトはなかったようだ。

萱島は、徹底的に期待しない。約30年後の未来に飛ばされたとわかっても、無闇に「元の世界に帰れる」と期待して動くことはなかった。いや、心中では、現実に帰って弟に会うことを切望しているはず。それでも、さらに大きな“期待しない”という決意でもって、衝動に蓋をしているように思える。


彼は期待しない。期待して、裏切られてきたから。だから、畑野が無事に帰ってきても抱きしめなかった。ただ彼女のもとにそっと跪き、靴紐を結んだ。そのまま足元を手で包み込み、「よく頑張った」と言うに留めた。

萱島本人は、畑野がここまで頑張れているのは白浜のおかげ、と思っている節がある。しかし、畑野はじゅうぶん、萱島にも救われているだろう。萱島は白浜へ「気付いてやれよ」と言ったが、同じ言葉をそのまま返してあげたい気もする。そこまで望み薄ではないぞ、と伝えたい気も、するのだ。

(文:北村有)

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