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2023年05月30日

「かしましめし」最終話:私たちは道の途中で出会い、かしましくごはんを食べる大きななりをした雛鳥

「かしましめし」最終話:私たちは道の途中で出会い、かしましくごはんを食べる大きななりをした雛鳥

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おかざき真里の同名漫画を原作としたテレビ東京のグルメドラマ「かしましめし」が放送スタート。前田敦子、成海璃子、塩野瑛久が演じる、人生につまずいたアラサー男女3人がどんな日も美味しく“かしましく”ご飯を食べる模様を映し出す。

本記事では、最終話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

「かしましめし」最終話レビュー

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〈Feed me more 幸せの一匙 大きななりしてても 僕らはまるで雛鳥だ ここはサンクチュアリ 羽を繕うところ 青く濡れた頬を慰めてくれるスープがあるよ〉(KIRINJI/nestling)

ドラマ「かしましめし」主題歌のタイトルには、「雛鳥」ほかに「寄り添う」という意味がある。千春(前田敦子)、ナカムラ(成海璃子)、英治(塩野瑛久)という3羽の雛鳥はどんな時も寄り添い合い、かしましくごはんを食べ、お互いの羽を繕ってきた。

そして、ついに巣立ちの時がやってくる。ピカピカの羽を広げて。

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自ら命を絶った同級生・トミオの葬儀で再会した頃、千春たちの羽はもうこれ以上飛べないくらい傷ついていた。直感なのか、偶然なのか、はたまたトミオが最期に残した奇跡なのか。さしてお互いをよく知らないまま、3人は一つの巣に身を寄せ合うことになった。

一緒にいること、それは寄り添うことと同義ではない。ナカムラの同僚・常盤(大沢あかね)には、家族を裏切っている夫と無理に生活を続けていた過去があった。

それはかつての英治と元恋人の辰也(吉村界人)、ナカムラと元婚約者の志村(白石隼也)、会社も一つの巣とするなら千春と元上司の沢渡(田村健太郎)の関係に当てはめることもできる。一緒にいればいるほど、傷ついてボロボロになり、しまいには自分の価値も分からなくなってしまうことだって十分あるのだ。

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その結果、一人でいることを選ぶ人もいる。自分は相手の期待に応えられないことを経験上よくわかっている蓮井(渡部篤郎)は、「みんな一人だよ。関わるだけが人生じゃない」と千春に言う。

でも、それは千春たちも最初から気づいていたことではないか。たとえ同じ巣の中にいても、雛鳥同士が空を飛ぶ方法を教え合えるわけじゃない。自分たちにできるのは雨風の日に身を寄せ合い、身体を温め、一緒に楽しくごはんを食べて、大空に飛び立てるその日までを共に過ごすこと。

たったそれだけ、と言ってしまえばそれまでだが、千春たちには十分すぎるほど大事な時間だった。

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自分には何の価値もない。3人の出発点はそこからだった。仕事に夢に結婚。30歳という年齢を目前にそれぞれが手にしたはずの何かを失い、自分がまるで空っぽになったような気がした。だけど、そんな自分と一緒にごはんを食べて、笑ってくれる人がいる。その事実だけで、お腹も心も満たすには十分だったのだ。

羽を休めた3人は巣立ちの時を迎え、千春はデザイナーとして復帰。その才能を大いに発揮し、デザイン賞にもノミネートされた。英治は榮太郎(若林拓也)に想いを告げ、スッキリした状態で個展開催という夢への一歩を踏み出す。そのおかげか、本業である営業活動の方も上々だ。

そして、ナカムラは真正面から自分と向き合ってくれる田口(倉悠貴)と言いたいこと言い合って、ようやく同じベッドで眠ることができた。それに、自分の気持ちを伝えるのが苦手だった彼女が「常盤さんとも遊びたいな」と素直に言えるようになったのだ。きっともう大丈夫。

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そう考えると、千春の母・紗栄子(渡辺真起子)の突然の帰国は来るべくして来た転機とも言えるだろう。紗栄子は一緒に帰ってきたソニョン(金慶珠)との関係について、「友達っていうことになるのかな。他に言葉がないからそうかな」と語る。

「言語も違うし、背負ってきたものも何もかも違うんだけど、そういう人に出会ったんだからこれからの人生一緒にいようよって。私たちさえよければそれでいいじゃんって。そういう関係」

家族でも、恋人でもない。友達って言うのもなにか違う気がする。名前なんて必要ないけど、一緒にごはんを食べたい相手とでも言うのだろうか。

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「寄り添う」と言葉で言ってしまえば簡単なことが、実は結構難しい。だから、私たちは一緒にごはんを食べるのかもしれない。愚痴を言いたければ言えばいいし、辛いことを無理に話す必要もない。夢を語り合うのもよし、ただ美味しい、美味しいと言いながら食べるだけでも全然いい。

それが「みんな等しく道の途中=大きななりをした雛鳥」だと気づくことに繋がり、明日を生きる活力になるから。千春たちは巣から飛び立っていった。だけど、これからもきっと道の途中で出会い、かしましくごはんを食べるのだろう。

「また一緒にごはんを食べましょう」
「うん。また一緒に食べよう」

そうやって声を掛け合いながら、私もあなたも生き延びていく。

(文:苫とり子)


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