映像業界の働き方

SPECIAL

2023年06月02日

「安心安全な撮影現場を考えるのが、私の仕事です」│インティマシー・コーディネーター 浅田智穂の働き方とは?

「安心安全な撮影現場を考えるのが、私の仕事です」│インティマシー・コーディネーター 浅田智穂の働き方とは?


知らないことは、
専門家に助けてもらえば良い


ーー現在の日本の映像業界の働き方について、 浅田さんが一番気になっている問題は何ですか?

浅田:やはり長時間労働です。休みがないということが1番大きな問題だと思っています。睡眠時間が少なくなると、生産性の低下はもちろん、疲労やストレスが蓄積して身体を壊してしまい、気持ちにも余裕がなくなります。まだ俳優はそれなりに優遇されているかもしれませんが、スタッフはそうもいきません。現場が終わっても、それで仕事が終わりではない。本当に寝ていないのがわかるんですよね。それにプラスして低賃金という救いようのない状態になっている。そこにちゃんと余裕が生まれれば、ハラスメントなどの問題も減ってくるのではないかと思います。

ーー予算も時間も余裕がなさすぎるという日本のエンタメ業界の問題ですね。

浅田:休みなく働かされるとなると、若い人は入ってこないですし、辞めてしまう。それに、クリエイティビティが枯渇してしまうと思います。イマジネーションを膨らませる時間もないですから。

ーー変化を感じているというお話もありましたね。そのあたりの肌感も伺いたいです。

浅田:この数年いろいろな問題が表面化されたことで、それを変えようという声がしっかりと上がってきたように思います。私もa4c(「action4cinema / 日本版CNC設立を求める会」)の皆さんへ講義をさせていただいたり、問題をしっかりと意識している監督やスタッフは確実に増えてきていると感じます。 その方々と一緒にもっと働きやすい現場に変えていけたらいいなと思っています。

ーーインティマシー・コーディネーターという職業が認知されてきたことで、ほかにもいい影響が生まれているのではないかと思っています。たとえば、他の部分も変えていかなきゃいけないという意識が現場で芽生えたり。

浅田:その通りだと思います。インティマシー・シーンはいろんな確認事があるので、 綿密な話し合いを行います。するとやはり、シーンの理解度は上がる。そういった経験をされた方は、他のシーンでもきちんと話し合えたらいいねとおっしゃったり。もちろん時間がなかなかそれを許さない現状はまだあるわけですが、これだけ話し合うとこれだけ理解度が増してお芝居が変わるんだ、と実感されている方はたくさんいると思います。

ーー制作者が意図したいインティマシー・シーンの描写に対して、浅田さんが意見することもあるのでしょうか。

浅田:監督とプロデューサーが見せたい描写があって、それに俳優部が同意しているのであれば、そこをまず安心安全に撮るためにどうしたらいいのか考えるのが私の仕事です。ただ、そのシーンが社会的に間違ったメッセージを送る可能性がある場合に「大丈夫ですか」と確認することはあります。


ーーインティマシー・コーディネーターは現在日本で2人だそうですね。今後はもっと増えていくのでしょうか。

浅田:後続を育てることは急務だと思っています。そこで現在、アメリカのカリキュラムを使い、日本でもトレーニングできるように動いているところです。

ーー今後、映像業界にどのような変化を期待しますか?

浅田:エンターテインメントが与える社会的メッセージはとても大きいので、 それに関してもインティマシー・コーディネーターとしてできることをしていきたいです。今、 視聴者のリテラシーは本当に上がってきてると思うので、そこに応えていく、裏切らないようにしていくというのを、 つくり手は意識していかなくてはいけないと思います。これから新しいポジションはどんどん増えてくると思います。知らないことは専門家に聞いて、助けてもらえばいいんです。

ーー社会的メッセージという意味では、メディアのあり方も重要だなと思いました。エンタメにおいても性的なシーンを過剰にピックアップした見出しをつける媒体がまだまだ目立ちます。

浅田:別にインティマシー・シーンがメインなわけでもないのに、そこが切り取られてしまう。日本はそういうところにすごく固執してしまうので、そこを見どころだと思わせてしまうメディアもよくないですし、そう思わされてしまう視聴者がかわいそうだなと思います。

ーー一方で、インティマシー・コーディネーターが入っていると安心して作品を観られるという声も聞くようになりました。

浅田:俳優の皆さんが安全に撮影できていると思うと、ファンの皆さんも安心できますよね。それを思うと、インティマシー・シーンがあるのであればやはりそこにインティマシー・コーディネーターが当たり前にいる現場になるのが望ましいと思います。まだまだこれからですが、観客のニーズとしての声がもっと大きくなっていけば、業界も必然的に変わっていくと信じています。

Profile

浅田智穂
1998年、ノースカロライナ州立芸術大学卒業。 帰国後、東京ディズニーシー建設 / オープン準備時の通訳、2002 FIFA日韓W杯に於ける㈱電通内の社内通訳として従事。 2003年、東京国際映画祭にて審査員付き通訳として参加したことがきっかけとなり、 日本のエンターテイメント界と深くかかわるようになる。 2020年、Intimacy Professionals Association(IPA)にてインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了。 IPA公認のもと活動開始。Netflix作品『彼女』において、日本初のインティマシー・コーディネーターとして作品に参加。 以降も、複数のプロジェクトに携わっている。
(撮影=川村恵理/取材・文=綿貫大介)

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