「らんまん」万太郎は”みどりのゆび”を持ったひと<第84回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第*回を紐解いていく。
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この国の植物学の夜明けは終わり
「槙野は咲かない花すらも咲かせてみせた」
(田邊)
田邊(要潤)のセリフで思い出したのはフランスの児童書「みどりのゆび」です。
主人公の少年チトは、触れると花が咲く、特別な親指を持っています。学校ではすぐに帰されてしまうような、一般的なルールに沿えない子供ですが、ほかの人にはない特殊な能力が備わり、それによって人々を笑顔にします。
チトのお父さんは、兵器を作る工場を営んでいました。兵器は戦争に使用されます。チトは戦争について考えたすえ、みどりのおやゆびを使ってある行動に出ますーー
というお話。日本では1965年に初版されているので、知っている人も多いのではないでしょうか。
チトと万太郎(神木隆之介)が重なって見えます。
さて、「らんまん」です。
万太郎が小岩方面の池でたまたま見つけた水草(ムジナモ)を東大植物研究室に持ち込みます。「愛くるし〜 こういうの大好き」と藤丸(前原瑞樹)が大はしゃぎ。
そこへ田邊が登場。また怒られるんじゃないかと緊張が漂うなか、ムジナモを見た田邊は、これはかのダーウィンを魅了した植物で、日本では初めて発見されたものだと注目。万太郎に論文と植物画を書けと言います。
万太郎にとって起死回生のチャンス到来。それには第83回の野宮(亀田佳明)の決死の助言も後押ししたことでしょう。そして、田邊の名誉もこの発見によってアップすると踏んだのでしょう。論文と植物画を発表したら、世界中が注目するから。
「教授がお前に 世界への花道をかけてくださった この感謝を忘れるなよ」
(徳永)
徳永(田中哲司)は万太郎を励まします。植物学の道を「花道」と言うなんて、さすが「万葉集」を愛する人物らしい。
やる気になった万太郎。これで、経済的困窮から救われたうえ、自身のやりたい植物研究も進みます。
植物図譜第3巻も出版されて盛り上がる、万太郎、波多野(前原滉)、藤丸。
藤丸は自身の研究のために外国の人とも話そうとしているところ。つまり苦手な英語も克服しようとしているのです。目的があるといろんなことができるようになっていくものです。
「いま、この国の植物学の夜明けは終わり、日は上りはじめました」
徳永は、それぞれの研究課題を持って生き生きしている万太郎たちの姿に、そう感じます。そして自分ももっと学ぼうとドイツに留学したいと田邊に相談します。
そのとき、ムジナモに異変がーー。
花が咲いたのです。
この植物に花が咲くことはこれまで報告されていなかったので、開花の確認によって研究はさらに一歩前進しそう。
田邊はそこで「槙野は咲かない花すらも咲かせてみせた」と万太郎の神のような才能を感じます。
クサ長屋の人たちが、万太郎に出会ってから、生きる楽しさを知ったように、東大植物学研究室の人たちも、植物学を学ぶ楽しさを知った。
貧しさや、目標が定まらない虚しさから、花が咲いた。それは万太郎の「みどりのゆび」のおかげ、というファンタジックなイメージに満ちています。時代背景や生活描写などをしっかり描きながら、どこかファンタジックな想像も喚起させる物語はきっと長く語り継がれることでしょう。
(文:木俣冬)
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