インタビュー

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2023年07月25日

『セフレの品格』城定秀夫監督インタビュー 「そういう人たちもいるんだよ」が伝わればいい

『セフレの品格』城定秀夫監督インタビュー 「そういう人たちもいるんだよ」が伝わればいい

湊よりこ原作の人気レディースコミックを実写映画化した『セフレの品格(プライド)』は2部作で構成され、『初恋』が7月21日より公開中、『決意』が8月4日(金)に公開となる。

物語は36歳のシングルマザーの森村抄子(行平あい佳)が、高校の同窓会で産婦人科医となった初恋の相手の北田一樹(青柳翔)と再会し、誘われるまま身体を重ねた後、「セフレ」として身体だけの関係を楽しもうと提案されることから始まる。

ここでは『アルプススタンドのはしの方』や『女子高生に殺されたい』などで話題を集める城定秀夫監督へのインタビューをお届けしよう。

戸惑いや嫌悪感にも自覚的


――まず、率直に申し上げて、感動しました! 観る前は原作も知らないまま「セフレの品格」というタイトルだけを見て、完全な偏見で「ええ……?」な感じになっていたのですが、いつしか愛おしいキャラクターみんなの幸せを願うようになり、『決意』のクライマックスではボロボロ泣いて、「偏見を持っていてごめんなさい」と本当に思いました。

城定秀夫監督(以下、城定):ありがとうございます。そのギャップがまたいいのかもしれないですね。世間一般的にセフレへの偏見があるからこその、この作品の意義みたいなものがあるのかもしれません。

――監督が今回も脚本を手がけられていますが、どのように組み上げたのでしょうか。

城定:基本的には原作を大切にする方向性で考えていました。とはいえ、生身の人間が演じる映画ですから、ある程度はこちらにお任せしてもらいました。

原作は2011年から連載開始された作品で、セフレという言葉に、今とはまた違った意味合いがあったと思います。当時はセフレが今よりもキャッチーで、今だとより「えっ?」って感じになるからこそ、ある程度の現代性を持たせる意識はしていました。同時に「どの時代でも人間の感情そのものは変わらない」とも考えていましたね。

もちろん、そうしたセフレという言葉への戸惑いや、嫌悪感を含めた関係性も、こちらは自覚しています。それでいて、「セフレに偏見持ってるやつは許さない」ではなく、「それはそうだけど……」というアプローチで映画を作りたいと考えていました。社会から戸惑いや偏見の目で見られるのは仕方がないけど、その上で登場人物の関係性を描いていけたらなと思ったんです。

――原作からではありますが、タイトルだけだとインモラルなイメージがあっても、実はキャラクターそれぞれにちゃんとモラルがあり、感情移入しやすい内容にもなっていました。主人公の抄子が序盤に「モラリストなんだよ」と言われる場面もありますし、『決意』では一樹が17歳の少女に対して大人としてのしっかりとした対応をしています。「表面的には性的な関係だけで繋がっているようにも見えるけど、実はモラルのある人たちじゃないか」と思えるようになったんです。

城定:そうした社会のルールの中で生きてる、節度を持っている。それがイコール「品格(プライド)」ではあると思いますね。

『初恋』の悪役は「通常の社会における正義」


――2部作のボリュームだからこそ、キャラクターにより感情移入ができ、『決意』であれほどの感動があったのだと思います。「『初恋』を観ただけで終わらないで! こっちも絶対に観て!」というのは訴えたいですね。

城定:『初恋』の積み重ねがあるからこそ、『決意』の物語があるということは、ぜひ観て感じてほしいですね。

――2部作の構成はどのように考えられたのでしょうか。

城定:今後のサブスクなどでの展開もあるので、大きな話を作って、半分でバサっと切るにしても、キリの良いところで区切ろうとは思っていました。

――『初恋』のクライマックスで明かされる秘密が、かなりの「拒絶反応」がある内容ですよね。それでも、キャラクターが愛おしくなり、『決意』に向けて応援したくなる構成になっていたと思います。

城定:やはり、セフレという性的な話から始まって、濡れ場をしっかり見せていく中で、この人たちの関係を「わかるなあ」となってくれればと思っていましたね。


――『初恋』での新納慎也さんが演じる栗山という男が、どちらかと言えば悪役ではあるのですけど、「彼の反応も普通だよね」と思わせるのも良かったです。

城定:あれが通常の社会における正義なのだろうし、あの人なりの純情が行き過ぎてるっていう部分ですよね、栗山だけでなく、みんなどこかちょっとはみ出しちゃってるとは思うんですよ。栗山の言ってることは正論なんですけど、どうしても滑稽に見えちゃう。でも、本人はいたって真面目で真剣なんですよね。

――『初恋』の最後の栗山のあの姿は、確かに笑ってしまいました。

城定:新納さんにあえて滑稽にやってくれとか、そういう感じの指示は出してないんですけど、それでも面白くなっちゃって(笑)。でも、あの栗山みたいな経験って、誰にでも程度の差はあれあると思うので、それを思うと笑えない部分でもあるんですけどね。

――確かに、笑えないはずなんだけど、「ごめん笑っちゃう」みたいなシーンでしたよね。でも、その栗山が『決意』の序盤にちょっとだけ出てきて、「ハァ?」「なんだよコイツ!」な感じになっていたのも良かったです。

城定:あれは良くないですね(笑)。

――その辺のバランスも良かったです。誰かを一方的に良い人間、悪い人間と完全に色分けをして描くのではなく、「みんないろいろあるんだなあ」と思いましたね。

『決意』で原作から改変した理由


――原作からの改変ポイントもいくつかありましたね。『決意』で髙石あかりさんが演じる17歳の少女の咲は、原作では乳液に薬品を混ぜたせいで、抄子の娘がひどい目に遭ってしまうのですが、映画では変わっていました。

城定:あれは、子どもに被害が及ぶのがちょっとかわいそうだったから変えました。

――映画で起こることも、断じて許せないことですよね。その決着の付け方は、原作をなぞりながらも、さらなる描写もあり、とても誠実なものでした。

城定:あの子の過去からして「やるとこまでやっちゃう」というのは、わからないことではなかったけど、その「償い」が本当に大きいということを、きちんと描きたかったですね。

――石橋侑大さん演じるボクサーの猛のとあるセリフが、原作とは違う場面で響いてきました。クライマックスの会話の舞台も映画オリジナルで、あそこで「みんな幸せになって!」と願う気持ちが最高値になりました。

城定:クライマックスの画としては地味ではあるんですけど、それでもおのおのが積み重ねてきた感情を、不器用ながらに出していくことを意識しましたね。これだけ濡れ場があるのに、最後だけエロがない作品にもなっていますね。

――やはり原作の再解釈と再構成が素晴らしくて、あとから読んだ身でも「実写映画化してくれて、本当にありがとうございます」となりました。漫画の実写映画化は、全て城定監督・脚本でお願いしたいくらいです。

キャストそれぞれと監督の信頼関係


――キャストの皆さんそれぞれについてお聞きします。行平あい佳さんはいかがでした?

城定:行平さんはオーディションに来ていただいたのですが、原作の36歳の設定よりも若くて、まだ中学生の子どもがいる年齢ではないことに少し懸念はありました。でも『私の奴隷になりなさい』シリーズに続いて、お仕事をするのは2度目でしたし、その信頼関係もあったおかげで、濡れ場の多い撮影現場でも警戒されることもなく、すごくやりやすかったです。

――青柳翔さんはいかがですか。

城定:初めてご一緒したので不安もあったのですが、ああしてくれこうしてくれと言った覚えがない、「何の問題もない」勢いでしたね。濡れ場は特に細かく指示を出せない、カメラに合わせるため完全に好きにやってくれとはならないまでも、ある程度は生理でやってくれというような感じなんです。そこも青柳さんは完全にやり切ってくれました。

――青柳翔さんが演じる一樹は、原作ではいかにも少女漫画に出てくるイケメンみたいな感じで、映画とは少しイメージが違ったのですが、映画でも青柳翔さんが演じてこその魅力的なキャラクターになっていました。

城定:そうなんですよね。原作では誰もが「キャーッ!」って言うような感じですけど、それよりもマッチョなかっこよさみたいなものが青柳さんのおかげで出ていました。


――『決意』の髙石あかりさん演じる17歳の少女の咲が、本当に素晴らしかったです。カフェのシーンや、クライマックスなど、髙石さんが「全て持っていく」とまで思いました。

城定:あの人はすごいと、僕も思いましたね。『決意』では髙石さんばかりを撮っていた印象があるほどに、強い芝居をしてくれました。彼女には天性の素質みたいなものがあります。

――石橋侑大さん演じるボクサーの猛もすごく良かったです。「セフレじゃねえかよ!」というリアクションも含め、個人的には彼が一番感情移入したキャラクターでした。

城定:あれだけ若いと「セフレでいいよ!」って言う人もいると思うんですけど、彼はイヤだよって言うんですよね。女性がイヤだって言うのはわかるんですが、意外と男性も言うんですね。

――いやいや、そういう男の子は実際にもいると思いますよ。その石橋侑大さんの、ボクサーとしての動きもすごかったですね。

城定:もともとプロボクサーでもありますからね。石橋さんの試合相手になる方も、石橋さんの知り合いの、本当にチャンピオンまで行ったようなプロボクサーなんですよ。流れでこちらも指示を出して、危なくないようにしましたが、ボクシングシーンで、本当に当ててやるというのは、なかなかないんですよ。そこはプロ同士だからっていう信頼はありますね。

――やはり監督への信頼のもと、俳優の皆さんがついていっている印象ですね。

城定:そこはもう、お互いに信頼しなければならないことですから。

「見捨てない」「押し付けない」映画


――主題歌を歌っている前野健太さんの、公式サイトに載ってる「あらゆる人を『取りこぼさない』、そういう映画に感じました」というコメントがすごく良いと思ったんです。私も、城定秀夫監督の作品は常に「普通じゃない」コンプレックスを持つ人に寄り添う優しさがあると思うのですが、本作でもまさにそうでした。やはり、ご自身でもそうした作品を届けようとしている気概はあるのでしょうか。

城定:エンターテインメント作品ですから、どうしても栗山や、片山萌美さん演じる華江のように、悪者とまではいかなくても、そういう立場の人間が出てきたりするのですが、やはり彼らにも「いろいろある」と思うんです。社会的にちょっと外れてる人だったり、なかなかうまく人と関われない人だったりを、見捨てないということは意識していますね。

そのおかげでというべきか、自分の作品は「ちゃんとした悪者があまり出てこない」みたいなことを言われがちなんですよ。どうしても、客観的には悪いと言われるような人にも同情してしまう、「こいつにも事情があるんだろう」という目線にはなってしまいますね。

――城定監督のその意識が、観る人に伝わってほしいですね。

城定:でも、観る人によっていろいろと思うところはあると思いますし、どう観ていただいても構わないですよ。逆に、観てどう感じたかを、ぜひ聞いてみたいですね。

――この映画を観て怒る人もいるかもしれないけど、それはそれで貴重な意見にはなりますよね。

城定:そうです。それはそれで、映画の見方のひとつです。「私はこういうのは良くないと思う」というのも、それはそれで普通の感情ですし、作った側としてもきっと「そうだよね」ってなると思います。

――個人的には、映画を観た人が「私はこれを認めない」と思えば、それはそれでその人の価値観を強固にする、意義のあることだと思うんです。もしも批判的な意見が出てきたとしても、作り手として許容される姿勢もとても良いと思います。

城定:作品への批判はもちろん良いですけど、現実にいる当事者たちにぶつけてしまうのはちょっと……と思う部分もありますね。「この人たちはこの人たちで事情がある」と映画のキャラクターに感じていただけるのであれば、現実でもそう思えたりもするのかな、という希望は持っています。


――セフレでなくても、現実における不倫などの報道に対してのバッシングなども、過剰に感じてしまうところはありますよね。

城定:もちろん不倫はよくないと思いますけど、「本人たちにしかわからない」こともありますからね。この映画で描いてる2人の関係もほんの一部で、その間にもいろいろあるでしょう。その上で、現実の当事者に批判的な言葉を過剰に投げつけるような世の中には、あまりなって欲しくないな、というのが正直なところですね。

――それこそ映画の役割だとも思います。表面的な不倫やセフレという言葉を並べ立てるだけだと、条件反射的に批判をぶつけてしまいそうなところですが、この映画は「人間」を描いていますから。私も「セフレなんてイヤだな」という印象で観はじめたら、いつしかキャラクターみんなが愛おしくなり、本当に「偏見を持っていてごめんなさい」となりましたから。そこまで極端に思わなくてもいいかもしれないけど、そこまでの気持ちを呼び起こしてくれたことが、この映画の価値だと思います。

城定:「平等」も意識していますね。「彼女たち、いいでしょう」みたいな見せ方をしていなくて、それぞれが苦しい選択をしています。その苦しい選択が、生きていく上で必要な人たちがいると思うんですよね。最終的には、「そういう人たちもいるんだよ」くらいに伝わればいいかなと思います。

――その押し付けない、城定監督のスタンスも素晴らしいです。R15+指定でセンセーショナルな部分がクローズアップされがちかもしれないですが、それだけじゃないよ、ということは伝えたいですね。

城定:エロスな部分を楽しんでいただくのも、もちろん良いですし、それはそれで映画の原初的な楽しみのひとつだと思いますよ。僕は思い切りピンク映画で育ってきましたし、文芸的な作品でエロいものを忍ばせるのではなくて、これは正々堂々ポルノの側面もあるよと。こういう映画が劇場で堂々とかかる時代ではないのですけど、そこがまだ有効な範囲内でチャレンジしました。

――そうですね。エッチな目的で観るのも、ぜんぜん悪くないことですよね。それでも、エンターテイメントとしても大いに楽しめる、射程が広い作品になっています。多くの人に観てほしいと、心から願います。

(取材・文=ヒナタカ)

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