「こっち向いてよ向井くん」第7話:「結婚したい」と思ってる?思わされてる?手垢に塗れていない本音を見つける難しさ
ねむようこの同名漫画を原作とした赤楚衛二主演のドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)が2023年7月12日よりスタート。本作はGP帯連続ドラマ初主演となる赤楚が、雰囲気も性格も良く、仕事もできるのに10年間彼女がいない30代の男性を演じるラブコメディだ。共演には、波瑠、生田絵梨花、藤原さくら、岡山天音らが名を連ねる。
本記事では、第7話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「こっち向いてよ向井くん」第7話レビュー
「独身でも、結婚してても、母になっても、好きな仕事をしても、寂しい時は寂しい」大学の同窓会で再会を果たした向井くん(赤楚衛二)と美和子(生田絵梨花)。元カレ・元カノとはいえ、別れて10年も経ったらもはや他人。
簡単にその溝が埋められるはずもなく、第6話における共通の友人・杉(野村麻純)さんの言葉の受け止め方も2人はまるで違った。
向井くんは単純で、美和子のことがまだ好きだから、その寂しさを埋めてあげたかった。だけど、美和子はできるなら、自分の力で寂しさを乗り越えたかったのである。複雑なのは、美和子がその一方でどうにも埋められない寂しさを抱えているということ。そんな葛藤の渦中にいる彼女にとって、「やり直そう」の言葉もなく恋人ごっこに付き合ってくれる“元カレ”の存在はどれほど都合が良かっただろう。
そして、第7話で明らかになる10年前の真実。
美和子が向井くんとの別れを選んだのは、端的にいえば価値観の違いによるものだった。「独身で子供がいない=孤独で寂しい」という父親の古い価値観に違和感を覚え、「結婚しなくても幸せになれる」ことを証明したい美和子。対して、向井くんは2人に結婚という未来が訪れることを信じて疑わなかった。
なにせ、彼が憧れていたのは環田(市原隼人)なのだから。家庭を持つ覚悟として自分に高級な腕時計を買う環田のようになりたかった。大黒柱、家父長制への無意識的な憧れが、向井くんの「守ってあげたい」「何からだって守るよ」という発言に繋がっている。
美和子が向井くんに感じた違和感は、麻美(藤原さくら)が元気(岡山天音)に感じている違和感と同じだ。もっといえば、公子(財前直見)が向井くんに結婚を迫る隆(光石研)にイライラさせられるのも、もしかしたら環田が妻に離婚を突きつけられた理由も根本は同じなのかもしれない。
彼らは誠実っちゃ誠実なのである。ちゃんと仕事をしてお金を稼ぎ、大切な人を幸せにしたいと考えている。だけど、その幸せの形があまりに世間が決めた型にハマっているから窮屈なのだ。自分だけじゃなく、相手も幸せになれる最良の方法を一緒に見つけていきたい。面倒臭いかもしれないけれど、その面倒臭さは窮屈さに気づきにくい男性陣を世間の檻から解放するためでもある。
一方で、美和子は「結婚しなくても幸せになれることを証明しなければ」という枷に自ら苦しめられている節もある。美和子と洸稀(波瑠)が根本的に違うのは、まだ自分の生き方に納得できていないところ。一人でも生きていけるくらい強くなりたいけれど、誰かにそばにいてほしいとも願っている。そんな美和子に「美和子が行きたい場所に行くために向き合う相手は少なくとも俺じゃない」と別れを告げた向井くん。
彼の成長が垣間見えた一方で、気になるのは向井くんが求めているのは何なのか?ということだ。向井くんは結婚願望があるように思えて、「結婚することによって、そういう煩わしさ全般から解放されたい」という発言から推測するに本当のところは彼も結婚を心から望んではいないのではないか。行きたい場所が見えていないのは、美和子も向井くんも同じなのだ。
だけど、本当は自分が何を望んでいるのかなんて見つけるのはかなり難しい。結婚したいと思っても、それが自分の本音なのか、世間にそう思わされているのか。はたまた結婚しなくていいと思っても、結婚=幸せという価値観を押し付けてくる世間への反発なのか、そうじゃないのか。考えれば考えるほど、だんだんドツボにハマる。
「せめて自分が何をしたいか分かってないと迷子になるような気がするな」という隆の台詞があまりにも芯を食っている。価値観が多様になればなるほど、迷子になる私たち。幸せになりたいだけなのに、生きるのはどうしてこうも難しいのだろう。
(文:苫とり子)
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