「らんまん」大窪(今野浩喜)はなぜ非職になったのか<第107回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第107回を紐解いていく。
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万太郎、台湾へ?
明治27年、日清戦争によって台湾が日本領になった年、大窪(今野浩喜)は非職となり、代わりに留学していた細田(渋谷謙人)が助教授となりました。徳永(田中哲司)時代、田邊(要潤)の色をなくす一貫になったのか、いまの時代と彼の仕事が沿わなかっただけなのかは定かではありません。
徳永時代を思わせるのは、ドイツ語で挨拶がされることや、教授の部屋がドイツのグッズになっていることです。くるみ割り人形みたいなものが飾ってあります。
これまでの長い時間を無駄にしたとやさぐれる大窪に、無駄じゃないと説く万太郎(神木隆之介)。
万太郎とふたりで研究したヤマトグサのことを「ひょろっちくてかわいいだけの」と言う大窪。「かわいいだけ」という表現に大窪の人柄が滲みます。
「なあ 昔言ってたよな 一生を捧げることで植物学に恩返ししたいって あれ考えてみたら傲慢の極みだな いつまでもてめえが役に立つとか」(大窪)
大窪は、万太郎を皮肉りますが、万太郎は、時代が変わろうと、人の心が変わろうと、自分の信じた道を突き進むだけ。
ふつうだったら、万太郎のやってることを素晴らしいと讃える流れになるところですが、「傲慢の極み」と言うのです。世の流れに逆らい、自分の考えや行動を改めないということはある種、傲慢ともいえること。愚直と言い換えることもできる気がします。
大窪のモデルとされる大久保三郎も非職されその後は学校の先生になりますが、植物学を極めていくことはなかったようです。植物が好きで、地道に採集などをすることが好きだけれど、論文を書いて出世していく気持ちがなかったのかも。
ドラマの大窪もそんな感じなのかなと。モデルは東京都知事で子爵だった人物の子息で、大窪も家柄がよい設定。プレッシャーはありつつも、ガツガツはしていなかったのではないかと、筆者は想像します。とりたてて優秀ではなく、なかなか職につけず、植物学研究室にたどりついた人でもありますし、ガツガツ頑張っても自分がさほど上にいけるとも思っていなかったのではないでしょうか。広い世界にそういう人がいていいわけです。才能があって上に上にいける人ばかりではないですから。
それにしても今野さんの演技はかなりがらっぱちなキャラになっていて、アッパークラスの人というよりは、長屋のメンバーに近い庶民キャラ側にも見えますが、舞台で王様役も演じたこともあり、反転した面白さみたいなものを持っているのだとおもいます。
ドラマの大窪は、万太郎と植物研究した、唯一のキラキラした思い出を糧にして生きていくのでは。そういうことがひとつでもあれば人は生きていける、そんな気もします。
誰がなんと言おうと、どんな状況になろうと、マイペースな万太郎に、チャンス?が巡ってきます。
台湾の視察に参加する話がもちかけられました。
そこに現れたのは、寿恵子(浜辺美波)の職場の常連客・恩田(近藤公園)。
同行してきた里中(いとうせいこう)と恩田がメガネとひげでかぶって見えますが、里中は胸ポケットに植物を入れていて、それによって個性を表していました。視察団のメンバーを選ぶ役目を任された里中。かつて、田邊に気をつかって万太郎に便宜がはかれないこともあった里中ですが、ここへ来てようやく便宜をはかってくれたのか。
さて。最近、料亭で大活躍の寿恵子。今日は、芸者が来るまで「八犬伝」をひとくさりして時間を稼ぎました。英雄の話を好む軍人に、勇ましい戦いの話をして喜ばれる。日本が戦に勝って景気もよく、上り調子であることがわかります。実に淡々と冷静に時代を見つめている物語です。
(文:木俣冬)
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