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2023年09月01日

【絶賛レビュー】実写ドラマ『ONE PIECE』は「もう知っている話」ではない、「原作を再構築した新たな物語」だった

【絶賛レビュー】実写ドラマ『ONE PIECE』は「もう知っている話」ではない、「原作を再構築した新たな物語」だった


ルッキズム的に捉えられるセリフの改変

原作でも序盤に登場する女性の海賊のアルビダは、原作では「この海で一番美しいものは何だい?」とコビーを含む部下たちに聞いていたが、今回の実写ドラマでは「この海で一番強い海賊は誰だい?」に変わっていた。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

この改変に賛否はありそうだが、元々が「周りから醜く思われている容姿に反して過剰な自信を持つ様をギャグにしてしまう」ような場面だったので、やはりそのままだと現代ではルッキズムに満ちたものに思えるし、男女の区別もなく海賊それぞれが「最強」を目指すという世界の価値観も示しているとも言えるので、個人的には肯定したい。

コビーとガープのドラマが物語が新たな「軸」になる

この実写ドラマ版で何よりも大きな改変及び工夫は、原作では序盤のエピソードで登場した以降はしばらく活躍がなかったコビーの物語を、新たな「軸」にしたことだ。

アルビダ海賊団で奴隷のようにこき使われていたものの、ルフィと出会ったことから夢だった海軍将校を目指すことは原作と同じだが、なんと今回のコビーは海賊を捕えようとする新米海軍としての立場と、ルフィと友達である立場の間で葛藤しながらも麦わら海賊団を追う、もう1人の主人公とさえ言える役回りになっているのだ。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

さらに、新米の海兵であるコビーの上司となるのは、海軍中将である老人ガープ。その立場もまた、コビーの葛藤に深く関わっているし、原作を知らない人への(知っている人にとっても)サプライズも仕込まれていた。初めこそ敵だったヘルメッポとの関係も新たに描かれており、その関係性の変化にもグッとくる方も多いだろう。

そして、そのコビーとガープの物語はただ続きが気になるだけでなく、『ONE PIECE』という作品そのものに新たな視点を与えてくれていた。彼らはとある「矛盾」や「世の中のどうしようもない仕組み」について語っており、それはフィクションのファンタジー世界だけでなく、現実の社会にも確実にあるものだったりもすることにも、ハッとする方は多いだろう。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

回想を、現在の物語と平行して描くことにより成し得たこと

新たな物語の軸を用意するだけでなく、構成そのものも原作からかなり変わっている。具体的には、キャラクターそれぞれの回想は、原作では「一気」に描くことが多かったのだが、今回の実写ドラマでは現在の物語と同時平行して語られる場面が多くなっている

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

ともすれば「現在の物語がいちいち止まってしまう」煩わしさを感じてしまいそうだし、その不満を持つ方は少なからずいるとも思う。しかし、それ以上にキャラクターそれぞれが過去の出来事を思い出すことが、危機的状況から脱出を試みる様とシンクロしていたり、はたまた「心の強さ」をさらに強く表現することに繋がっていたので、個人的には大いに肯定したい。

特に2話中盤でルフィが陥るとあるピンチと、その時の回想は、彼が「仲間をひたすらに信じる理由」を示す見事な演出だった。また、原作では回想それぞれが「そのキャラ本人だけが知っている」パターンが多かったのだが、今回の実写ドラマでは一部が「誰かに聞いてもらう」形に変わっていて、だからこその信頼や連帯が生まれる様にも注目してほしい。



Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

ナミのさらなる心理描写

原作との展開の差異や、キャラクターそれぞれの細かな改変に触れているとキリがないのだが、それでもナミの心理描写の素晴らしさについて触れておこう。

原作よりも早めに登場し、「IF」のルフィとゾロとの共闘が描かれることもたまらないが、彼女が他人を思いやる、優しく繊細な性格であることがより伝わるようになっていることに感動した。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

例えば、屋敷に住むおしとやかな少女のカヤとの会話は(原作でナミの過去を事前に知っているとより)尊いものに感じられるし、ある理由で麦わら海賊団の元から去ろうとする場面において「仲間のこと」が一時的に彼女を引き留める場面もある。

そして第5話における、ナミとゾロが「予想を外したら一杯酒を飲む」ゲームをする場面があまりに素晴らしい。それぞれの過去に抱えた重さや切実さ、それでもなお分かり合えるかもしれない2人の心の距離が近づいた、あまりにも尊い会話が交わされていたのだから。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

『ONE PIECE』の物語は、楽しい冒険が描かれていながらも、キャラクターの背景や過去は重く、だからこそ仲間と共闘し運命を切り開く物語にこそ感動がある。ナミを筆頭にキャラクターそれぞれの心理描写にこだわったことで、その魅力がさらに強まったとも言えるだろう

とにかく今回の実写ドラマは、スタッフとキャストの尽力のみならず、作品への愛情と新たな魅力を引き出す工夫が合わされば、「ここまでのものができる」ことを証明した。全8話を観終わって思ったのは、素晴らしい作品を作り出したクリエイターへの感謝だった。

Netflixシリーズ「ONE PIECE」8月31日(木)世界独占配信 / (C)尾田栄一郎/集英社

批判の声が多くなりがちな実写化というアプローチへの認識を、この実写ドラマ版『ONE PIECE』がガラリと変えることは間違いない。何より、多くの人に観られることを願っている。

(文:ヒナタカ)

▶︎Netflixで「ONE PIECE」を観る

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