続・朝ドライフ

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2023年09月05日

「らんまん」野宮を第一発見者として認めないこの国のひどさ<第112回>

「らんまん」野宮を第一発見者として認めないこの国のひどさ<第112回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第112回を紐解いていく。

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鰹節たっぷりの蕎麦

綾(佐久間由衣)竹雄(志尊淳)が屋台をはじめました。メニューは土佐料理で、それに合う酒も各種ご用意。土佐といえば、鰹。鰹出汁のきいた蕎麦で、花鰹をたっぷりまぶします。

落語の「時そば」では「鰹節をおごったな」という言葉がありますが、鰹をたっぷりまぶしたわけではなく鰹をたっぷり出汁に使ったということです。出汁といえば鰹、とはいえ、鰹節をたっぷりまぶすのは珍しい。そこが竹雄流なのでしょう。常識にとらわれない創作料理という感じです。

綾はまだ酒造りの夢を諦めてはいなくて、そこに藤丸(前原瑞樹)が関わってきます。彼は酒問屋の息子で、かつ、菌類に興味があることは前々から語られていました。ここでマッチングです。
これまでずっとくすぶってきた藤丸の夢がようやく動き出す予感です。

「おれのこれまでの時間なんにもなかったとは思いたくない。おれだって何か果たしたくて」
(藤丸)

竹雄が戻ってきて万太郎はにっこにこ。それを少し嫉妬する虎鉄(濱田龍臣)寿恵子(浜辺美波)
竹雄が万太郎の助手の一代目。寿恵子は二代目。虎鉄は三代目としてはりきります。

虎鉄も目下、夢や希望に満ちあふれている。

綾たちの屋台を中心にみんなに希望がーーと思いきや、悲喜こもごもで。

寿恵子の場合、「わたしはきっともう万太郎さんと一緒に日本中を歩くことなんて無理かな」と諦め気味。子供もたくさん(また妊娠中)いるので子育てしないとなりませんから(でもそれがいやなわけでもありません)。

万太郎は波多野(前原滉)から、不穏な話を耳にします。
野宮(亀田佳明)がイチョウの精虫の発見をしたことが、世界中から疑われていると。
第一発見者が野宮であることを認めないという大学に、波多野は抗いますが、農科大学の教授になるので、立場上、苦しい。「僕は野宮さんを見捨てたんだ」と肩を落とします。大学で上に行こうとすると、みんな、何か大事なことを捨てることになるのか、と暗澹たる気持ちになります。

せっかく屋台で楽しそうな話になったと思ったら、まだずーーんと重たい話に。
ただし、ドラマの構成上は、波多野の話のあとに藤丸の話が来るので、ずーんとなったあと、明るい希望があって、同じ時、違う場所から、みんなが月を見ることで、重さが緩和されています。

最終的に、万太郎が月を見ながら、野宮のことを深く思うところで終わります。

太陽と月のたとえは擦られ過ぎて使うのをためらいますが、最もわかりやすいので仕方ありません。月を見ながら野宮を思うとなると、これはどうしても、野宮が「月」に例えられているように思います。太陽は、学歴社会など、世間のルールに沿った人たちで、月は、正当なルールから外れているけれど、美しく輝く生き方をしている人たち。

この回、月を見ていた人たちは、月のように密かに慎ましく、自分を信じて、美しく生きている人たちです。彼らに祝福がありますように。

(文:木俣冬)

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