「ブギウギ」血が繋がってないけど家族であることを噛みしめる<第110回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第110回を紐解いていく。
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名曲「父ちゃんブギ」
父、危篤と聞いてスズ子(趣里)が愛子(小野美音)を連れ慌てて香川に来ると、梅吉(柳葉敏郎)は寝たっきりながら、意識があって、話もできました。もしかしたら、スズ子が帰ってきたから、元気になったのかもしれない。そういうことってあるもので。我が家も、忙しいときにかぎって身内が危篤と呼び出され、そのたび復活して、複雑な気持ちになったことが何度もありました。
連絡する側からすれば、危篤とすれば、帰ってくる、という期待もあるのかも。
何にせよ、梅吉は孫の愛子に会えたのも嬉しかったことでしょう。最初は距離のあった愛子も、亀を媒介に梅吉と仲良くなります。
梅吉「あほやけどかわいいねんそいつ(亀のこと)」
愛子「あほなん?」
梅吉ががんばって起き上がり、愛子と亀の写真を撮影しているとき、
スズ子は倉庫で見た数々の水着の写真について、花田松吉(木内義一)とユキ(沢暉蓮)に「へんなこと 聞いてよろしいでっか」と訊ねていました。
まさか、愛子にも「へんなこと」をしていたら、と不安にさせる流れです。
ですが、みんなに好かれる梅吉の人柄ゆえ、水着写真を撮ってもらった女性たちは喜んでいたという。なんと、ユキも撮ってもらっていたのです。
ヌードがなくてよかったと思います。なんならそれも撮っていそうに想像してしまいますが、朝ドラでそれは無理でしょうし、昨今のコンプライアンス的にもたぶん、無理。
まじめに働いていたと思っていた、とスズ子はぷんすか。
まじめに働いてはいたけれど、どこか羽目を外しがち。それが梅吉の魅力なのです。
楽しく写真を撮ってもらい、ごきげんさんで梅吉の部屋から戻ってきた愛子は、にーっと笑います。その顔は梅吉のにーっという顔に似ているし、さらには、スズ子のにーっという顔にも似ていました。
そうか、趣里さんのにーっと、顔面に力を入れた満面の笑顔は、柳葉さんの笑顔を意識していたのかもしれません。
血が繋がっていなくても家族、ということがここで示されたような気がしました。血が繋がっていると、姿形がどことなく似るものですが、スズ子と梅吉の場合、血が繋がっていないので、DNA的には受け継いだものはないはず。
でも、精神的なものは一緒に長く暮らしていれば似てきてもおかしくありません。スズ子の陽気なエンターテイナーっぷりは梅吉ゆずりでありましょう。
スズ子は梅吉の部屋に行き、意識を失って見えた父に向かって、実の父娘ではないことをなぜ話してくれないのか、と独り言のように言います。
いつかホントのことを言ってくれるのを待っていたスズ子。でも梅吉はツヤ(水川あさみ)に釘をさされていたのですから言うわけありません。
梅吉は起きてスズ子のひとり語りを聞いていて、ほんとの父娘なんだから、言う必要ないだろう、と言うのです。こういうのは、人情ものとして、染みます。
梅吉「1番優しいのはスズ子や。なあんも知らんふりしてくれとったんやな。知らんふりしてわしら親にさせとってくれてたんやな」
スズ子「そやで こっちも感謝してほしいわ」
感動的だけど、こういうふうに軽く受け流す感じもいいのいです。
血は繋がってないけど心と心で繋がっていると言って、
梅吉は、スズ子と「東京ブギウギ」の替え歌「父ちゃんブギ」を歌います。
替え歌だし、はじめて一緒に歌うのに、なんだかふたりの調子はうまく合っていて。とくに秀でた替え歌でもないのに、その素朴すぎるところがまた泣けるのです。「あほや」というのがぴったりで。つい、笑ってしまうスズ子。でも、泣いてしまう。
体の苦しみを必死で我慢してにーっと笑っている梅吉。
一旦、歌って笑って緩んだ、スズ子の身体から、梅吉への思慕と涙がどっと出ます。
素直じゃない、意地張っている人たちが、素直になるのはほんとに難しい。心が決壊したその瞬間をみごとに描いています。
あちこち綻びがあって全部が全部優れた物語ではないですが、こういう良いところが時々あるので見逃せません。
(文:木俣冬)
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