続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年06月13日

「虎に翼」ピンピン体操は実際に行われていた。<第54回>

「虎に翼」ピンピン体操は実際に行われていた。<第54回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第54回を紐解いていく。

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寅子の正論の純度

酔った汐見(平埜成生)を家まで送った寅子(伊藤沙莉)は、ヒャンちゃんこと香淑(ハ・ヨンス)と再会します。
彼女は汐見と結婚していて、「香子」と名乗っていました。そしてどうやら妊娠しているようです。

ヒャンちゃんは寅子が汐見や多岐川(滝藤賢一)といっしょに仕事をしていることを知っていて、でも自分のことを話さないでほしいと頼んでいたようです。

あんなに仲良かったのになぜ……。
帰宅して、寅子が家族に話すと、花江(森田望智)は疑問を述べました。はる(石田ゆり子)はヒャンちゃんの気持ちがわかると言います。

はるも結婚したとき故郷の人たちと疎遠になったと。同じ国のなかでも人と人を区別することがあるのですから、ヒャンちゃんの場合、朝鮮と日本の関係性によるもので、ますます難しい問題でしょう。そのためヒャンちゃんは日本名を名乗っているのです。

翌日、寅子は、朝鮮に戻ったヒャンちゃんがなぜまた日本に戻ってきたかその経緯を、汐見からいくらか割愛のうえで聞きます。

「私にできることはないんでしょうか」と問う寅子に、多岐川は、ないとばっさり。
助けてほしくてもそう言えない人もいるのではないかという寅子に、この国に染み付いている偏見をただすことはできないのだから、いま、寅子ができることをするしかない。それは家庭裁判所の設立のために尽力することだと説くのです。
「いま、この国には愛の裁判所が必要なんだ」

要するに、困っている人が自ら問題解決を求めてきたときの受け皿として、家庭裁判所を作る必要がある。できた暁には、寅子は思いきり、困っている人たちのために仕事をすればいいということだと思います。

人助けをしたい気持ちはあるものの、寅子は何が最適解かわかりません。
おりしも、桂場(松山ケンイチ)によって、花岡(岩田剛典)の妻・奈津子(古畑奈和)と引き合わせられます。このときも、寅子はまず、自分が無力であったことを彼女に謝罪します。

奈津子は、家族が何をいってもだめだった花岡を、まわりが説得して好転していたら「やいちゃうわ」と冗談まじりに返します。そりゃそうだ。寅子の言いようでは、奥様の立場がありません。

花岡はなかなか見る目のある人だったようです。寅子のやや出過ぎた物言いにカチンと、あるいは悲しく思う人もいるでしょう。でもそんなとき、婉曲に返す知性と教養のある奈津子を花岡は選んだのです。

奈津子は、寅子が子供たちのためにチョコレートをくれたことを感謝します。寅子はまだ気づいていないと思いますが、チョコレートを分ける、これこそが寅子の、あのときできた最適解でしょう。花岡を死なずに済ますことはできなかったけれど、一瞬でも花岡家に笑顔をもたらすことができたのですから。

多岐川は、どうしたいかは当人が選ぶことだと言っていましたし、花岡もそんなようなことを言っていました。他者ができることは、ほんの少しきっかけを作ることくらいしかないのです。桂場の場合、こっそり奈津子の絵を何枚も購入しているようです。

と、まあ、ここまで、とても全方向に配慮して、理詰めでよく書かれた脚本で、内容を要約すると、正論しか残らない。それをちょっとコミカルにしてとっつきやすいようにうまく仕立てられています。ただ、真面目さと楽しさ、すべてがうまくまとまりすぎていて、心が思いがけずバウンドする箇所は少ないなあと思っていたところ、桂場が言っていました。

「正論は見栄や詭弁が混じっていてはだめだ。純度が高ければ高いほど威力を発揮する」

聡明な作者は、脚本や寅子の欠点をすべてわかり織り込み済みで書いているようなので、どこかで純度が高い正論が弾ける瞬間を用意しているのでしょう。

以前、寅子は、法律は混じり気のないお水のようなものと言っていて、桂場の心をつついていたし、法律は毛布のようなものとも言っていました。チョコレートは毛布のようなものだったと思います。寅子は心のなかではほんとうはわかっているのに、なぜかいま、ガチガチに固まっていいところが発揮できないようです。はやく、のびのびと寅子の良さを発揮できるときが来ますように。

さて、多岐川が行っていた「ピンピン体操」は、多岐川のモデルである宇田川潤四郎が実際に行っていたと、先日、NHKの情報番組で、解説委員の清永聡さんが語っていました。清永さんの著書の「家庭裁判所物語」にも記されています。清永さんは「三淵嘉子と家庭裁判所」という著書もあり、「虎に翼」では「取材」とクレジットされています。
ドラマの家庭裁判所編は、清永さんの著書の影響がたぶんに大きい印象です。

(文:木俣冬)

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