続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年06月14日

「虎に翼」寅子のチョコレートが絵になった。<第55回>

「虎に翼」寅子のチョコレートが絵になった。<第55回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第55回を紐解いていく。

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直明の目がキラキラ

寅子(伊藤沙莉)の弟・直明(三山凌輝)は、東京少年少女保護連盟で子どもたちのためのボランティア活動をしています。

かつては、経済的な問題から大学進学を諦めた直明でしたが、いまや、学校に行きながら、ボランティアをするまでの余裕がある。それもこれも寅子が働いているおかげでありましょう。恵まれた者が、未来ある子供のために尽力する、極めて正しい選択だと思います。

寅子は直明を、家事審判所と少年審判所の所長たちに会わせることにしました。
キラキラした瞳とハキハキした声で、子どもたちのため。目的はひとつ。団結すること……等々とたたみかける直明に、大人たちは心打たれ手を取り合うことを決意します。

やけに光量をあげた照明で、登場人物たちの瞳に星が入り、肌も美白されているかのように輝いていました。こういう演出をすることで、ここは真面目な場面ではないですよ、と言いたいのでしょうか。寅子の心情も「なんだか釈然としない寅子です」(語り・尾野真千子)と語られます。

折り合うタイミングを逸していた浦野(野添義弘)壇(ドンペイ)は、前途ある若者の意見を聞くという大義を得て折れたのだと、汐見(平埜生成)は推察しました。

直明を使うという、寅子の作戦が功を奏し、少年審判所と家事審判所は合併、家庭裁判所ができることになります。

要するに、家庭裁判所を2ヶ月で急づくりするためには、少年審判所と家事審判所を合併させ、それぞれのノウハウや人材を利用するしかなかったけれど、両者がメンツの問題で、うんと言わないので困難だったということなのでしょうか。家庭裁判所の中身の議論をしていたわけではなく、中身はただひとつ、多岐川(滝藤賢一)の言う「愛」であると。

とにかく体裁を整えないとなりません。
中身よりもまずガワが必要、寅子たちは事務所の部屋探しに必死です。

大晦日、猪爪家の家族や、直明の大学の仲間も総出で、宴会所を借りて作った裁判所を整備。幼い優未(金井晶)も手伝います。設立準備室の職員たちの家族や子供はいなくて、なぜ寅子の家族だけと思いますが、多岐川をはじめとして皆、独り身なのでしょう。汐見の家族は香子(ハ・ヨンス)で手伝いに来ることはありえませんし。

できあがった事務所に、多岐川は、花岡(岩田剛典)の妻・奈津子(古畑奈和)の絵を飾ります。
桂場(松山ケンイチ)がひとりで買ったのではなく、有志で買ったものだったのです。

絵には、3つの手が描かれていました。
その手にはチョコレート。
大人が子供にチョコレートを分け与える絵でした。
つまり、寅子が花岡に分けたチョコがもとになったものです。

ここで感動、なのですが、この物語はもう一歩深くて、まだ先があります。

多岐川は「彼の死を非難して怒り続けねばならん。その戒めに絵を飾る」と言うのです。

法律を守って餓死した花岡を英雄視せず、生きることを諦めたことに怒るのです。ここ、とっても意味深。


「人間生きてこそだ。国や法、人間が定めたもんはあっという間にひっくり返る。ひっくり返るんものために死んじゃあならんのだよ」
(多岐川)

法律は人を縛るものではなく人が幸せになるためにある。
とても大事なことです。
法律は折につけ改定もされるし、よくも悪くも、あるとき価値観が変わります。
男女平等だって家庭裁判所の設立だって、結果的にいいことではありますが、この時代、GHQ が急にやれといって、その中身をしっかり考える以前に、形だけ整えているわけです。

平等は大事だけれど、そのほか、変わっていく法律のなかには変わらなくてもいいことだってあるかもしれません。法を司る多岐川や寅子だけでなく、法のもとに生きる私たちも、考えなくちゃ。学ばなくちゃ、です。

多岐川の過去が汐見の口から語られますが、あまりに濃い内容で一作のドラマになりそうなのでここでは割愛します。汐見さん、昨日の香子の話といい、今日の多岐川の話といい、説明要員として大活躍です。

(文:木俣冬)

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