「虎に翼」寅子新潟へ異動。 そして花江は寅子にキレる<第72回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第72回を紐解いていく。
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寅子、長官にたてつく
アメリカ帰り、口紅が真っ赤になった寅子(伊藤沙莉)は最高裁長官(矢島健一)と多岐川(滝藤賢一)と共にラジオ出演します。多岐川が家庭裁判所の父、寅子が母と称されます。「彼女と夫婦になった覚えはありませんが」と多岐川はやんわり否定します。
なんでも「父」「母」と例えるのもどうかと思います。こんなふうに型にはまった感覚で、家庭裁判所と女性の関わりを説くラジオ番組。
家庭裁判所は女性本来の特性を遺憾なく生かせる職場というような長官の考えに、久しぶりに出た「はて」。
寅子は、男性、女性は関係ない。個人の資質の問題であり、男女を平等に同じ機会が与えられるべきだと自信満々に語ります。長官は「さすが佐田さん、すばらしい」とその場では言いますが、公のラジオという場で長官を諌めるような発言が、長官の気に触るのも当然で……。
このとき、竹中(高橋努)も密着取材を続けていますが、斜めに見ている感じです。
猪爪家では、花江(森田望智)もラジオを聞いていますが、途中で消して、スンっとした顔で食事をします。何か思うところがありそうです(すごく昔のCM「柴漬け食べたい」を思い出してしまった)。
職場では、寅子は長官にたてをついたと囁かれています。
そして、突然、多岐川が血相を変えて、寅子を長官のもとに引っ張っていきます。
寅子は判事補から判事に昇格、でも東京から遠く離れた新潟へ異動が決まったというのです。多岐川はそれをラジオの発言がきっかけではないかと訴えます。
長官は知らん顔。決めたのは桂場(松山ケンイチ)でした。
寅子は寝耳に水で、憤慨する余裕もありません。多岐川だけがキレまくっています。
寅子は判事になれるので、まんざらでもないのかも。ただ、やっぱり新潟は遠い。
さっそく、帰宅して、直明(三山凌輝)と花江に相談します。
花江は最初、家族全員で引っ越しするのかと勘違いしますが、寅子は優未(竹澤咲子)だけ連れて行くと言います。
すると花江は、優未は自分が面倒を見るから、寅子だけ単身赴任すればいいと冷たく返します。花江はこれまで黙って溜めてきたことをついに爆発させました。優未は、寅子に見せていない顔があるのだと。
寅子と花江の食卓をはさんだ対峙のシーンは、まるで夫(寅子)と妻(花江)のように見えます。
家のために懸命に働いてきた寅子、家庭を顧みないほど仕事をしてほしいと求めた覚えはないと主張する花江。
優未は花江には本音を見せ、寅子にはいい子のふりをしていたと知らされる寅子。いい子のふりをしていることに気づけてないのはともかく、新潟に異動になるにあたりなんの葛藤もなく優未を連れていくと考える寅子はまったく不思議な人です。直明のように、仕事で忙しいから優未がひとりになってしまうとまず気になるのが当然の発想でしょう。
いままで家事は花江にまかせっきりで助かってきたなかで、急に子供とふたりきりの生活ができるかな(寅子はこれまで実家を出たことがない)、どうしようと心配になって、どうしたら可能になるかいろいろ頭のなかで考えると思うのですが、そこはドラマ。寅子は単純に母子ふたりで引っ越すと覚悟して、花江と直明に無理だと心配させるのです。
前回のレビューで書きましたが、アメリカに出張に行った時点で、優未のことを、「ブギウギ」のスズ子のように、ひとり残していけないと考えて然るべきで、そこを新潟編の展開のために省いているため、寅子の思考回路が独特に見えるのです。悩むところはあえてのカットなのかもしれませんが。
仕事だと相手の気持ちを考えて、と言える寅子ですが、自分のこととなるとそれが抜け落ちてしまいます。
しかも、その相手の気持ちを考える、ということがどうやら表面的なものもなっているようです。
寅子は、福田瞳(美山加恋)、福田慶太(中村無何有)との離婚裁判を担当していますが、最初は有名な寅子を喜んだ瞳も、寅子の対応を不満に思います。
瞳は不貞行為を働いたため夫に離婚を切り出されていますが、不貞した気持ちをわかってほしいと寅子に訴えます。女性同士だからわかってもらえると期待されているのです。でも寅子は、不貞行為に性別は関係ないと冷静で、理屈ぽく諭し、瞳にがっかりされてしまいます。
瞳の言い分も理解しづらいですが、感情的な御婦人に、男女平等と言ってもピンとこないに違いありません。寅子は男女平等を理想に掲げていますが、世間では、依然として女性とはこういうものという枠組みを信じて生きている女性もいて。そういう人は女性は女性の味方だと思い込んでいるのです。
平等とは何か。平等の考え方も人それぞれのようで……。
ところで、調停委員の根本(清水伸)と長峰(福田温子)。わりとよく出ているので、このかたたちももっと個人の物語があるといいのになあと思います。
(文:木俣冬)
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