続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年07月30日

「虎に翼」涼子(桜井ユキ)の店にもいやがらせが……<第87回>

「虎に翼」涼子(桜井ユキ)の店にもいやがらせが……<第87回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第87回を紐解いていく。

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火のないところに煙は立たず?

放火事件の初公判の日、小野(堺小春)が朝鮮語で割って入った件で、次郎(田口浩正)寅子(伊藤沙莉)に、小野は傍聴に来ないほうがいいと進言します。

小野は休暇をとって裁判を傍聴に来ていました。彼女はかつて朝鮮人と恋をして家族に反対され婚約破棄していたのです。にもかかわらず朝鮮人の公判に顔を出すということは、まだ朝鮮人とのつきあいがあると家族が心配すると次郎は心配するのです。

当人がいないとき、勝手に話題を出すことを寅子はよしとしませんから、次郎をたしなめます。噂とは勝手に広がって、思いがけない形に変わってしまうもので、寅子も太郎(高橋克実)を泣かせたことになっていますから、やっぱり噂は要注意です。

寅子と次郎の話を聞いていた高瀬(望月歩)は次郎のことをすごく怒って、「あんげなやつ」とまた悪く言います。「本気でよかれと思ってるこのクソジジイのおせっかいが」とは、寅子の穂高(小林薫)への感情に似ている気がします。いつの時代も若者は、年寄りがよかれと思ってのおせっかいで、やりたいことを抑制することに対して激しい怒りを覚えるもののようです。
寅子はいまや大人になったようで、高瀬をなだめます。
高瀬は小野をとても気にしているような気がします。

第87回は「噂」のこわさが描かれます。

放火事件について寅子と航一(岡田将生)入倉(岡部ひろき)が合議していると、入倉が弟があやしいと憶測します。
「何事も火のないところに煙は立たずですよ」と、朝鮮人を疑ってかかる入倉に、航一は、「その煙は誰が立てたのか見極める」という視点もあることを提示。放火と火を重ねて、巧い言葉のチョイスです。

航一は、大正時代、関東大震災のとき、朝鮮人が虐殺された事件を例に出します。朝鮮人にあらぬ疑いがかかってのことでした。昭和生まれの入倉はその出来事をよく知りません。寅子も。ここで、世代の違いが描かれます。「ゆとりですがなにか」(日本テレビ)で、ゆとり世代を演じた岡田将生さんが自分より若い世代の歴史観の薄さに向き合っていることをここでは楽しみたい。航一っていつ生まれなのでしょう。

ちなみに、関東大震災での朝鮮人のことは、昨年公開された映画「福田村事件」に詳しく、またNHK のドラマで劇場版も作られた「風よあらしよ」や大河ドラマ「いだてん」でも触れられています。

昼食にライトハウスに行くと、ドアに落書きがされていて涼子(桜井ユキ)が消していました。
月に1、2回、何年も続いている、謎のいやがらせでした。

新潟に来たばかりで地元の人と話し合いを重ねていたとき、一部の人からひいきされていると疑われ、あることないこと噂されたことがあったらしく……。それは玉(羽瀬川なぎ)の件でした。足の不自由な人が地域にいることを問題視されたようで、玉は気遣いながらやって来ました。彼女が涼子から離れようとした理由はここにもあるのかもしれません。

普通なら、この問題からはじまって、玉の葛藤を経て、涼子と玉の関係性がより強固になるという話の流れを作るのがセオリーかなと想像しますが、「虎に翼」は涼子と玉の結びつきを描いてから、実はこんな問題でも悩んでいました、となっています。

劇中、優未(竹澤咲子)のクラスにすぐ怒鳴って嫌われ者のクラスメイトがいて、その子と「普通に接したらいい」と寅子が言ったことで「普通」とは何かという問題提起のようなものもありました。普通の流れとは何か。普通なんて関係ない気がしてきます。

この回、おもしろかったのは、優未が学校で山登りに行く話から、寅子は山登りにいい思い出がないと思い出すところです。花岡(岩田剛典)が崖から落ちた場面、寅子が川に落ちた場面と連続して映ると、ふたりとも仰向けに落ちています。かつて寅子は理想に燃えて、花岡を蹴散らそうとして、いまや、よかれと思ってやったことで高瀬に川に突き落とされてしまう。自分にとって絶対が他者にとって正しいとは限らない。寅子はじょじょに学んでいっているのだと思います。

容易に何もかもうまくはいかない。寅子は涼子の話を聞いて、新しい憲法によってすべての人が平等になったと思ったけれど、異国の人や身体の不自由な人には平等ではない現実に苛立ちます。すべての人に公平なんて無理だと航一は言いますが……。

難しい案件の合間に、優未との溝も埋めるべく努力する寅子の様子も描かれます。たくさん書きたいこと、書かないといけない課題があって、それがぎゅっと詰め込まれてやや整理されてないようにも感じますし、障害者と異国人差別を短時間で一気に書くのは力技な気もします。ですが、実際の世界では、ひとつひとつの課題が順番に問われ解決していくわけではなく、日々解決されない問題が平行しているということを誠実に描きたいのかもしれません。

(文:木俣冬)

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