(C)2024 「Cloud」 製作委員会
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映画コラム

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2024年08月31日

【開催中!】第81回ヴェネツィア国際映画祭:映画ライター注目作“10選”

【開催中!】第81回ヴェネツィア国際映画祭:映画ライター注目作“10選”


8月28日より、三大映画祭のひとつであるヴェネツィア国際映画祭が開催されている。

今年もティム・バートン最新作『ビートルジュース ビートルジュース』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』などの話題作が多数出品されている。

日本からは北野武による60分の中編作品『Broken Rage』や坂本龍一の息子である空音央が生徒を監視するAIシステムをテーマにした作品『Happyend』などが選出された。

今回は、数あるラインナップの中から注目の「10本」について紹介していく。

1.Cloud クラウド(アウト・オブ・コンペティション)

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国内外で根強い人気を博している黒沢清。彼の新作は異色のフィルムノワールである。菅田将暉演じる転売ヤーが恋人と共に郊外へ移り住むのだが、インターネット上で結成された転売ヤー撲滅集団に命を狙われる内容である。

フィルムノワール特有のプロフェッショナルが金や欲望の渦中で後戻りできなくなる様と「転売ヤー問題」を絡めた、ありそうでなかったタイプの作品となっている。



また、本作は2部構成となっておりホラーサスペンスからガンアクションに変わっていく展開にも注目である。リメイク版『蛇の道』以上にパワーアップした銃撃戦から導き出される負の連鎖、悪の本質がヴェネツィアでどのように評価されるのか注目である。

※日本公開は9/27(金)

2.Baby Invasion(アウト・オブ・コンペティション)


先日、WHITE CINE QUINTOで限定上映された全編サーモグラフィー映画『アグロ ドリフト』のハーモニー・コリンは、またもや映像集団EDGLRDを引き連れユニークな新作を放ったようだ。

今回はFPSゲームのように、一人称視点で赤ちゃんの顔のアバターで身を隠す傭兵を追う作品となっている。

WHITE CINE QUINTOでのイベントにて監督は、通常の映画制作に飽きてしまったと語っている。『アグロ ドリフト』に引き続きゲームや音楽、メディアアートを織り交ぜた新しい表現を探求しているといえよう。

3.Apocalipse nos Trópicos(アウト・オブ・コンペティション)

第92回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされて話題となったNetflix作品『ブラジル 消えゆく民主主義』のペトラ・コスタ最新作。

本作はコロナ禍のブラジルにおける宗教と政治との関係性を紐解いたドキュメンタリーである。コロナ禍においてボルソナロ大統領は、公共の場でのマスク着用を義務付けた法律の条項に対し拒否権を行使した。その結果、ブラジル国内で多くの死者を出した。タイトルの「Apocalipse nos Trópicos(熱帯の黙示録)」はこの時期を示している。



映画はボルソナロ政権が宗教を政治利用していたことを踏まえて、コロナ禍を振り返る内容となっているとのこと。

『ブラジル -消えゆく民主主義-』にて、ブラジル初の女性大統領であるジルマ・ルセフが政界の汚職に振り回され資本家や軍によって政権が掌握されていく様子を詳細に捉えていた。国際的に民主主義が崩壊していく現代を読み解く重要な一本になっていると期待できる。

4.April(コンペティション)

今年のヴェネチア国際映画祭の中で最も注目すべきはルカ・グァダニーノとジョージアの新鋭デア・クルムベガスビリであろう。



デア・クルムベガスビリは長編デビュー作『BEGINNING/ビギニング』で第68回サン・セバスチャン映画祭最優秀作品賞・監督賞・女優賞・脚本賞を受賞している。この時の審査員がルカ・グァダニーノであり、この作品に惚れ込んだ彼は後日『ボーンズ アンド オール』の撮影監督として『BEGINNING/ビギニング』のアルセニ・カチャトゥランを起用したのだ。

そして長編2作目である『April』では、プロデューサーとして参加している。本作は、新生児が死亡したことで告発された産婦人科医の閉塞感を描く内容となっている。

『BEGINNING/ビギニング』では、エホバの証人の教会が襲撃され全焼してしまい心の拠り所を失った村を舞台に、教会再建に奮闘する夫と取り残された妻との関係を描いていた。

奥なる存在として抑圧された女性の恐ろしい体験が『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を彷彿とさせるタッチで描かれていた。『April』も同様、メインとなる事件の横にある閉塞感を捉えた作品を予感させる。

そんな『April』が選出されたコンペティション部門にはルカ・グァダニーノの新作『Queer』も控えている。本作は「裸のランチ」で知られているウィリアム・バロウズの「おかま」を映画化した作品である。

「おかま」は「ジャンキー」の続編にあたり、ヘロイン断ちしたウィリアム・バロウズがアメリカ海軍を除隊したアルバート・ルイス・マーカーを拠り所にした経験が反映されている。物書きとして苦闘する中で書かれた本書は、20年近く日の目を見ることなく、彼の知り合いの間で回し読みされていた幻の作品でもある。

数年前にルカ・グァダニーノとデア・クルムベガスビリが出会い、ヴェネツィアで大激突する。まさしく映画のような熱い展開となっており、今年最大の注目である。

5.Harvest(コンペティション)

2010年代に「ギリシャの奇妙な波」と呼ばれる映画の流れがあった。地中海の牧歌的な印象とは裏腹に、不穏な空気感を持ったインディペンデント映画が次々と国際的な場で評価されてきたことにちなんでいる。

しかし、ヨルゴス・ランティモスがカンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭で名声を獲得し、アカデミー賞の常連監督となるにつれ、他の監督の印象が薄まってしまったように思われる。しかしながら、今回のヴェネツィア国際映画祭では「ギリシャの奇妙な波」の重要監督2名が新作を発表しているのである。

ひとり目は『ミス・バイオレンス』でヴェネツィア国際映画祭最優秀監督賞を受賞したアレクサンドロス・アブラナスだ。新作『Quiet life』では、スウェーデンに亡命しようとするも、申請を却下されてしまった家族を描いている。



ふたり目は、コンペティション部門に選出されたアティナ・ラシェル・ツァンガリである。『アッテンバーグ』にてヨルゴス・ランティモスに劣らぬダンス演出で注目された彼女の新作『Harvest』は、経済が混迷とするイギリス中世の村を舞台に共同体を維持するために犠牲となる人を描いた物語とのこと。

『アイヌモシリ』やサフディ兄弟監督作の撮影を手掛けたショーン・プライス・ウィリアムズが制作に参加していることからも、生々しい一本に仕上がっていると予想できる。

果たして、ヨルゴス・ランティモスの次に続くことができるのか期待である。

6.Maria(コンペティション)



昨年『伯爵』で最優秀脚本賞を受賞した、ヴェネチア国際映画祭常連監督パブロ・ラライン監督。歴史上の人物を扱った作品を得意とする彼はマリア・カラスに目を向ける。

パブロ・ララインが彼女に注目したのは必然といえるだろう。マリア・カラスは子どもが望めないことからジョヴァンニ・バッティスタ・メネギーニに冷たく扱われていた。そんな中、実業家であるアリストテレス・オナシスと出会い愛人関係になる。しかし、オナシスが裏切りジャクリーン・ケネディと結婚してしまうのだ。



パブロ・ララインはケネディ暗殺直後のジャクリーン・ケネディを『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』で描いた。

『Maria』ではマリア・カラスの全盛期ではなく晩年、つまりオナシスがジャクリーンと結婚した後を中心に描いており、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』と共鳴しあう内容になっていると思われる。

7.The Brutalist(コンペティション)

コンペティション最長の3時間35分となっている『The Brutalist』は、ホロコーストから逃れた者がアメリカで新たな人生を送ろうとする壮大なドラマである。

監督のブラディ・コーベットは元々俳優であった。初監督作の『シークレット・オブ・モンスター』がヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で監督賞と初長編監督賞を受賞して注目される。一貫してフィルム撮影にこだわる彼は、本祭にて70mmフィルム上映を行うため、130キロを超えるフィルム缶をヴェネツィアへ持ち込んだとのこと。

ヴェネチア国際映画祭が発掘した逸材は、果たして受賞なるだろうか?

8.Pavements(オリゾンティ)

日本では『プーと大人になった僕』の脚本を手掛けたことで知られる異才アレックス・ロス・ペリー監督の新作は、異色の音楽ドキュメンタリーとなっているようだ。

アメリカのオルタナティヴ・ロック・バンドであるペイヴメント。ペイヴメントは2022年に再結成ツアーや、彼らの音楽をベースにしたミュージカル『Slanted! Enchanted!: A Pavement Musical』が上演された。

アレックス・ロス・ペリーはペイヴメントの大ファンであり、本作だけでなくこのミュージカルの演出も手掛けている。

再結成ツアーやミュージカルのフッテージを織り交ぜた伝記映画に仕上がっているとのこと。監督は、以前に青春音楽映画『ハースメル』を撮っている。

ステージ上と私生活とで異なる側面を魅せるミュージシャン像を通じてバンド批評をしてみせた彼が、どのようにペイヴメントの歴史を捉えていくのかに注目である。

9.Vittoria(オリゾンティ・エクストラ)

第34回東京国際映画祭コンペティション作品に選出された『カリフォルニエ』のアレッサンドロ・カッシゴリ&ケイシー・カウフマンコンビ最新作は実話を基にした作品である。

ナポリ出身の美容師ジャスミンが父の死をきっかけに娘を欲するようになり、国際養子縁組を行う。家族と対立しながらも揺るぎない意志で養子縁組を進める様子が描かれているとのこと。



『カリフォル二エ』では貧しさ故に自由を渇望するあまり、先生に反発する少女の内面を生々しく描いていた。今回も渇望を通じて人間心理に迫るドラマに仕上がっていそうである。

10.機動戦士ガンダム:銀灰の幻影(ベニス・イマーシブ)



ヴェネツィア国際映画祭には、VR作品や物理空間と仮想空間を融合させた映像作品が集まるベニス・イマーシブ部門がある。そこに、ガンダム新作『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』が登場。連邦でもジオンでもない傭兵組織の一員として、壮大なガンダムの世界に参加できる90分の長編作品としてヴェネツィア入りを果たす。

監督は『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』の鈴木健一。2Dアニメーションとは異なる演出手法に刺激を受けながらガンダムの世界観に没入できる体験を生み出していったとのこと。

日本では10/4(金)より展開予定で、Meta Quest 2とMeta Quest 3にて体験できるそうだ。

(文:CHE BUNBUN)

参考資料

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