続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年08月14日

「虎に翼」寅子、原爆裁判に関わることに。雲野弁護士(塚地武雅)も再び<第98回>

「虎に翼」寅子、原爆裁判に関わることに。雲野弁護士(塚地武雅)も再び<第98回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第98回を紐解いていく。

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直明のトラウマ

人生には問題が山積み。
寅子(伊藤沙莉)航一(岡田将生)の家を訪問しますが、ついおしゃべりが過ぎてしまい星家の人々をドン引きさせてしまいます。
寅子のおしゃべりの勢いに気圧されたというよりは、知らない航一の愉快な一面を見て戸惑ったというところでしょうか。

おつきあいしているかたのお家に伺ったら、まずは相手のご家族に思い出話などを聞くものであろう(相手に花を持たせる)というルール無用の寅子です(尾野真千子のナレーション意識してみました)。

驚くべきは、優未(毎田暖乃)まで一緒になって思い出話に笑っていること。寅子の野放図を白い目で見るキャラかと思っていましたが、染まってしまったのかと驚いて視聴していると、さすがに、星家の面々の目が笑ってないことに気づいて、止めに入りました。もしかしたら、優未はこの場では仲良し母娘を演じることが最適解と判断し、上品に口元に手を当てて笑っていたのかもしれません。でも、星家のへんな空気に気づいて、身構えたと。

寅子は、星家の人々の冷ややかさに気づいていません。優秀な裁判官ですが、プライベートだと鈍くなってしまうのでしょうか。しかも、航一が「僕たち、一緒に住みますか」と持ちかけても、その真意に気づきません。ここでは優未が敏く、航一と目配せしたり、あとで、寅子にフォローしたりします。優秀で変人な母親をもった優未の精神バランスが心配になります。

一緒に住みますかと聞いて、否定されたときの「なるほど」の言い方がいつもと違うのは、岡田将生さんの巧さ。

星家は妙に薄暗くて、子供たちも影ではむすっとしていて、表に出るときにニコッと作り笑顔になっています。これもまた「スンッ」でありましょうか。
いろんな家族の形があり、航一の事情もあるでしょうけれど、これまで変わり者でふつうに子供と遊んだりすることがなかったであろう中で、急に、再婚相手らしき人物と子供との楽しい思い出を語られたら、実子的に面白くないのも当然でしょう。

一見、穏やかに見える家族たちに問題が、というのは猪爪家にもあります。
直明(三山凌輝)が結婚しても猪爪家で同居したいと言い張るのは、戦時中、ひとり離れて暮らしていたことがいまだにトラウマになっているようです。

戦場の体験がトラウマになった人物を描く物語はこれまでもありましたが、戦争で家族と引き離されたことを引きずって、誰かと一緒にいないといられないというケースは興味深い。あまり語られないけれど、こういう人もいるだろうと思わされました。でも結婚したら妻と家族になるのだから孤独ではないという認識に至らず、「理屈じゃない。とにかく怖いんだよ」と子供のようにごねているのが少し謎ではあります。それが人それぞれということでしょう。

結婚に関して理屈をまくしたてる寅子と、理屈じゃないことを主張する直明は対比になっています。

家族問題がざわついているなか、寅子は新たな仕事場で、被爆者たちが原爆被害の賠償を日本政府に求めた「原爆裁判」に関わることになりました。
史実では、1955年、広島と長崎の被爆者5人が大阪地方裁判所と東京地方裁判所で訴えを起こし、1960年から1963年にかけて9回の口頭弁論が開かれました。8年にも及ぶ審理のすえ、東京地裁は日本政府への賠償は認められないものの、「米国の原爆投下は国際法違反」と判決を下しました。寅子のモデル・三淵嘉子さんは長きにわたる裁判に唯一、すべて関わっているそうです。

ドラマでは、この裁判の弁護を引き受けたのが、雲野(塚地武雅)岩居(趙珉和)で、雲野はさらに、よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)にも手伝ってほしいと依頼します。
戦時中、経営難からよねを解雇して、それっきりだった雲野ですが、大きな問題を前に、法曹の世界に身を置く者としてここは手を組むようです。
雲野は若い世代に歴史を引き継ぐ役割を担っているのではないでしょうか。

寅子は「原爆裁判」に関わるにあたり「そもそもあの戦争とは何だったのか」と深刻につぶやきます。ちょうど戦時中のトラウマを抱えている直明にも接していますし、終戦から10年経っても何も解決していないのです。
寅子のカットのあと、航一の深刻な表情が映るのも、単にプロポーズを無視された悲しみではなく、彼の戦争の記憶(戦前、総力戦研究所にいたことが彼に影を落としている)と関係しているのかもしれません。


(文:木俣冬)

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