アイドルの歌が人を殺す?戦慄の『EVIL IDOL SONG』

 (C)2016キングレコード

お盆を過ぎて、ようやく酷暑の域からは解放されましたが、まだまだ暑い日は続きます。

当然まだまだ恐怖で人々を涼しくさせるホラー映画も大活躍!

8月25日からは東京キネカ大森、名古屋シネマスコーレ、大阪シアターセブンにて毎年恒例、洋の東西、新旧問わずのホラー映画祭《第5回ホラー秘宝まつり2018』が開催されます。

それを記念して(?)、今回はホラー秘宝まつり2016で上映されて好評を博した『EVIL IDOL SONG』をご紹介。

この作品、何と聴いた者は死んでしまう殺人ソングを歌うアイドルの悲劇と惨劇を描いたホラー映画なのです!

追い詰められた売れないアイドルが
悪夢の中の歌を歌い出すと……

『EVIL IDOL SONG』の主人公は、グラビアをやりながらシンガーソングライターとして活動する売れないアイドル藤崎佳奈(藤田恵名)です。

路上ライヴをやってもオタクが3、4人ほど集まるのがせいぜいで、なかなか目が出ない不安などからか、彼女はいつしか黒い影に付きまとわれる恐怖に怯えるようになっているようです。

ついに事務所から枕営業まで強いられてしまった佳奈。

その後、黒い影の恐怖はエスカレートし、眠ると死んでいくファンの悪夢を見るなど、精神的にどんどん追い詰められていきます。

そんな折、ふと彼女がその悪夢の中から聞こえてくる歌のメロディを口ずさむと、たまたま聞いていたホームレスが意識を失ってしまいました(しかもその直前、「もっと歌って」と彼女に懇願する!?)。

もうそのメロディを口ずさんではいけないと思いつつ、脳裏からはそのメロディが離れず、またまもなくして枕営業の際の映像が流出してしまったことから、世間の悪意の目にさらされていく佳奈。

溜まりに溜まっていくストレスや怒りから、佳奈の精神は次第に蝕まれていきます。

と同時に、彼女はあのメロディに歌詞をつけて歌にしてしまうのでした……。

かつて、聴いた者がことごとく自殺してしまうという逸話を持つ《暗い日曜日》という歌が実在していますが(この映画の中でも、同歌が引き合いに出されます)、本作はアイドルと殺人ソングのギャップからホラー要素を際立たせていくあたりがユニーク。

そういえば大島優子をヒロインに当時のAKB48のメンバーが大挙出演して“歌ったら死んでしまう歌”の都市伝説をモチーフにした原田眞人監督の『伝染歌』(07)を彷彿させるところもありますが、こちらは“殺人ソング”そのものの恐怖に着目しながら、悪魔に魅入られたヒロインの心の闇に肉薄していくのでした。

https://www.youtube.com/watch?v=ay7KqLwQlJ8&feature=youtu.be

悪魔にとり憑かれた
歌声がもたらす刃

佳奈に扮する藤田恵名は、彼女自身がシンガーソングライターとグラビアアイドルを兼ねた“シンガーソングラドル”として活動している存在なだけに、可愛らしさや歌唱力は当然として、演技力もなかなかのもので、また同業者としてヒロインの苦悩も肌で理解している分、堕ちていくアイドルの闇を恐ろしいほどのリアリティをもって熱演しています。
(歌そのものも、映画を見終えた後もかなり耳に残ります……)

監督は2008年に撮った『大拳銃』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞および第31回PFF審査員特別賞を受賞、2011年の『へんげ』では第16回ファンタジア映画祭特別賞を受賞して注目された大畑創。

ダークファンタジーやホラーを得意とする彼の悪夢的資質がここでも遺憾なく発揮されています。

前半は売れないアイドルとしてどんどん追い込まれていくヒロインの心理状態が巧みに描かれていきますが、後半は殺人ソングそのものが引き起こす恐怖はもちろんですが、驚くことに精神的な極限状況下に置かれた人間ならではの狂気と、それに同調していく人々の狂気が、時にブラックユーモアのように、それでいて人間の意外な真理であるかのように奏でられていきます。

そこに一役買うのが、悪魔に魅入られたヒロインに取り込まれたかのように狂気の域に陥っていく事務所社長(屋敷紘子)であったり、ずっと売れない彼女を応援していたファンであったりと、そういった部分に私自身は大畑監督のメッセージをくみ取れた気がしました。

これ以上のネタバレは厳禁ですが、クライマックスは歌がもたらす大惨事であるのはある程度予想がつくこととはいえ、実質はそれ以上のサプライズが待ち受けています。

ちょっと予想外の展開も踏まえつつ、楽しんでいただければと思います。

[2018年8月24日現在、配信中のサービス]
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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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