歴史ある銀座の映画館の、新しいチャレンジ。「丸の内ピカデリー爆音映画祭」boid樋口氏ら語る。

■「役に立たない映画の話」

キングコング:髑髏島の巨神 メイン

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「丸の内ピカデリーの存在感を見せたい」。

 このところ映画館独自の音響システムを使った映画上映が頻繁に行われるようになった。代表的なところでは、古くはユナイテッド・シネマのウィンブルシート、立川シネマシティの「極上爆音上映」「極上音響上映」、イオンシネマ海老名のTHX上映、川崎チネチッタのLIVE ZOUND上映など様々あるが、どちらかと言えばローカル地域での実施が多かった。

ところが東京のど真ん中、丸の内で爆音上映が行われる。

キングコング:髑髏島の巨神 爆音映画祭 ロゴ

しかも会場は丸の内ピカデリー。有楽町マリオンに位置する3スクリーンの、歴史ある映画館だ。題して「丸の内ピカデリー爆音映画祭」。有楽町という恵まれた立地条件で、あえてこうした試みを行うのは、いかなる理由からだろうか。まずは丸の内ピカデリーの伊地知俊之支配人に、その意図をお尋ねした。

「つまり他の映画館とは違うことをやろうというわけです。私は新宿ピカデリーの立ち上げから5年間支配人を務め、1年半前に丸の内ピカデリーの支配人になりました。正直言って、現在の丸ピカはシネコンに負けています。でもここは松竹の看板劇場であり、かつて『男はつらいよ』シリーズを上映した映画館です。改めて、丸の内ピカデリーの存在感を見せたい。他館との差別化という意味で、2014年に「シネロック・フェスティバル」をローソンさんと開催し、その第2回を2016年夏にやりました。その時音楽を主体にした映画を15本上映しましたが、プリンス主演の『パープル・レイン』や『セッション』『ストレイト・アウト・コンプトン』といった作品は、とてもお客さんの入りが良かったわけです。この時初めて樋口さんのboidに協力してもらって爆音上映を行ったわけですが、今回は新作やハリウッド映画の大作でそれをやってみようという試みです」

 3月25日から全国公開された「キングコング:髑髏島の巨神」は、銀座地区では丸の内ピカデリーで上映されているが、この作品をメインに「丸の内ピカデリー爆音映画祭」と銘打ち「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「マッドマックス 怒りのデス・ロード/ブラック&クローム・エディション」「ダークナイト」「パシフィック・リム」「ゼロ・グラビティ」の計6作品に加えて「オアシス/フジロックフェスティバル’09」を有楽町マリオン別館の丸の内ピカデリー3で2週間に渡って爆音上映を実施する。

boid参上。樋口泰人による入魂の音響セッティング。

 音響のセッティングは、これまで多くの爆音上映をプロデュースしてきたboidの樋口泰人が務める。樋口の手による爆音上映は、映画館にライブ・コンサート向けの大規模かつ高品質な音響機器をセッティングし、作品の持つ音の世界や可能性を極限まで探求し、高品質な音を大音響で表現することに定評がある。

「初めてこうしたことをやったのは2004年5月1日、今は亡き吉祥寺のバウスシアターでした。バウスシアターは映画館でしたがコンサートや演劇などもやっていて、ライブ用の機材があったんです。それを使って当時あまり多くなかった音楽映画を楽しんでいたら、“本格的にやってみては?”とバウスシアターのスタッフに誘われて、それでニール・ヤングの『イヤー・オブ・ザ・ホース』と『デッドマン』を上映し、他にマーティン・スコセッシ監督の作品をやりたかったのですが、上映可能な作品が『クンドゥン』しかなくて、それを爆音上映してみたんです。そうしたら凄いんですよ、僧侶たちの読経の声が。結局それが一番面白かった。いわば今までとはまったく別の空間が出来上がり、そこに視覚が変わって、目の情報だけで捉えてきたことが一気に変わったわけです。それで爆音上映は音楽映画だけじゃなくて、劇映画にシフトすることにしました」と樋口は語る。

 その樋口も、今回の丸の内ピカデリーのような大バコでの爆音上映は初めての体験だと言う。

「丸ピカ3は530席。これまでは200~300席の会場でやっていましたので、今回の問題は劇場内での音の響き方や天井の高さがどれほど影響するかでした。『キングコング:髑髏島の巨神』は前方のスピーカーを重視していて、前の席3列と後ろの席3列では音の聞こえ方が違います。それと、シートの背の高さによっても違います。深く座ると聞こえ方が違ってくると思います。そこからスピーカーの位置を変えたりしました。うれしかったのはスクリーンが大きいから、画も広く上映出来るんですよね。音さえあまり酷い状態でなければ、確実に面白くなります」。

「もはや音響を5.1chとか7.1chで捉えていません」

 今回boidがこの映画祭のために丸の内ピカデリー3に設置した機材が、フランスL-Acoustics社のARCS & SB218 Systemで、「一般的なスピーカー・システムは、隣り合ったエンロージャーの水平軸上の干渉が強すぎるため、結果的に明瞭度を大きく損なうことになりますが、ARCSではそのような事象が起こりません」というあたりが特徴とのこと。

 樋口のサウンド・デザインを忠実に再現するサウンド・エンジニア髙橋遼太郎も「もはや音声を5.1チャンネルとか7.1チャンネルとかで捉えていません。音を全てミックスしてしまうやり方で、場内のスピーカーをすべて鳴らす。ですので28系統の音を作っていると言えるでしょう」と語る。

「“映画は製作者たちのものではない” という考え方」。

 樋口によれば「自分が好きでない映画ほど、爆音でみて欲しい」と語る。その真意はといえば、「爆音上映の隠れた意図として、“映画は製作者たちのものではない” という考え方があります。つまり作品の中に隠れたモノが音によって分かり安く現れることを我々は目標としています。それを製作者がコントロールしようというのは、ちょっと違うんです」と言う。

我々が日常的にホームシアターで映画のパッケージ・メディアを楽しむ際、室内環境や自分の好みのサウンドにするために音量を調整する。すると、いままで見えて来なかった新しい表情が作品から見えることがある。そうした気づきを得たことの楽しさ。これこそを樋口たちは爆音上映で狙っているのだろう。

「必ずしも原音を忠実に再現することにはこだわっていない」と樋口が言うように、彼らの手で音響調整された作品から、作り手の意図していなかった要素が発見できれば、見慣れた名作を新しい視点で捉え直すことも出来ることだろう。

キングコング:髑髏島の巨神 場面写真

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「シネコンでの爆音上映は、むしろ難しいんです」

 伊地知支配人によると「丸の内ピカデリーは新宿ピカデリーと比べて、年齢の高い観客が多い映画館ですが、今回の『爆音映画祭』では、いつもより若いお客さんが多く見受けられます。マリオン本館にある丸ピカ1,2での爆音上映は、映画館が隣接していることと、設備が古いために実現出来ませんでしたが、丸ピカ3は別館ですので大丈夫です。下層階にあるルミネさんには、月に1回情報交換のための会合があるのですが、そこでこういう上映をやることをお知らせしてあります。現在までに音漏れなどに関する苦情をいただいたことはありません」とのこと。

 また樋口も「爆音上映は、むしろシネコンのほうが難しいんです。上下の階層に振動が伝わってしまったり。願わくば1スクリーンだけ独立していたり、1階か地下1階に位置する映画館がベストですね」と語る。

そういう意味でも丸の内ピカデリー3での爆音上映は、今後定期的に実行することで、新しい銀座の名所名物となるかもしれない、歴史ある映画館のチャレンジングな試みと言えるだろう。

 「丸の内ピカデリー爆音映画祭」は、4月7日まで丸の内ピカデリー3にて開催されている。オフィシャルサイトでスケジュールを確認し、作品の新しい表情を発見して欲しいと思う。

marupicca-bakuon.com

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(取材・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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