ディズニー・アニメが起こした奇跡を描いた感動のドキュメンタリー!『ぼくと魔法の言葉たち』

■「キネマニア共和国」

ぼくと魔法の言葉たち ポスター 

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良きにつけ悪しきにつけ、映画は人に大きな影響を与える力を兼ね備えています。1本の映画を見て自殺を思いとどまった人もいれば、ショック死してしまった人もいます。プロパガンダの道具として人を洗脳することも可能です。

しかしながら、どうせなら良きことに映画は作用されていただきたいもの。

その意味でもドキュメンタリー映画『ぼくと魔法の言葉たち』を見て、映画ファンでいてよかったと思わさざるを得ないでしょう。なぜなら……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.221》

本作はディズニー・アニメーション映画が起こした奇跡の実話を描いた作品だからです!

自閉症の少年が見続けていた『リトル・マーメイド/人魚姫』がもたらしたもの

『ぼくと魔法の言葉たち』が描くのは、あるアメリカの家族サスカインド一家の次男オーウェンの人生です。

彼は2歳のとき自閉症に侵され、言葉を失い、孤独な世界に閉じ込められてしまいます。

家族の献身も空しく、6歳になっても誰ともコミュニケーションをとれないオーウェン。しかし、あるとき父と母は彼がかすかに発するモゴモゴした言葉が、実はディズニー・アニメーション映画『リトル・マーメイド/人魚姫』に出てくる台詞であることに気づくのです。

オーウェンはそれまでビデオテープが擦り切れるように『リトル・マーメイド/人魚姫』などのディズニー・アニメ映画を見ていました。

もしかしたら、ディズニー・アニメを通じて彼とコミュニケーションをとれるかもしれない!

かくして家族はオーウェンと会話するために、ディズニー・アニメをツールとして用い始めるのでした……。

本作はディズニー・アニメによって心を取り戻し、絆を取り戻すことができた家族の奇跡を記録したものです。

監督はロジャー・ロス・ウィリアムズ。2010年の短編ドキュメンタリー映画『MUSIC OF PRUDENCE』でアフリカ系アメリカ人監督として初めてアカデミー賞を受賞した彼は、これまで障害や貧困、人種差別など、一貫して社会から疎外されがちな人々にスポットを当て、対象への慈愛と社会の偏見などに対する怒りなどを訴えてきました。

そんな彼だからこそ、オーウェンが自閉症というハンデを乗り越えて、健気に生きていく過程を活写することに成功しているのだと思います。

今回、劇中にさまざまなディズニー作品の映像が登場しますが、これはディズニー社としては異例ともいえるもので、同社が作品の趣旨に大いに賛同したがゆえに使用許諾を得ることができたのです。

ぼくと魔法の言葉たち

(C)2016 A&E Television Networks, LLC. All Rights Reserved.

勧善懲悪の虚構からリアルな現実と向き合う困難と勇気

本作の興味深い点は、単なる美談のみに終わらせることなく、ディズニー・アニメによって家族と、そして社会と向き合うことができたオーウェンの、その後の心の惑いなども隠さず描いていることです。

これはディズニー・アニメに限らず、一般的にファミリー向けの映画は明快な勧善懲悪で、それゆえに子どもたちに夢と希望を与えることができるわけですが、しかし現実の社会はもっと複雑で、悪が善に勝つこともごく普通にあれば、人間の感情も通り一遍のものでは済まされません。

映画はあくまでも虚構。
人生はあくまでも現実。

成長したオーウェンに、彼女ができます。ディズニー・アニメなら、そこでハッピー・エンドですが、現実のふたりの交流はその後も続き、やがては意志のすれ違いをもたらし、ついには……。

こういった日常の中で起きる心の繊細な揺れや、非情な社会そのものに対し、文字通り子どもの心を持ったまま大人になったオーウェンはどこまで対峙することができるのか?

しかし、そこで彼をサポートしてくれるのが両親であり、兄であり、つまりは家族なのでした。

ディズニー・アニメで育ったひとりの若者が、いかにしてディズニー・アニメを乗り越えていくか?

しかも、それを愛したまま……。

そんな人生の重大な課題を与えられ、苦悩しながらも健気にそれを克服しようとするオーウェンの勇気ある姿にこそ、同じディズニー・アニメのファンであり、映画ファンでもある我々も共感し、感動できるのだと思います。

ディズニー作品はもとより映画そのものを愛する人々に、広く鑑賞をお勧めしたい逸品です。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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