『ちはやふる 上の句』のここを観て欲しい!王道スポ根の青春映画として最高峰である理由を大いに語る!

ちはやふる-上の句-

2016年に公開された『ちはやふる』2部作、その前編である『上の句』が本日3月9日、後編である『下の句』が3月16日に金曜ロードSHOW!で放送されます。

2部作とも、主演の広瀬すずを筆頭にした若手俳優の卓越した演技、入念なリサーチと妥協のないトレーニングの賜物である“競技かるた”の迫力、末次由紀による原作マンガを見事に再構築された脚本、それらの魅力を押し上げる躍動感のある演出や音楽など、すべての要素がエンターテインメント、青春映画として最高峰であると断言できる素晴らしい作品に仕上がっていました。

本作の魅力を挙げるとキリがありませんが、ここでは『上の句』の見所、とくに“映画ならでは”の細かい演出がいかに素晴らしかったか、ということを中心に解説してみます!

※以下からは『ちはやふる 上の句』の内容に軽く触れています。核心的なネタバレは避けているので未見の方でも大丈夫と思われますが、予備知識なく映画を観たい場合はご注意を!

1:原作マンガからの見事な再構築がすごい!
2部構成の意義はこれだ!

『上の句』は原作マンガを読んでいなくても存分に楽しめることはもちろん、原作を読むと大幅にアレンジされた物語の構成にも驚き、感動できるでしょう。

原作では最初に“小学生編”を描いていたのですが、『上の句』ではその小学生時代の出来事を断片的に“回想”として書く程度にとどめています。メインとなるのはあくまで高校生になった主人公たちの姿であり、部員を集めて切磋琢磨しながら試合へ臨むという“王道のスポ根ドラマ”なのです。

2部構成でありながら前編の『上の句』だけでもその王道のスポ根ドラマが“キリの良いところまで決着がつく”のも美点ですし、好きになったキャラクターが『下の句』でさらに(苦悩を経て)成長していくということ、題材のかるた競技がそもそも“上の句と下の句がセット”であることも重要です。2部構成に確かな意義があり、そのために面白みが増している作品とも言えるのです。

※2部構成の意義については、『下の句』の公開時にも以下の記事で書きました。
『ちはやふる 下の句』感想、“個”と“全”の力を描いたバトル映画だ!

ちはやふる -上の句-

(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

もしも、『下の句』のウェットにも感じるドラマを先に描いてしまっていたら、映画『ちはやふる』はここまでの支持を得ることはなかったでしょう。まずは前編でキャラクターの“陽”の部分の魅力やスポ根ドラマとしての面白みを追求し、後編で彼らの内面を掘り下げてドラマとしての奥深さを追求する、という構成はエポックメイキングであり、2部構成の作品として理想的なのではないでしょうか。

2:“部員集めの前”の演出がすごい!
“屋上”という場所から理解できることとは?

かるた部員それぞれが個性豊かで魅力的で、とくに『上の句』では“部員集め”も見所になっていることは言うまでもありませんよね。序盤のシーンをよく観てみると、主人公の千早と太一が部員勧誘を始める前に、他3人のメンバーもすでに画面に登場していたりもするのです。

太一に(そちらは昔のことを覚えていないのに)なれなれしく話しかけて来た“肉まんくん”はもちろんのこと、太一が告白のために女子に呼ばれた時には“机くん”が画面に見切れていたりもするのです。初登場時から「肉まんくんは愛想は良いけど無神経なところもある」「机くんはその名の通り机にかじりついている」というキャラクターの特性を初めからわかりやすく示している、と言っていいでしょう。

そして、太一と千早が閉じ込められた屋上の扉を勢い良く開けて助けてくれたのは、古典オタクの“奏ちゃん”でした。この屋上は、(奏ちゃんと同様に急にやって来た)千早が太一に“かるた愛”を説いた場所であり、後で奏ちゃんが百人一首の素晴らしさを千早に説いていた場所でもあります。ともすれば、この屋上は「“好き”が溢れている世界」とも解釈でき、千早と奏ちゃんがともに好きなもの(かるたと和歌)への情熱にまっすぐであると、演出上でも理解できるようになっているのです。

同時に、太一がその屋上に閉じ込められて、猪突猛進にやって来た千早に、一方的なまでの“かるた愛”を聞かされて笑ってしまうということも、その後の太一の、千早の言動に振り回されたり、なんだかんだで面倒を見てあげるキャラクターの“らしさ”が詰まっています。説明的なセリフでなく、こうした映画オリジナルの演出で、彼らのことが直感的にわかるようになっている……これも本作の美点でしょう。

余談ですが、太一は告白された女子の付添人から「めっちゃ金持ちで、すんげえ頭よくって、スポーツ万能でその上イケメンだからって、調子こいてんじゃねえぞ!」と盛大にディスられ(?)ていました。これはよい意味で説明的なセリフであり、“少女マンガ(を原作としたキラキラした恋愛映画)によくある設定”の皮肉なのかもしれませんね。

その太一は屋上で乗り出した千早のスカートがなびいているのを見て(パンツが見えそう)、ごまかすようにその場を離れるというシャイ(?)なヤツなので、その説明的なディスりだけが彼の本質ではない、とすぐに示しているというのも見事なものです。

ちはやふる -上の句-

(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

3:“机くん”の映画オリジナルの描写がすごい!
和歌の解釈から生まれた魅力はこれだ!

『上の句』で多くの人が共感し、応援したくなったのは、森永悠希演じる“机くん”でしょう。彼はそのあだ名の通り、いつも机に座っている秀才にして孤独を抱えている少年。彼にかるた競技がどのような変化をもたらし、そして成長へとつながるか……本作を観た人であれば、誰もが語りたくなるポイントです。

ちはやふる -上の句-

(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

映画での机くんが“秒単位で時間を気にしている”ということにも注目です。「11秒でここを出ないと塾に間に合わない」などと言い、会話の途中でも足早に部室を去ろうとする机くんでしたが、千早に「私は机くんじゃなきゃヤダ、私たちには机くんしかいない!」と言われるとさらに早歩きになるも、校門を出てから“数秒”だけ悩んでいました。

これは、時間という合理的な判断基準で行動している机くんの価値観に少しだけ“ほころび”が生じた瞬間であり、同時に“時間”というマンガ(原作)ではできない“映画ならではの表現”で彼の心の揺れ動きを示しているシーンとも言えるでしょう。

さらに、中盤には「もろともにあはれと思へ山桜 花より外(ほか)に知る人もなし」という和歌が詠まれ、古典オタクの奏ちゃんが「寂しげな歌ですね」と言った時に机くんはうつむいていましたが、千早が「私はちっとも寂しくないよ」と言ったとき、机くんは驚いたように彼女の方を振り向いていました。

きっと、机くんは「もろともにあはれと思へ山桜─」に、自分の孤独だった境遇を重ね合わせていたのでしょう。しかし、劇中でも語られていたように、和歌にはさまざまな解釈があるもの。この時の千早の「あなたがいれば、私はがんばれる。もっと、もっと、深くわかりあいたいって」というまっすぐな言葉は、まさに机くんの価値観を変えてしまうものだったのでしょう。

この和歌の解釈や、中盤の山登りで部員たちが転んでしまう机くんに“手を伸ばして”助けてくれるシーンを覚えておくことで、クライマックスの感動が何倍にも膨らみます。机くんというキャラクターの内面を描くことと、多様な解釈のある百人一首の和歌にリスペクトを捧げていることが、価値観が変わることや“理解しあう”普遍的な喜びにもつながっていくという物語の構成は見事という他ありません。机くんのエピソードは原作から要素を的確に拾うだけでなく、映画オリジナルシーンも付け加えることで、さらにドラマティックになっているのです。

なお、劇中には「もろともにあはれと思へ山桜─」だけでなく、「誰(たれ)をかもしる人にせむ高砂の 松もむかしの友ならなくに」や「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」などたくさんの和歌の解釈が語られています。それぞれの和歌のさらなる意味をネットや書籍で調べると、百人一首はもちろん、『ちはやふる』という作品がさらに好きになれるでしょう。

なお、主人公の千早の名前にもつながっている「千早ぶる神代もきかず龍田川 からくれなゐに水くくるとは」という歌は、後編の『下の句』でさらなる解釈が語られているのでお楽しみに!

ちはやふる -上の句-

(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

まとめ:『ちはやふる−結び−』の期待値が最高レベルだ!

シリーズの3作目であり完結編の『ちはやふる −結び−』は、『下の句』の地上波放送日の翌日、3月17日に公開です。公開されるのは前2部作からほぼ2年ぶり、劇中でも同様に2年の時が経ち、主人公の千早たちは3年生になっています。

(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

実はおなじみの役者陣がこの3作目に挑むのも、リアルタイムで2年越しのことです。その間に、“新(あらた)”という主役級のキャラを演じた新田真剣佑は、その思い入れから芸名を変えました。他の役者のコメントからも、役はもちろん作品そのものへの熱意が伝わってきます。彼(彼女)たちが“久しぶり”に同役を演じることが、そのまま私たち観客の「また大好きなあいつらに会える!」という感覚に(おそらく)シンクロしていることも嬉しいですよね。

なお、役者たちはかるた競技の感覚を取り戻すため、クランクインの前にみっちり合同練習を行ったそうです。最高のスタッフも再び集結しており、主演の広瀬すず自身が「3部作の中で個人的に『−結び−』が一番好きです」とコメントした『ちはやふる −結び−』はどれほどの面白さになっているのか……ハードルが上がりまくりですが、きっとその期待を超えてくれることでしょう!

おまけ:Huluで配信中の『−繋ぐ−』と『−学び−』も観てみよう!

現在、動画配信サイト「Hulu」にて『下の句』から『−結び−』につながる物語が描かれた全5話のスピンオフドラマ『ちはやふる −繋ぐ−』が先行配信中です。それぞれは5分程度の短いエピソードと、『−結び−』のメイキング映像、合わせて11分程度という構成。すべて観ても1時間に満たない、気軽に観られる内容になっていました。

これから『−繋ぐ−』を観る方のために詳細は書きませんが、今まで映画では語られてなかった原作マンガの楽しいエピソードや、良い意味でしょうもない部員同士のやり取りなどがあり、ほっこりと笑顔になれました。同時に、メイキング映像ではスタッフと役者たちの“最高の作品を作ろうとしている”熱意と本気が伝わってくることでしょう。

さらに、Huluでは『−結び−』で新たに登場するキャラクターを演じた優希美青と佐野勇斗が競技かるたのルールを簡潔に解説する『ちはやふる −学び−』も配信されています。こちらも9分程度の短い内容ですが、かるた競技の“おさらい”にはもってこい。もっともっと『−結び−』が待ち遠しくなりますよ! Huluでは、さらに『ちはやふる』のアニメ版も配信されていますので、合わせて楽しんでみてください!

(文:ヒナタカ)

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