映画『ちはやふる』の成功はキャスティングが大きな決め手!

■「キネマニア共和国」

「映画の成否の70パーセントはキャスティングで決まる」とはよく聞きますが、その言葉を改めて納得させてくれる快作を見ました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.117》

ちはやふる -上の句-

(C)2016 映画「ちはやふる」製作委員会(C)末次由紀/講談社

広瀬すず主演『ちはやふる』二部作です!

画として描かれた二次元キャラを
生身の人間が演じるリスク

競技かるたを題材にした末次由紀のコミック『ちはやふる』は、コミック(現在30巻まで刊行)の累計発行部数1500万部を突破、また2009年度第2回マンガ大賞や2010年「このマンガがすごい」オンナ編第1位、2011年講談社漫画賞少女部門を受賞。2011年と2013年にはテレビアニメ化もなされ、女性のみならず男性層も巻き込んでの一大ブームを巻き起こし続けています。

少女漫画を原作にテレビアニメ化がなされ、その後、実写映画化がなされるという流れは、ここ数年の日本映画界の傾向のひとつとして挙げられますが、『君に届け』(10)『僕等がいた』(12)『アオハライド』(14)などなど、総じてこのパターンのものには成功例が多く、そもそも少女漫画の映画化自体、少年漫画のそれよりも相性がいいように思われます。

それは若者たちの日常の恋愛を中心としたささやかなエピソードの連なりを繊細に描出していく作業自体、日本映画界が得意としているからでしょう。

ただし、漫画を原作にテレビアニメ化されたものはファンの間で一段とイメージなどが固定化されてしまうので、それを実写映画化する際にはより多くの目くばせが必要とされます。

特にキャスティングは最重要課題であり、既に画として登場している2次元のキャラクターを3次元の生身の人間が演じるというリスクにどこまで真摯に対処できるかが、作品の勝敗を決するといっても過言ではありません。

その点において映画『ちはやふる』は、ここ最近のコミックの実写映画化の中でもℳ群を抜いて秀逸なキャスティングがなされているように思えます。

絶妙のさじ加減で
役を自分の側に引き寄せた広瀬すず

まず主人公・綾瀬千早を演じるの昨年『海街ダイアリー』で新人賞を総なめした広瀬すず。実は私自身が原作コミックおよびテレビ・アニメ版にはまりまくっているもので、その立場からすると一見クールビューテイ、ただし動き出すと“無駄な美人”と称されている原作キャラに対して、彼女はふんわり可愛らしすぎるのではないかという懸念があったのですが、いざ作品を見ると、役を自分のほうへ引き込みつつ、決して原作のラインから逸脱していない絶妙のさじ加減で、生身の千早たりえています。特に競技かるたシーンにおける目力の強さなどは圧倒的。一方で競技後の”無駄な美人”ぶりもさりげなく描かれていたりして微笑ましい限りです。

千早をめぐるふたりの幼なじみで恋のライバルでもある真島太一(野村周平)と綿谷新(真剣佑)。前者は「マツゲくん」、後者は「メガネくん」とあだ名が付けられていますが、野村周平(『日々ロック』14、『ライチ☆光クラブ』15など)はマツゲの長さを逆に意識させることなく、無軌道な千早をリードする頼もしさと己の未熟さに対する焦りなども体現し、真剣佑(『仮面ライダードライブ サプライズフューチャー』15など)はかるたの天才としての存在感を醸し出しています。

原作から飛び出てきたかのような
かなちゃん役の上白石萌音

今回もっとも驚いたのはかるた部員の面々で、特に日本の古典をこよなく愛する大江奏、通称「かなちゃん」役の上白石萌音は、まさに原作コミックから飛び出してきたかのようで、もうびっくり! さすが『舞妓はレディ』(14)で映画デビューしただけあって、和の世界もぴったりはまります。

かるたの腕前は太一にひけをとらない西田優征(『銀の匙』14、『トワイライトささらさや』14など)、通称「肉まん君」役の矢本悠馬も、実際は太っていないのに原作のデブキャラ的イメージを陽性の雰囲気で違和感なく発散させています。

ガリベンの駒野勉、通称「机くん」役の森永悠希(『カノジョは嘘を愛しすぎている』13、『ライブ』14など)も原作キャラよりイケメンではありますが、なかなか勉強のようにかるたが上達しないジレンマや、その中から仲間たちと心通わせていく過程などを気持ちよく演じてくれています。

ライバル校キャラの須藤=清水尋也(『ソロモンの偽証』15)や木梨=坂口涼太郎(『書道ガールズ‼』10など。ダンサーとしても活躍)も、よくぞ見つけてきたりといった感じですが、千早の最大のライバルとなる若宮詩暢役の松岡茉優も、『桐島、部活やめるってよ』(12)やTV『あまちゃん』(13)などの若手実力派ナンバー1女優の貫録で、かるたクイーンとしての研ぎ澄まされた感覚と、実はファッション・センスが微妙であるといった微笑ましい一面をも示してくれています。

シリーズ化を願いたいほどに
クオリティの高い青春エンタメ

大人たちでは、千早たちの師匠的存在である原田先生に國村準。慈愛もあるが名誉欲もいっぱい持ち合わせている(⁉)人間臭さは、このベテランだからこそ発揮できる妙味。かるた部顧問の“女帝”宮内先生役の松田美由紀は、今回あまり見せ場がないのが残念。原作ではこの後どんどんかるたとかるた部の面々を思いやる先生になっていくので、続編があればなあと願いつつ…。

そう、この作品、高校生になった千早がかるた部を設立し、仲間たちと連帯していく「上の句」(3月19日公開)と若宮詩暢との出会いと闘いを描く「下の句」(4月29日)の二部構成で、原作コミック5巻あたりまでを『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)などの小泉徳広監督が丹念に描いていますが、原作コミックは30巻を計上し、今も高校3年生になった千早たちの闘いと恋を連載中なのです。

今回の映画の青春エンタテインメントとしてのクオリティの高さを目の当たりにして、ぜひともこの2部作で終わらせることなく、今後もシリーズ化してもらえないかなと思ったのが正直なところでもありましたが、それを成し得るためにもぜひヒットしてもらいたいと願います。

かるた競技のスポーツ映画であり、仲間たちの友情ドラマであり、微妙な三角関係を描いたラブストーリーでもある『ちはやふる』、今年の日本映画を代表する作品として強くお勧めします。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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