『ファヒム パリが見た奇跡』のレビュー:ノンフィクションとフィクション性のバランスが魅力の映画

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。64回目の更新、今回もよろしくお願いします。

梅雨が開けてスッキリと思っていたのも、何処へやら、な暑い暑いと連呼する毎日です。仕事以外はステイホームな生活のために、人生で最も色白をキープしつつな夏です。美白夏です。あんなにも毎年気にしていたTシャツ焼けが恋しくなるとは思いもしませんでした。美白夏です。

この期間で、自分にとって今まで関わらなかったことに俄然興味が出てきて、また新たなフェーズに入っております。停滞があれば、成長もあり、後退もある。それぞれのペースで進めばいいと心に刻み、今日も幸せに過ごします。

周りを見回すよりも、自信を見つめ続けることを怠らないように。

なーんて自己啓発のようなことを思ってしまうということは、今回もまた素敵な作品に出会ってしまったからだということです。

今回はこちらの作品をご紹介!

『ファヒム パリが見た奇跡』

2011年5月、バングラデッシュの首都ダッカでは、政変により政府と反政府団体の抗争が激化していた。そんな街で暮らす8歳の少年ファヒム(アサド・アーメッド)は、チェスが大好きでその才能は非凡であり大人たちも歯が立たず、数々の大会で勝利を重ね続けており、新聞にも載るなど、界隈では注目された少年であった。夢はチェスのグランドマスター(チャンピオン)に会うことと語っていた。

そんなファヒムの父・ヌラ(ミザヌル・ラハマン)は、地元の消防署に勤めていた。ヌラが反政府団体に属していることに加え、ファヒムへの妬みもあり、家族が脅迫を受けるようになってしまう。ヌラは身の危険を感じ、妻や他の家族を残して、ファヒムを連れてフランス・パリへと脱出する。

国境をなんとか越え、なんとかパリに到着するが、所持金もなく仕事もないファヒムと父は、赤十字に保護され、一時的にパリ郊外の救済センターに身を寄せることになる。

父の難民申請が通るのを待つ間、ファヒムは難民センターからの紹介で、かつてチェスの名選手であったシルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)がコーチを勤めるチェスクラブに通うことに。最初はシルヴァンに対し、嫌悪感を抱くファヒムであったが、クラブの経営者であるマチルド(イザベル・ナンティ)の協力もあって徐々に心を開いていく。シルヴァンのほうも、時間にルーズ過ぎることなどの価値観の違いからか、面倒くさそうに扱っていたが、チェスの才能を認めていくうちに愛情溢れる関係性になっていく。

師弟のようでもあり、父子のよいでもあり、友のようでもある、2人はチェスのフランス大会に向けてさらに信頼関係を築いていくのであった。

しかし、父ヌラの難民申請が却下されてしまい、強制送還の日が迫ってくる。フランス大会に望むファヒムや、母国に残した家族はどうなってしまうのか、、、

実話を元に制作された本作。ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル監督が、TVの討論番組に出ていた当時14歳のバングラデッシュ人の少年が彼の本についてのインタビューを受けているのを見たことがきっかけとなり、映画が動き出すことに。

この作品の魅力は、ノンフィクションとフィクション性のバランスにあると思います。

実際に起こったことを忠実に追うだけでは、社会性の強すぎるものになってしまい、逆に創作しすぎると1人の少年のサクセスストーリーのみに視点がいってしまう恐れがあります。

しかし、ピエール監督のコメディを撮り続けているその手腕もあり、現実の重さを背景に見せつつ少年とその周囲の人の人間味溢れる作品に仕上がっています。

ファヒムの人物造形で、心からチェスを楽しんでいるというのも大きなファクターなのではないでしょうか。これがもし、選手としての苦悩を抱くようであればそうはならなかった気がします。

そして、どんどんフランスに馴染もうと、フランス語の習得であったり現地の習慣(食事の際にナイフとフォークを使うことなど)を学び、前に進んでいくファヒムに対し、なかなかコミュニティに入れない父の対比も効果的。

父ヌラの焦りや孤独感、さらにはどんどん自分から離れいていくファヒムを眺める目には消失感も感じました。西洋化することはとても重要なことですが、それによるアイデンティティの消失の描きかたが、その父子の比較により、なんともビターなスパイスに。

展開的には少し駆け足的な感じもあるのですが、セリフや表現の足し引きの上手いバランスによって気にならなくなってくる、不思議な感覚。(台詞で説明だけのシーンはなく、説明になりそうになると表情のみで訴えてきたり、と)

ファヒムを演じたアサド・アーメッドは、本作で映画初出演。さらにはキャスティングの3か月前にバングラデッシュからフランスに渡り、と役にピッタリハマっている奇跡もあり、本作の主演に決まった。

彼のピュアさが溢れる表現は観る者の心を浄化しながら、深く伝わってきます。初めて海を見るシーンは、とても印象に残ります。

リアルな世の中では、他人との交流がどうしても薄くなってしまう現状ですが、助け合い傷つけ合う、とても温かな人間ドラマを鑑賞してみてください。

それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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(C)POLO-EDDY BRIERE.

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    ライタープロフィール

    橋本淳

    橋本淳

    2004年(平成16年)テレビ『WATER BOYS2』で本格的に芸能活動を開始。2005年(平成17年)に『魔法戦隊マジレンジャー』の小津 魁/マジレッド役に抜擢される。 以後、テレビ『連続テレビ小説 ちりとてちん』『大河ドラマ 軍師官兵衛』『PATグランパ!』『悦ちゃん』、『CHASE』、『刑事ゆがみ』など。映画『婿入金魚』、『At the terrace テラスにて』、舞台『黒いハンカチーフ』『書く女』『月・こうこう、風・そうそう』『クレシダ』『キネマと恋人』『君が人生の時』城山羊の会『相談者たち』など多数の作品に出演。 シネマズby松竹では【おこがまシネマ】を第2、4火曜に隔週連載。「烏滸がましくも、まだまだ青臭さの抜けない、橋本淳という役者が、映画を紹介するページです。嗚呼、烏滸がましや烏滸がましや」

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