タランティーノの「ヘイトフル・エイト」を70ミリ・フィルムで見ると、どこがどう違うの?



■「役に立たない映画の話」

ヘイトフル・エイト

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「役に立たない映画の話」 

70ミリ上映を見に、アメリカまで行ってきました。

文系男 あのさ、クェンティン・タランティーノ監督の新作「ヘイトフル・エイト」って、ウルトラ・パナビジョン70という方式で撮影したらしいんだけど、それってどういうシステムなの?

理系女 まったく君は、ハードに弱いなあ。それでよく映画ライターなんぞ勤まるよね。

文系男 いやまったく。わははは・・・。

理系女 笑ってる場合か。まあとにかく、今度の「ヘイトフル・エイト」の撮影は画期的だったわけよ。ウルトラ・パナビジョン70ってつまり、65ミリ・フィルムで撮影するわけだから。

文系男 65ミリ? 70ミリじゃなくて?

理系女 65ミリで撮影した映像を70ミリ・フィルムに焼き付けるわけで、5ミリ分はサウンドトラック!!

文系男 あ、そーか。

理系女 本当に分かってる?

文系男 だって、そんなことしたって、日本での上映はデジタルでやるんでしょ? そもそもフィルム上映が出来る映画館が、もうほとんどないのに、70ミリの映写機なんて入れてるとこなんてないでしょう。

理系女 そーなのよ。仮に70ミリの映写機を設置していても、動かせる映写技師がいない。知り合いの映写技師に聞いてみたけど、「70ミリ・フィルムを扱うなんて、映写室でストレッチやってるようなもんです」って。

文系男 フィルム上映経験のある映写技師さんは当然高齢だから、くそ重い70ミリ・フィルムの取り回しなんて出来ないってわけだよね。残念だなあ・・。

理系女 だからあたしゃ、年末年始の休日を使ってロサンゼルスまで行ってきたわよ!!

文系男 行ったのぉ!? 「ヘイトフル・エイト」を70ミリで見るためにぃ!? そら凄いなあ・・・。

理系女 君もそれぐらいやんなさいよ。映画ライターなんだから。

文系男 すんません。で、どーだったの? 70ミリで見た「ヘイトフル・エイト」は?

理系女 もう壮観!!冒頭の雪景色から、見渡す限りの雪景色!!

文系男 あのさ、スキーに行ったんじゃないんだから。

理系女 はいはい。ともかく画面の密度や情報量が圧倒的に違う。さすがはウルトラ・パナビジョン70で撮影しただけのことはあるっ!!

ウルトラ・パナビジョン70の、どこがウルトラなのか?

文系男 そのウルトラ・バナビジョン70って撮影方式なんだけど、スーパー・パナビジョン70と呼ばれるのもあるんだけど、どこがどう違うの?

理系女 わかんないかなあ・・・・。

文系男 わかんないよ!! だって、70ミリの映画なんて見たことないし、ウルトラだスーパーだとヒーローものみたいなこと言われても、ピンと来ないよ。

理系女 じゃあ、おねーさんが教えてあげよう。まずウルトラ・パナビジョン70という方式は、アナモフィック・レンズというレンズを使って撮影するの。分かる? アナモフィック・レンズ。

文系男 アナ・・・・?

理系女 ・・・と雪の女王じゃないわよ!! ア・ナ・モ。これは要するに圧縮して撮影が出来るレンズで、横長の画を撮影する時、左右を圧縮するわけ。で、上映する際に、同じアナモフィック・レンズを装着した映写機で、圧縮した画像をもとに戻す。

文系男 なんか、レトルト食品のカレーみたいだなあ・・。

理系女 あんた、ライターやってる割にイメージが貧困ねえ。まあいいや。で、スーパー・パナビジョン70というのは、このアナモフィック・レンズを使わずに、横長の画像をそのまま65ミリ・フィルムで撮影する方法。ちなみに「ヘイトフル・エイト」以前にウルトラ・パナビジョンで撮影された作品には「ウエスト・サイド物語」「戦艦バウンティ」「バルジ大作戦」「カーツーム」などがあるのよ。

文系男 ほおおお・・・。

理系女 映画のタイトルを出すと、分かる見たいね(笑)。で、スーパー・パナビジョンでは「アラビアのロレンス」「マイ・フェア・レディ」「2001年宇宙の旅」などに使われているそうよ。

文系男 あれ? 「ベン・ハー」は? 確か「ヘイトフル・エイト」は「ベン・ハー」の撮影に使われたレンズで撮られたんじゃなかった?

理系女 確かにそうだけど、「ベン・ハー」の時はまだ「ウルトラ・パナビジョン70」じゃなくて「MGMカメラ65」と言ってたのよ。

文系男 ふーん・・・・。

理系女 あの・・・やっぱり分かってない?

文系男 だって、具体的にイメージ出来ないもん。そもそも70ミリだろうが35ミリだろうが、上映するスクリーン・サイズが変わらないんだったら、どの方式で撮影しても同じじゃん。

理系女 あのねえ・・・だから君は、ダメなのよ。

文系男 な、なんだとー!!

理系女 試しに君のその不細工な顔を、B5サイズの画用紙に描いてご覧。

文系男 不細工で悪かったな。

理系女 B5の紙に描いた後、今度はA3サイズの大きな画用紙に描いてご覧。紙が大きな分、細かい部分が描けるでしょ?

文系男 うん、まあそう・・だけど。

理系女 君のその、青々としたヒゲのそり跡や、2,3本白髪が交ざっているゲジゲジ眉毛や、1ミリぐらい鼻毛が飛び出た鼻の穴とか、そういうディテイルが、大きな紙だったら細かく描けるでしょうに。

文系男 鼻毛、はみ出してる?

理系女 抜きなよ。それでそのA3サイズの画を、コピー機でB5サイズに縮小してご覧。最初からB5の紙に描いた画より、ディテイルが細かく描かれているはずよ。

文系男 あ、分かった。だから70ミリ・フィルムだと、35ミリに比べて細かな部分がちゃんと描けるんだ。

理系女 そう。なんたって映画はディテイルだからね。ディテイルにこそ、神が宿るって、ヒッチコックだか誰かが言ってたし。



「スター・ウォーズ」のスピンオフ作品が、ウルトラ・パナビジョン70で撮影されるって?

文系男 とにかくそういう昔ながらのテクノロジーを、久々に復活させたということは、よく分かったよ。

理系女 ところが昔のテクノロジーじゃないのよ。最近入ってきたニュースだけど、「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフ作品「ローグ・ワン(原題)」は、このウルトラ・バナビジョン70で撮影されるそうよ!!

文系男 それだとディテイルもはっきり描写出来て、大スクリーンに映した時、凄い迫力になるわけだね。

理系女 そう。ウルトラ・パナビジョン70のアスペクト比は、縦1:横2.75。通常のシネマスコープは縦1:横2.35だからね。

文系男 また例によってイメージがしづらいけれど、だったらなおさら「ヘイトフル・エイト」の70ミリ上映を見たいものだなあ。

理系女 まあそうなんだけど、これからこのオールド・テクノロジーで映画がたくさん作られるようになれば、日本でも70ミリ映画が復活するかもしれない。

文系男 おかしなもんだねえ。もう絶滅したと思っていた技術をタランティーノがデジタル時代の今、復活させたなんて。しかもそのテクノロジーで「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフが撮影されるあたり、今、何時代かわかんなくなっちゃう。

理系女 まったくだね。わははは・・・。

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(企画・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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