さまざまな『火の鳥』映像化作品から手塚治虫ワールドを仰ぎみたい!

手塚治虫自身が総監督した
アニメーション映画『火の鳥2772』

劇場版『宇宙戦艦ヤマト』(77)に始まるアニメーション映画ブームの中、そもそもアニメーション制作に力を注ぎ続けてきた手塚治虫が自身も参入したいと思わないはずもなく、市川崑監督版『火の鳥』の不振もあって、なおさら自分なりの『火の鳥』映像化を成し遂げたいという意欲に満ちていたことと思われます。

かくして企画されたのが『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』でした。

これは従来の漫画シリーズを原作にするのではなく、手塚自身が新たに構築したオリジナル・ストーリーの映画化です(即ち原案・構成・総監督を彼は務めています)。

舞台は22世紀の未来、一握りのエリートに支配されて久しい社会の中、試験管ベビーとして生まれ、育児ロボットのオルガに育てられた宇宙ハンターのゴドーが、謎の宇宙生命体2772(火の鳥)を捕獲するよう命じられたことから始まる壮大な宇宙ロマン。

また公開時のキャッチフレーズ「オルガよ、お前も愛を知っているのか」に偽りなく、ここではロボットと人間の真摯な愛も綴られていきます。

全編フルアニメーションで、キャラクターごとに選任アニメーターを配して作画し、ロトスコープの技術も導入。

またディズニー・アニメに倣って樋口康雄の音楽で画を語っていくストーリーテリング(冒頭、一切の台詞を廃して画と音楽のみでゴドーの誕生から成長までを綴るシーンは秀逸)。

こうした意欲にも関わらず、本作もまた初公開時は思ったほどの評価を受けられませんでした。

特に往年のハリウッド調を意識した演出の数々に対し、当時は「古臭く感じられる」といった声が多かったように記憶しています。

もっとも私自身は当時高校2年になろうとする春休みに本作を見て、ヤマトにもガンダムにも999にもない、手塚ワールドならでの美学と哲学、そして総体的にどこか艶めかしい女性キャラ、先にも記した画と音の融合性などにも大いに惹かれたものでした。

本作も長らく短縮版ビデオ&LDしか発売されてなかったのが、DVD化でようやく全長版に近いものがリリースされ(初公開時より1分短い)、これによってようやく再評価が成されていきました。

やはり本作もまた早すぎた映画だったのでしょう。

初公開時の映画批評につきものの「新しい」「古い」といった流行云々の域を越えて、やっと作品そのものとして見てもらえるようになった感もあります。

『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に』(97)のラストが、本作のラストを意識したものになっているのも、気づく人は気づいたところではないでしょうか。

火の鳥の声を担当した竹下景子も、印象的に画に映えていました。
(本作の好評ゆえでしょう、後のTVシリーズ版でも、彼女が再び声を担当しています)

その後アニメ化された
『火の鳥』たち

『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』公開からまた数年経ち、時の角川映画の総帥・角川春樹が『火の鳥』シリーズの映像化に動き出します。

しかしそれは長編映画ではなく、当時流行し始めていたオリジナル・ビデオ・アニメーションとしての1時間前後の短編シリーズとしての企画でした。

これは『火の鳥』シリーズを文庫本のような感覚で楽しんでいただきたいとする角川春樹の戦略であったようにも思えますが、かくして『幻魔大戦』(83)『カムイの剣』(85)で角川アニメの発進に大いに貢献したりんたろう監督による第1弾『火の鳥 鳳凰篇』が作られましたが、こちらは諸事情で劇場公開されることになり、『時空(とき)の旅人』と2本立てで1986年の12月に上映されました。

《鳳凰篇》の原作漫画は単行本1冊分の長尺で、それを1時間に収めきれるのか首をかしげる向きも多かったのですが、いざ完成したものはストーリーを思い切り省略したことで逆に原作そのものが訴えたい要素がシンプルに抽出され、これまでの『火の鳥』映像化の中でもっとも評価の高い作品として屹立。

かつて手塚治虫が主宰していたアニメ制作会社“虫プロ”出身でもあるりんたろう監督の手塚原作への想いがひしひしと伝わってきます。

またそれまで劇場版『銀河鉄道999』(79)『幻魔大戦』(83)とりん監督作品のミューズ的存在であった池田昌子が、火の鳥の声を荘厳に演じています。

続けて『火の鳥 ヤマト編』(87・平田敏夫監督)『火の鳥 宇宙編』(87・川尻義昭監督)がOVA化。どちらの監督も虫プロ出身で、またどちらも火の鳥の声は池田昌子が担当しています。

これらは正式な劇場公開こそありませんでしたが、オールナイトなどでイベント上映されることも当時はよく見受けられ、それぞれ好評を博しつつ今に至っています。

時を経て2004年、ついに『火の鳥』はTVアニメ・シリーズ化。当時としてはいち早いハイビジョン制作だったこともあって、現在も再放送される機会も多い作品です。

ここでは《黎明編》《復活編》《異形編》《太陽編》《未来編》がチョイス。

監督の高橋良輔、作画監督&キャラクターデザインのひとり杉野昭夫など、やはり虫プロ出身の気鋭クリエイターたちが参加しており、手塚漫画の最高峰を映像化することに大いに奮い立ったことと思われます。

もっとも、必ずしも原作通りの映像化になっていない作品もあり、そうこう考えるとそれぞれが『火の鳥』を通して、それぞれの手塚ワールドを独自に解釈してお披露目すべく腐心した野心作と捉えるべきでしょう。

全編のナレーションを担当した久米明の声も、出色的に世界観に見合っていました。

この後、久しく『火の鳥』の映像化はなされてませんが、そろそろ何かしらのモーションがあっても良い時期かもしれません。

個人的には劇中に火の鳥そのものは登場せず、平安末期から鎌倉時代初頭の源氏と平家の戦いを背景に、純粋無垢な弁太(=弁慶)が非情で野心的武将・源義経に翻弄されていく数奇な運命を描いた《乱世編》ならば、実写映画化が可能ではないかと思っておりますが、いかがなものでしょう?(もっとも、発刊された出版社によって微妙に内容が違っていたりもしますが)

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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