トランプ大統領批判だけじゃない?『華氏119』注目ポイント5選!

 (C)Paul Morigi / gettyimages
(C)2018 Midwestern Films LLC 2018

11月2日より、『華氏119』が公開されます。本作は世界一有名なドキュメンタリー映画監督であるマイケル・ムーアの最新作であり、ポスタービジュアルを見ればわかる通り今回の“主演”はドナルド・トランプです。本作がいかなる内容であるのかを、たっぷりと紹介しましょう。

1:『華氏119』を多くの人に、今こそ観て欲しい理由はこれだ!

まず、『華氏119』は(マイケル・ムーア作品はいつもそうですが)ドキュメンタリー映画でありながら、エンターテインメント性も十分に備わって、アメリカの政治や問題に馴染みがない日本人でもあっても、それどころか予備知識がほとんどなくても、存分に楽しめる内容にもなっているということをお伝えしておきましょう。

その“おもしろさ”は、テンポの良い編集や、簡潔かつわかりやすい事実の提示、皮肉たっぷりなユーモア、ただの“インタビュー映像集”にならない様々な工夫、過去作にあった“アポなし突撃取材”に代表される大胆な行動などの賜物です(今回もとある凄まじい方法で“突撃”します)。同時に、描かれる問題の多くは「これは日本でも他人事でもないじゃん!」とゾッとさせられるかもしれません。

また、マイケル・ムーア作品はその時代の“今”を切り取っています。2002年の『ボウリング・フォー・コロンバイン』は凄惨な銃乱射事件及びアメリカの銃社会、2004年の『華氏911』ではジョージ・W・ブッシュ大統領およびイラク戦争、2007年の『シッコ』ではバラク・オバマ大統領により医療保険制度改革がなされる“以前”のアメリカの医療保険、などなど……。

もちろん、それぞれは後々の時代に観ても価値がある作品ですが、公開された時に“タイムリー”に観てこそ、それらの問題への危機意識を高めるという意義があります。そのため、できればドナルド・トランプ政権下の今こそ『華氏119』を映画館で観て欲しいのです。(この“時代の切り取り方”はマイケル・ムーアの過去作と少々アプローチが異なるのですが、それについては後述します)

なお、本作のキャッチコピーや触れ込みには「この映画が公開されれば、トランプ王国は必ず崩壊する」、「“トランプ慣れ”してしまっている、あなたへ」、「トランプのからくり、全部見せます」などとあるため、トランプ政権を徹頭徹尾とことん批判した内容なんだろうな……と思うかもしれません。しかしながら、(詳しくは後述しますが)映画本編は大方のその予想を“やや裏切っている”内容でもありました。この点は、おそらく賛否両論があるでしょう。

また、『華氏119』は今までのマイケル・ムーア監督作品で描かれた題材や思想が結集したような内容で、ある意味では集大成であり、ある意味では“リミックス盤”のような印象も受けました。そのため、前述した『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『華氏911』や『シッコ』など、マイケル・ムーア監督の過去作品をいくつか観ておいたほうが、やや特殊とも言える映画の構造の意図や、メッセージがより伝わりやすくなるでしょう。(これについても詳しくは後述します)

ここからは『華氏119』のさらなる特徴について、詳細や核心部分を明確に書かない程度に紹介します。

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2:ドナルド・トランプが大統領になった理由を解き明かしてくれた!

「なんでドナルド・トランプって、あんなに嫌われているのに大統領になったの?」と思っている方は多いのではないでしょうか。女性蔑視や差別主義的な発言などの嫌われる要素が満載であったのにも関わらず、アメリカという大国で一番偉い人に選ばれるのっておかしくないか、と……。『華氏119』はそういう方にこそおすすめできます。映画の序盤は、その疑問にあらゆる角度から答えまくってくれているのですから!

詳細はここでは伏せておきますが、端的に言えばドナルド・トランプがやったことは“狡猾”であり、ある意味では選挙制度の仕組みを利用した“裏技”と言っても過言でない方法で(時にはトランプ自身が与り知らぬ理由でも)大統領選に勝利していたことが明らかになるのです。ある意味では“したたか”ですが、端的に言ってメチャクチャにムカつきました。

しかしながら、マイケル・ムーア監督らしい皮肉的な言い回し、トランプが本気で嫌いであることがわかりまくる(良い意味での)悪意たっぷりな編集も含め、序盤は端的に言って笑えます。ただし、それは「え?アメリカってこんなにズルい奴に牛耳られてるの?」「これで大統領選に勝利するっておかしいよ」という、笑うに笑えないけど笑ってしまうというブラックコメディの領域です。それがフィクションではなく現実なのですから、余計に“変な笑い”が出てしまうことでしょう。

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3:良くも悪くも“話題があっちこっちに飛ぶ”内容? でも実は焦点を絞っていた!

そんなわけで序盤はドナルド・トランプが大統領になった経緯を(語弊はありますが)おもしろおかしく描いていくわけですが、中盤からは「あれ?」と戸惑うほどに毛色が違ってきます。何しろ、話題はミシガン州フリントの汚染水問題、ウエストバージニア州の教師たちのストライキ、銃乱射事件で生き延びたフロリダ州パークランドの高校生たちによって行われたデモなど……端的に言って、“話題があっちこっちに飛ぶ”内容になっているのです。

さらには、批判および比較の対象になるのはドナルド・トランプだけでなく、ビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュなどの元大統領、トランプと大統領選を争うも破れたヒラリー・クリントン、果てはあのアドルフ・ヒトラー(!)にも及ぶのですから。表面上だけ捉えれば「え?それはドナルド・トランプとは関係なくないか?」と思ってしまうかもしれません。

しかしながら、一見するとそれらの関係のなさそうな問題が、徐々に「そうしたアメリカの過去がドナルド・トランプ大統領の誕生につながっていたのではないか」、または「トランプはアメリカの悪しき過去を繰り返しているのではないか」と観客に思わせるような構造になっているのです。

事実、マイケル・ムーアは「この映画を作ることになった時、僕らはその時々のニュースを追いかけないと決めた」「2時間“トランプ漬け”のような単純な映画になっていないよ」などと語っており、プロデューサーのカール・ディールも「ムーアが向き合うことになった最大の難題は、焦点を見失わないことだった。トランプの日々の放言に反応するのではなく、なぜ彼がそんなこと言うのか、また私たちにとって本当はどんな意味があるかを分析し、理解したかった。人々を目覚めさせたいという、これだけ明確なミッションを持ったマイケルは初めて観た」などと語っています。

つまりは、話題が飛躍しているように見えて、実は「過去の出来事から現代のトランプ政権のヤバさを示す」という意味では焦点を見失ってはいないということ。「トランプの今の過激な発言ばかりに踊らされてもしょうがない、過去に視点を向けたほうが根元の問題にはっきりと気づくことができる」という点では、むしろ一貫しているのです。同時に、訴えられているのはドナルド・トランプ政権のみではなく、「社会の問題に気づかないことは本当に恐ろしいぞ!」と、さらに大局的な問題提起になっていると言っていいでしょう。

なお、アドルフ・ヒトラーも批判および比較の対象になっていたと前述しましたが、マイケル・ムーアは「トランプとヒトラーを直接比較しているわけではない」と明言しています。何しろ、主に描かれているのは「新聞や報道機関が、いかにヒトラーを“普通の人物”に思わせてきたか」ということなのですから。ヒトラーの事例から、現代の“マスコミの情報に踊らされる”ことの恐ろしさを喚起させられるとは思いもよりませんでした。こうした“論理の飛躍の後にある気づき”こそ、本作の最大の特徴と言えるでしょう。

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4:監督の集大成であり“リミックス盤”である理由とは?

前述したように本作の話題は多岐に渡るわけですが、それらがマイケル・ムーアの過去作にも絡んでいるということも重要です。

例えば、『ボウリング・フォー・コロンバイン』では1999年にコロラド州で発生した銃乱射事件を題材としていましたが、今回の『華氏119』で描かれる銃乱射事件は2018年2月に起こったばかり。つまり、また“同様の凄惨な事件”が起こっているのです。

その他、『華氏911』で描かれたジョージ・W・ブッシュの批判や、『シッコ』にあった“保険会社で働く医師が患者の命を奪っていた”という恐ろしい事実も今回の汚染水の問題に通じるところもありました。

しかも、いずれも作品においてもマイケル・ムーアの故郷でもあるミシガン州フリントが舞台として登場します。貧困層と失業者の拡大、警察の予算や人員の不足など、様々な問題を抱える地域から、マイケル・ムーアは“アメリカ全体の問題”を炙り出そうとしているとも言えるでしょう。

ちなみに、『華氏119(ドナルド・トランプが大統領選の勝利を宣言した日)』というタイトルは、見てすぐにわかる通り『華氏911(言わずと知れたアメリカ同時多発テロ事件の日付)』のナンバー部分を入れ替えており、そこからでもある意味、両作は地続きであり、『華氏119』は『華氏911』の続編のような内容であると示唆しているとも言えます。その『華氏911』のタイトルの元ネタは思想統制のための焚書を描いたSF小説『華氏451度』で、それは望まない“SFの世界が現実になりつつある”恐怖を示しているかのようでした。

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5:全てを鵜呑みにしないで! 議論を呼ぶ映画ということも重要だった

マイケル・ムーアはある意味で“予言者”のようなところもあります。『華氏911』で描かれたイラク戦争における問題提起も“正しかった”と振り返られる部分が多く、実は2016年7月に「大統領選にトランプが勝利する5つの理由」という本作『華氏119』の内容を見越したようなエッセイもマイケル・ムーアは書いていたりもしていました。

一方で、マイケル・ムーアも恣意的に観客を誘導するような編集や、“可能性”程度のことを“事実”として描いていることなどが批判の対象になることもよくあります。(特に『華氏911』は反論本が出されたこともありました)。

今回の『華氏119』においても、重要なのは“鵜呑みにしない”ということでしょう。マイケル・ムーアもそんなことは望んでいない、むしろ「みんなに考えてほしい」という訴えがあることは明白で、市井の人々に議論をさせる(問題を知ってもらう)ことが映画の最大の狙いであるとも言い切れるほどです。そのマイケル・ムーアは実は批判されることに寛容かつ“言論の自由”を尊重しており、『シッコ』では自身を痛烈に批判しているサイトが閉鎖の危機にあると知ると、むしろ“支援”をするというシーンさえもあったりしました。

やはり国家権力と言うものでは絶大で、政治に関わる問題が簡単に覆らない、というのは日本人でも感じている歯がゆさです。それを映画という手法で、多くの人にわかりやすく表現し、みんなの怒りや悲しみを代行してくれる、マイケル・ムーアという作家がいてよかった……これからも人々の考えや政治はもちろん、世界を変えていくのかもしれない……という希望を持つこともできました。ぜひ、多くの方に観ていただき、考えていただきたいです。

(文:ヒナタカ)

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