『ストーリー・オブ・マイライフ』レビュー:21世紀に瑞々しく蘇った“若草物語”

私事で恐縮ですが、今年の1月2月はほとんど家に籠って仕事していて、3月の頭になってようやく解放されて久々に試写を見ようと本作『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』試写室に赴いたところ、開映直前になって宣伝部から「たった今、新型コロナウイルスの影響で、本作の公開延期が決定しました……」とのお達しがあり、場内が一気に凍りつきました。

その後の映画界の状況はご承知の通りで、ほとんどの新作が公開延期となり、4月に入ると映画館自体が閉館となり……。

しかし、ようやく6月に入って映画館が再開となり、本来なら3月27日に公開される予定だった本作も、めでたく6月12日からの公開が決定!

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街476》

幾多の困難を乗り越えてようやくお披露目が叶った本作の流れは、まさに波乱をものともせず力強く爽やかな風のように健気に生き抜こうとする4姉妹それぞれの生きざまとも呼応しているようにも思えてならないのでした!

幾度も映画&ドラマ化されてきた
オルコットの名作『若草物語』

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、サブタイトルからお察しできるように、ルイーザ・メイ・オルコットの自叙伝的小説で今や世界中で知らない人はいないほどの名作文学『若草物語』の映画化です。

これまで幾度も映像化されてきており、映画化だけでもサイレント時代から数えると今回で7回目になります。

しかし今回の『若草物語』は従来のものと似て非ざるユニークで秀逸なものに仕上がっているのでした。

舞台は19世紀アメリカ・マサチューセッツ州。

マーチ家には4人の姉妹がいます。

女優の才能がありながらも、自身は最愛の人と結婚して家庭を築き、子供を産んで母親になることが女の幸せだと固く信じて疑わない長女メグ(エマ・ワトソン)。

女の幸せは何も結婚だけに限らないという信念のもと、幼馴染のプロポーズも断って、作家になるべくニューヨークへ赴く情熱家の次女ジョー(シアーシャ・ローナン)。

誰よりも家族愛に深く、音楽を愛し、恵まれない家庭に奉仕する優しい心の持ち主ながらも,重い病に侵されて衰弱していく三女ベス(エリザ・スカンソン)。

勝気な性格で自分磨きに余念がなく、家庭を支えるためにはお金が必要と割り切り、ジョーと衝突することもしばしばの四女エイミー(フローレンス・ビュー)。

父ロバート(ボブ・オデンカーク)は南北戦争で出征していて、聡明な母“マーミー”(ローラ・ダーン)が常に4姉妹を温かく見守り続けています。

一方、財産持ちでプライドの高い現実主義者の伯母(メリル・ストリープ)も、ある意味姉妹に多大な影響を及ぼしていきます。

映画そのものはニュ-ヨークへ渡った次女ジョーの歩みと、回想のマサチューセッツ時代とが交錯しながら綴られていきますが、もっとも現代性の強い彼女の視点からさまざまな事象が見据えられていくことで、19世紀を舞台にしながらも21世紀の今を生きる女性たちにスムーズに訴え得る秀作に仕上がっているのです。

古典も作り手の視線次第で
新しく瑞々しく映えわたる

本作の監督・脚本を手掛けたグレタ・ガーウィグは女優としてのキャリアを持ちつつ、『レディ・バード』(17)を監督して脚光を浴びた才人ですが、彼女は幼い頃から『若草物語』を愛読していて、読み返すたびに新たな発見があったと語っています。

そして一見お行儀良く受け取られがちな名作文学の中に秘められた数々のダークな視線、それは時代を問わずもたらされがちな女性たちの制約や犠牲、家庭と自由、金銭など現実的問題をガーウィグ監督は見逃すことなく、それらの要素を映画の中に凝縮させながら描いていきます。

その結果、抑制されていた時代にどこかしらさわやかな風が突き抜け、未来の自由を示唆してくれる作品に仕上がっているのです。

またそこには『レディ・バード』でもガーウィグ監督の代弁者として大任を果たしていたシアーシャ・ローナンならではの聡明なる個性と存在感が大いに機能していることも間違いないでしょう。

本作はアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したほか、AFIアワードムービー・オブ・ザ・イヤー、ボストン批評家協会賞作品・主演女優賞など数多くの映画賞を受賞。

古典的な題材でも、作り手の視点でいかようにも新しくも瑞々しく面白くなる映画作りの見本ともいうべき秀作です。

個人的にはこの時期、久々に映画館で新作映画を見てみようかなと思っている方には、真っ先にこの作品をオススメするようにしています。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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