『町田くんの世界』が新たな青春映画の傑作である理由(ワケ)!

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

1000人の候補者から選ばれた、演技経験がほとんどない2人を主演に大抜擢─。そんなコピーが早々と掲載され、注目を集めていた石井裕也監督作品『町田くんの世界』が公開となった。安藤ゆきの同名コミックを原作とした本作は、W主演を務める細田佳央太&関水渚の経歴もさることながら、新人2人をサポートする主演級キャストがずらりと勢揃いしていることも話題。今回は、そんな『町田くんの世界』の魅力について紹介していきたい。

演技経験ほぼゼロだからこその輝き!

W主演を務める細田と関水について、演技経験がほぼゼロとあってその演技力を評価するには過去作を振り返ることができない。観客にしてみれば未知数であり、下手をすれば作品評価に影響を与えかねないところだ。そんな博打にも近い賭けに出た石井監督だが、作品を鑑賞した後になれば「主演はこの2人以外に有り得ない!」と思えるはず。それだけの魅力が2人から醸し出されていたということであり、石井監督の慧眼には驚かされるばかり。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

演技経験ほぼゼロというラベルからくる不安はずっとつきまとっていたが、序盤からその心配は掻き消されることになった。まずはタイトルロールでもある“町田くん”を演じた細田だが、どこか朴訥とした雰囲気を漂わせながらも、だからこそ感情が表情や行動に現れた時の差が大きい。聖人のような“優しさ”を表現する演技に偽りがなく、その懸命さが全身から伝わってきて、町田くんというキャラクターを通して不思議とその姿から目が離せなくなる。

いっぽう「人が嫌い」と真正面から言い切ってしまう猪口奈々を演じた関口は、どちらかと言えば細田とは対照的に最初から“表情で魅せる”という印象が強い。人嫌いの性格が自然と表情に現れていて、思春期真っ盛りの少女の姿がありありと伝わってくるのだ。と同時に、町田くんと関わり合うきっかけとなった場面では「面倒くさい」と言いながら、他者を放ってはおけない無意識の優しが直感的な演技で表現されているのも魅力だと言える。

そんな2人がキャラクターとしても演者としても、互いに影響を与え合いながら少しずつ変化していく様子が、なんと微笑ましいことか。誰にでも優しくできる町田くんと、町田くんという人間性に触れた猪原。出会いから日々の掛け合いを通して2人の魅力は相乗効果でみるみるうちに膨らんでいき、いつしか息がピタリと合ったコンビネーションによって観客を虜にしてしまうのだ。

はっきり言ってしまえば、「演技経験ほぼゼロ」などという言葉はなんの足枷にもなっていなかった。むしろセオリーに縛られていないからこそ、時としてオーバーアクションになろうとも違和感を感じさせず、それどころか「この2人の全力の掛け合いをもっと見せてほしい!」と思えるほど。もしかすると本作のストーリーの性質上、そんな“粗削り”の演技こそ重宝されたのではないだろうか。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

燃え上れ、青春!

本作は『町田くんの世界』というタイトルや、聖人君子たる町田くんのキャラクター性が強調されているように見えるが、実は“町田くんと猪原さんの青春”譚であることは明白。もちろん町田くんのキャラ立ち感はなかなかのインパクトだが、実は猪原さんも強烈キャラであることはシーンが進むにつれてはっきりしてくる。それもまた猪原奈々という少女の純粋さでもあり、町田くんという存在にアイデンティティーを揺さぶられることになるのだ。

前述のように町田くんは誰にでも優しくできる、言い換えれば“優しくしてしまう”性格が本作におけるキーワードのひとつ。2人の価値観のズレが答えの見えない押し問答になってストーリーを突き動かしていく様子は、限りなく真っ直ぐなほどの青春物語だと言える。2人の距離が近づくたびに反発も生み、実はキラキラとした輝きを生み出しながら“青春”を加速させていく。その瑞々しさは誰もが経験してきた青春時代を想起させるし、彼らと同世代ならば全力で突っ走る2人に共鳴する部分が多いのではないだろうか。

町田くんを中心として周囲を巻き込んで勢いをつけた青春は怒涛の展開へと突き進んでいくのだが、それは観てのお楽しみということで。もはや止めることのできないその勢いに呆然としてしまうかもしれないが、丹念に積み上げられてきた物語の“種”が芽吹いていく様は見事としか言いようがない。「青春の1ページ」とはよく言ったもので、本作も実は全てにおけるシーン、彼らが過ごす時間には何ひとつとして無駄なものはないのだ。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

強力バックアップ体制の共演陣!

細田・関口の主演コンビから溢れ出る魅力もさることながら、2人の演技を引き出した豪華共演陣も本作における大きな魅力。ざっと書き出しただけでも、同じ高校生役の前田敦子、太賀、高畑充希、岩田剛典、やがて2人と接点を持つことになるライター役の池松壮亮とその妻役の戸田恵梨香、池松の上司役の佐藤浩市、町田くんの両親役に北村有起哉と松嶋菜々子と、一体どうすればここまでのオールスターキャストが集うのかという面々がバックアップに入っている。

本来なら全員の魅力を書き出したいところだが、敢えて絞るならまずは2人のクラスメイトである栄りら役の前田が奥深いキャラ性を見事に醸し出している。いまや妻であり母でもある前田が女子高生役というのも面白いキャスティングだが、男口調のクールな役柄ながら実は2人の一番近くでさりげないサポートを繰り出していく名選手でもある。どこか冷めた表情をしているのにその胸の内は激情タイプという、前田にとっての新境地とも呼べる名演ではないだろうか。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

「こういう(良い意味で)暑苦しいヤツいたなぁ」と思い出させてくれるのは、町田くんと関わるきっかけから笑わせてくれる西野亮太役の太賀。本作には至る所に笑いのツボが仕込まれているが、ド直球でツボを押さえてくるのは間違いなく太賀の熱い演技だろう。その勢いは猪原をも突き動かすほどで、ここまで偽りなく正面から向き合ってくれる友人がいる町田くんが羨ましいくらいだ。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

『植物図鑑 運命の恋、拾いました』の主演コンビ再会となる、高畑充希(高嶋さくら役)&岩田剛典(氷室雄役)の共演も嬉しいところ。ともに植物図鑑~とは正反対ともいえるキャラクターだが、それぞれが町田くんからどのような影響を受けていくのかじっくり見てほしい。特に高畑演じるさくらは町田くんだけでなく猪原&りらとも接点を持つのだが、その軽妙とも言えるやり取りには思わず笑い声を上げてしまった。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

よくある“高校生の青春映画”だと「大人の視点」は身内や教師が担うものだが、本作では池松演じる吉高洋平がその役割を大きく任されている。理想と現実にぶつかった怒りを鬱屈とした目線に変えて、時代そのものに冷たく向ける吉高の存在は本来なら青春映画には不釣り合いだろう。しかし本作においては聖人君子の町田くんがいる。彼が持つ優しさは吉高の世界にまで影響を与えることになり、本編後半に至っては重要な位置を占めている。町田くんと猪原には本来なら交わるはずのなかった吉高だが、2人との出会いにより客観的に彼らを見つめるという意味では観客の目線も担っているのではないか。

(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

いずれにしても、本作では登場人物それぞれが1本の糸となり、町田くんと猪原を囲みながら太い線になっていく様子が丹念に描かれている。細田&関口だけではない、1本1本の糸が躍動することで物語は完成された世界を構築していくのだ。

まとめ

町田くんのキャラ性もあって、どこかふわっとした世界観をイメージするかもしれないが、筆者としては劇場が素直な感情から笑いに包まれるという瞬間を久しぶりに体感したような気がする。“新人”だからこそ表現することのできた、映画という名の青春の1ページ。その刹那の瞬間をぎゅっと濃縮した本作を、ぜひとも劇場で堪能してほしい。

(文:葦見川和哉)

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