『ハイヒールの男』チャ・スンウォンの女装だけじゃない「3つ」の見どころ!

第13回:『ハイヒールの男

Amazonプライム・ビデオで配信中の韓国映画の中から、毎回オススメの作品をご紹介しているこの連載。

今回取り上げるのは、以前ご紹介した『がんばれ!チョルス』のチャ・スンウォン主演による、2015年日本公開の韓国映画『ハイヒールの男』です。

悪党や犯罪者に対して一切容赦の無い最強の刑事でありながら、その内面に複雑な事情を抱える主人公の設定と、主演のチャ・スンウォンの素晴らしい演技が話題を呼んだ本作。

その逆説的なタイトルからは、いまいち映画の内容が掴みにくいのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー

犯罪組織からも恐れられる脅威の戦闘能力と暴力性、そして完璧な肉体と容姿を兼ね備えた刑事ユン・ジウク(チャ・スンウォン)。しかしそんな彼にも人に言えない秘密が一つだけあった。それは<女性になりたい>という願望を持っていること。長年そのことで葛藤を続けてきたジウクだったが、ある出来事をきっかけにして、遂に自分の内なる心の声に従う決意をする。刑事を辞め、性転換手術を受けるため海外に旅立とうとするジウクだったが、容赦無い暴力と悪意が、その運命をあざ笑うかのように彼の身に迫っていた…。

見どころ1:冒頭から炸裂するアクションが凄い!

ヤクザ組織の宴会に一人で殴りこみ、多人数を相手に素手で大暴れする主人公ジウクの圧倒的な強さが、映画の冒頭からいきなり観客を圧倒することになる本作。

例えば、本編中でヤクザのボスが「あいつは昔から、犯人を捕まえる時に手錠や銃を一切使わない」と語る通り、拳銃を捨ててテーブルの上の箸や灰皿、更にはカニの爪! で大勢の敵を血祭りに上げるジウクの暴れっぷりは、警察の上司が彼を”サイボーグ”と例えるのも納得の凄さとなっています。

加えて、こうしたジウクの高い戦闘能力や凶暴さが映画の冒頭から徹底して描かれることで、後に明らかになる彼の女性への強い憧れとの対比が際立つことになる点も、実に上手いのです。

実際、雨の日に傘をさしたまま大勢の敵を倒すジウクの姿に憧れるヤクザも登場するなど、チャ・スンウォンの長身を生かしたその華麗なアクションは必見!

実は映画の中でも語られるように、自分の中にある女性の部分を嫌悪し消したいと願うあまり、逆に男としての能力を極めようと海兵隊に入隊したり、ヤクザ組織を追う刑事となったジウク。

こうした自身の本当の姿や願望に抵抗するかのようなジウクの暴れっぷりが、逆に彼の中の女性や弱さを観客に伝えくれる演出も、実に見事なのです。

そんな彼が、あるきっかけにより、遂に手術を受けて女性として生まれ変わる決意をするのですが、その先に待つ過酷な運命とはいったい何なのか?

悪人どもを容赦なく叩きのめす壮絶な暴力描写と、女性として再出発するための険しいハードルに立ち向かうジウクの姿との対比が、これほど見事に表現されているのは、やはりチャ・スンウォンの演技力があればこそ!

そう実感せずにはいられない攻めた内容は、ぜひご自分の目でご確認頂ければと思います。

見どころ2:複雑な内面を持つ主人公の存在!

前述したアクションシーンが象徴するように、まさに”強い男の理想像”を具現化したような主人公のジウクですが、実はその外見や行動からは想像できない「女性として生まれ変わりたい」という強い願望を抱いていることが、次第に明らかになっていきます。

彼が自身の中の女性に目覚めるきっかけとなった少年時代の親友との思い出が、本編中に回想シーンとして挿入されるのですが、親友の「俺たちは病気だ」という言葉の重さや、二人の関係に訪れた悲劇的な結末により、ジウクが自分の願望を封印し男として生きなければならなかった理由が、観客も十分共感できることになるのです。

こうして過去の辛い記憶から逃れるように、男らしさと強さを極めることに救いを求めたジウクですが、ある女性との出会いをきっかけに、自身の心のままに生きようと決意します。

その過程で、性転換手術の準備として定期的に女性ホルモン注射を受けたり、既に手術を受けた人々に助言やメイクのやり方を教わったりするジウクの姿が、刑事の仕事と平行して描かれていくのですが、準備が進むにつれて彼の中の女性らしさを周囲に隠すことが、次第に難しくなってしまいます。

例えば、ジム帰りの女性を狙った連続暴行事件の囮捜査のため、知人の女性に囮役を依頼したジウクが、犯人逮捕の際にケガを負った彼女に対して見せる優しい態度や、全く反省の色を見せない犯人に対して容赦ない暴力を振るう描写には、実は刑事としての使命や正義感よりも、性被害を受ける女性の立場に自分を同化させての行動であることが描かれているのです。

加えて、この事件の取調中に犯人が放った”ある言葉”が、自分の中の女性が隠し通せない段階まで成長していることをジウクに再確認させることになり、その後に彼が発作的にある行動を取ってしまう展開は、ジウクの抱えた秘密の重さと、この苦しみから逃れるには死しか無いという絶望感を表現していて実に見事!

鍛え上げられた肉体と暴力という”鎧”を身に着けながら、その中身は傷つきやすい少年のままであるジウク。

遂に刑事を辞め、性転換手術のために海外へ旅立とうとする彼の先に待つ結末を、ぜひ目撃して頂ければと思います。

見どころ3:実はジウクを巡る男たちのラブストーリー!

一気に悲劇へと突き進む後半の展開とは違い、前半部分は意外にコメディ色が強いことに気付かされる、この『ハイヒールの男』。

例えば、ジウクがサウナの中でヤクザのボスを叩きのめすシーンや、女性ホルモン注射を受けているジウクが、医者に胸を触られた際に取るリアクションなど、絶妙にシリアスとコメディの間を行ったり来たりする展開も、本作を一つのジャンルに収まらない作品にしている理由と言えるのです。

中でも印象的なのは、雨の日に傘をさしたまま戦うジウクの姿に憧れて、その後、彼に特別な興味を抱くヤクザ組織のボスの弟、ゴンの存在でしょう。

例えば、留守の間にジウクの部屋を捜索していたゴンが、遂にジウクと対面することになるシーン。

ゴンが勝手にヤクルトを飲んで、しかもタバコの吸殻をその容器に突っ込んでいるのに気づいたジウクが、「俺の部屋でタバコを吸ったな」と言った後、いきなりヤクルトの容器を持ったまま一人でエレベーターに乗るゴンの姿に繋がる展開は、思わず笑ってしまうので要注意!

確かに観る人によっては、ラストの展開がすっきりしなかったり、中途半端な終わり方といった感想を持たれるかもしれませんが、終盤に向けてのゴンの逆上っぷりやラストの行動を”可愛さあまって憎さ百倍”の結果として考えれば、そうした展開も納得できるのではないでしょうか。

また、部下の刑事であるジヌがジウクを兄貴と呼んで慕ったり、映画の終盤で登場する見事な女装姿のジウクを見て「きれいでした」と電話で告白する描写など、ジウクをヒロインとする男たちのラブストーリーとしての側面が見えてくる点も、本作の隠れた魅力と言えるのです。

そう考えて鑑賞すると、ジウクの無敵の戦いっぷりに憧れを抱き、彼の留守中に勝手に家を捜索したり、刑事を辞めたら仲間にならないかと誘うゴンの態度が、実は彼なりの愛情表現なのでは? そう思えてくるのも事実。

こうした男たちの揺れ動く感情にも、ぜひご注目頂ければと思います。

最後に

記憶に残るタイトルや主人公の奇抜な設定など、観る前から観客の想像力を刺激せずにはいられない本作。

ここまで紹介した通り、様々な魅力や見どころが満載の作品なのですが、中でも性転換手術を決意する暴力刑事という、奇抜で複雑な主人公に説得力を与えるチャ・スンウォンの演技力は、本作一番の見どころと言えるでしょう。

例えば過去の主演作『シークレット』では、殺人事件の捜査に当たりながら、妻が浮気しているのではないか? という疑惑に心を悩ませる刑事を演じていたり、外見の男らしさとは逆に、弱さや迷いを内に秘めた男を演じさせたら絶品の演技を見せる、チャ・スンウォン。

本作でも、容赦ない暴力で悪党を叩きのめす刑事でありながら、その男らしい外見とは裏腹に不安と迷いで揺れ動く内面を持つ主人公を見事に演じています。

ちょっとした仕草や首の傾げ方だけで、主人公の中の女性や弱さを観客に伝える彼の演技力も見事なのですが、女装した姿で初めてエレベーターに乗った時のうろたえ方や、医者に胸を触られた時のリアクションなど、刑事として無敵の戦いっぷりを見せる姿とのギャップに、どこかユーモラスな感じを漂わせる点は、本来コメディを得意とするチャ・スンウォンを起用した大きな理由と言えるでしょう。

確かに映画の序盤で登場する、まだ女装やメイクに慣れないジウクの姿には違和感を覚えるのですが、部下のジヌに「きれいでした」と言わせるだけあって、終盤に登場する女装したジウクの美しさは必見!

この華麗な変貌によってジウクへの偏見や興味本位の気持ちが消え、観客側に彼が女性として生まれ変われるように応援する想いが生まれていく点も、実に上手いのです。

序盤の激しいアクションから予想するような、単なるヤクザと刑事の闘いの物語には終わらせず、シリアスな中にもどこか笑えるセリフや、主人公の悲しい過去が明らかになるなど、以前ご紹介した『がんばれ!チョルス』とあわせて観て頂くと、よりチャ・スンウォンの演技力の凄さが味わえる、この『ハイヒールの男』。

観る人によって様々な解釈が出来るラストシーンが鑑賞後に深い余韻を残す傑作なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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