『ミッドサマー』が大ヒット中!価値観や常識が試される衝撃の内容とは?



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2018年に公開され、そのあまりの怖さに多くの映画ファンが衝撃を受けた『へレディタリー/継承』に続く、アリ・アスター監督最新作『ミッドサマー』が、2月21日から日本でも劇場公開された。

前作と同じく衝撃的な内容ながら、女性の観客層を集めてヒット中なのだが、鑑賞後にかなり重い気持ちになるとの書き込みがネットで目立っただけに、その魅力がどこにあるのか? 個人的にも非常に気になっていた本作。

果たしてその内容と衝撃は、どのようなものだったのか?

ストーリー


不慮の事故で、突然家族を失ったダニー(フローレンス・ピュー)は、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人で、スウェーデンの奥地で開かれる"90年に一度の祝祭"を体験するために、ある村を訪れる。美しい花が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人たちが陽気に歌い踊る楽園のように思えた。
しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖、それは想像を絶する悪夢の始まりだった。


観客の価値観や常識が試される!



観客に違和感や不安を与える編集や音の使い方など、すでに冒頭からアリ・アスター監督の世界に引き込まれる、この『ミッドサマー』。

自分を残して突然家族が亡くなってしまったことで、精神的なバランスを崩してしまっているダニー。彼氏のクリスチャンとの関係も破局寸前だった彼女は、クリスチャンと友人たちがスウェーデンのある村で行われる祝祭に参加することを知り、自身も彼らに同行することになる。

目的地のホルガ村では、90年に一度、9日間にわたって行われる浄化の儀式の準備が行われていた。当初は村の美しい景色や、村人たちの暖かい歓迎に好意を抱いていたダニーたち一行。だが、村の特殊な儀式や風習の実態を知るにつれ、想像を絶する恐怖が彼らを襲うことになるのだが…。



こう書くと、まるで田舎ホラーや"食人族"物の典型のように聞こえるが、そこはアリ・アスター監督だけに、観客の感情や価値観を揺るがせる想像を超えた展開が用意されているので、ご安心を!

実際、まるで楽園のようなホルガ村の景色や美しい衣装、そして笑顔で迎える住人たちの様子に、観客も好意を抱きかけるが、突然スクリーンに登場する儀式の正体に、いつしか主人公たちと同様に不穏な空気を感じずにはいられなくなる展開は、実に上手いと感じた。

夜の闇の中ではなく、明るい太陽の下で繰り広げられる儀式の衝撃は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのだが、ここで描かれるのは決して単なる残酷ショーや、洗脳された集団の恐ろしさではなく、先祖から受け継がれてきた伝統や風習に疑いを持たない人々の、ピュアな姿に他ならない。

確かに外部から来た者の目には、残酷で人の尊厳を汚すような行為に見えるが、これも村の人々にとっては意味のある尊い犠牲であり、そこには死に行く者への敬意と崇高な使命が存在するのだ。

そのため、自分たちの価値観と常識でこれらを野蛮な行為とみなし、村の伝統に敬意を払わないクリスチャンたちの方が、傲慢で閉鎖的な存在に思えてくるなど、観客側も自身の価値観や常識を試されることになるのは見事!

更に、映画の中で主人公たちに降りかかる災難も、実は最初に彼らの方がきっかけを作ったことが描かれているため、観客側にも居心地の悪さや、割り切れない想いが終始付きまとうことになる点も、実に上手いのだ。

加えて、周囲の人々に溶け込めず疎外感や孤独を感じていたダニーが、他人の感情や苦しみを共有する村人たちと同化することで、恋人に依存する状態から脱却し、ついに自立した女性=女王として生まれ変わるという展開は、まさに彼女にとっての最高のハッピーエンドと呼べるもの!

なぜなら、家族を亡くした苦しみや恋人に頼れない孤独などの負の感情までも、村人たち全体で共有・共感できる社会こそ、まさに彼女にとって理想郷と呼べる世界だからだ。

文字通り、観る者の価値観や常識が試される衝撃の結末が待っているので、全力でオススします!

最後に



スリラー映画の形を借りて本作で描かれるのは、他国の伝統的な文化や習慣に対する、興味本位の態度や無神経な介入が、いかに傲慢で対立や軋轢を生むか? という、偏見や不寛容の物語に他ならない。



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研究のために村を訪れた学生たちが、村の伝統や風習に対して敬意を払わなかったり、興味本位で利用しようとした結果どうなったか?

もちろん、この部分での残酷描写が大きな見どころとなるのだが、実は村の人々の方も、新しい血を招き入れるために都会の若者を利用していることが、次第に明らかになる展開は見事!

ただ、実の家族にも先立たれ、恋人にも自分の本音や苦しみを隠し続けていたダニーが、悲しみや痛みといった負の感情を村人たちと共有することで次第に生き生きとしていく様子を、自己の解放と見るか、あるいは村の人々による洗脳と見るか? それによって、本作の結末がハッピーエンドにもバッドエンドにもなってしまう、そう感じたのも事実。

とはいえ、社会の中に溶け込めず周囲からは浮いた存在が、実はある集団にとっての選ばれし者である! という展開や、お互いに分かり合えない家族をめぐる物語は、まさに前作『へレディタリー/継承』に通じるもの。

今回上映された147分版に続いて、未公開映像を加えたR18+で170分の『ミッドサマー ディレクターズカット版』の上映に向けて、TOHOシネマズが運営する上映リクエストサービス・ドリパスで受付中とのこと。

上映が実現した際には、ぜひ両方のバージョンを見比べて頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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