細田守監督の最新作『未来のミライ』は世界中の家族必見の快作

(C)2018 スタジオ地図 

細田守監督の最新作『未来のミライ』が7月20日より公開となりました。

今回は幼い男の子くんちゃんを主人公に、未来からやってきた妹のミライちゃんとの交流……だけではなく、さまざまな時代のさまざまな人々との出会いを通して、幼子が少しずつ成長していく過程を慈愛豊かに描いたこの夏ご家族必見のファミリー映画の快作といっても過言ではないでしょう。

しかし、なぜミライちゃんは未来からやってきたのでしょうか?……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街321》

そのカギは、くんちゃんが住んでいる家の庭にあったのです!

幼子の大冒険を活写していく
“不思議の庭のくんちゃん”

くんちゃん(声/上白石萌歌)は、とある郊外の小さな家にお父さん(声/星野源)お母さん(声/麻生久美子)と一緒に住んでいます。

ある日、赤ん坊の妹ミライちゃんが新しい家族として、家にやってきました。

お兄ちゃんになった喜びもつかの間、お母さんもお父さんもミライちゃんの育児に必死で、くんちゃんは両親をミライちゃんに奪われたと勘違いし、嫉妬し、時にいけない行動に出たりもしてしまいます。

そんなあるとき、くんちゃんは庭でひとりのセーラー服の女の子と出会います。

女の子はくんちゃんのことをお兄ちゃんと呼びます。

そう、女の子は未来からやってきたミライちゃん(声/黒木華)なのでした。

このときから、くんちゃんの大冒険が始まっていくのですが、そこから先は実際に映画をご覧になっていただければと思います。

それにしてもどうして突然ミライちゃんが未来からやってきたのか?

それに対して映画そのものは明確な答えを提示していません。

しかし、映画をちゃんと見ていると、くんちゃんの住んでいる家の構造が実に摩訶不思議なもので、それゆえお庭に時空の歪みが生じているのではないかという仮説が容易に立てられます。

くんちゃんのお父さんはフリーの建築家という設定なので、自ら新居をこしらえるときに張り切りすぎて、一般的感覚からすると何だか奇妙な構造にしてしまったのでしょう。

そして、だからこそこの映画は“不思議の国のアリス”ならぬ“不思議の国のくんちゃん”として屹立しながら、おそらくは幼い頃にしか体験できないであろう魂の大冒険を繰り広げることができたのでしょう。
(その意味ではお父さんに感謝ですね?)

(C)2018 スタジオ地図 

時代とともに変貌していった
細田守監督作品

正直、私自身はかつて細田守監督作品が少し苦手なところがありました。

劇場用監督デビュー作でもある『劇場版デジモンアドベンチャー』(99)を見たとき、公開された時期に倣うかのような世紀末的閉塞感の描出に息苦しさを覚えたからです。

その後TV版「デジモンアドベンチャー」シリーズなどは比較的快活に捉えることができましたが、やはりどことなく登場する子どもたち個々が内包する心の寂しさなどに、従来のファミリーアニメとは異なる何かを思わされたものです(今にして思えば、その点こそが、当時の子どもたちの心をつかみ、今に至る人気を得ているのでしょう)。

2006年の映画『時をかける少女』で細田監督は大いに飛躍しますが、このときもヒロインが快活に立ち回ろうとすればするほど、時にがんじがらめになっていく窮屈感を覚えました(実はこの作品の前日譚的存在でもある大林宣彦監督の名作実写映画『時をかける少女』からして、“時に縛られていく少女”の悲劇を描いたものでした)。

そしてメジャー進出第1弾となった『サマー・ウォーズ』(09)でも、現実世界よりもネット世界のほうが広大に感じられてしまう描出に戸惑いを感じたものです。

ただし細田監督初のオリジナルストーリーでもあった『サマー・ウォーズ』は、これまでの細田監督作品に見られなかった“家族”へのこだわりに、何某かの心境の変化みたいなものを感じさせられました。

実際、この時期の前後に細田監督は結婚し、家族を持つことになったようで、そこから彼自身の生活もさながら、その映画作家としての思想も手法も徐々に変化していくように感じられるようになりました。

自身の製作会社スタジオ地図を設立して以降の『おおかみこどもの雨と雪』(12)も『バケモノの子』(15)も、ファンタジーの力を用いて“家族”を、しかもその諸描写からは初期作品に感じられた閉塞感や息苦しさが徐々に消えていった感もあります。

そして今回の『未来のミライ』は、ひとりの親として幼い我が子を見つめる慈愛深いまなざしが信条になっているのが一目瞭然で、おそらく今回は子どもはもちろんのこと、子を持ち育てた経験のある親ならば、誰しも共感できるものに成り得ていることでしょう。

ある意味魑魅魍魎ともいえるアニメーションの世界に身を投じ(いや、まあ映像業界全体が昔も今もそうではあるのですが)、おそらくは幾度か闇も見てきたであろう紆余曲折の苦しい時期を通過して、ようやく評価を得、家族を得、今や円熟の域に達しつつある細田守監督作品。

そう思いつつ、過去作を久々に見直してみたら、いつしかこちらの苦手意識は薄れ、逆に感慨深いものへと映えていました。

『未来のミライ』もまた、世界中の家族に讃えられる快作になったと確信しています。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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