東京国際映画祭で注目の『ミセス・ノイズィ』が第二の『カメ止め』である理由!

© 「ミセス・ノイズィ」製作委員会

TOHOシネマズ六本木を拠点に10月28日から11月5日の期間に開催され、大盛況のうちに先日幕を閉じた、第32回東京国際映画祭。

今年も様々なイベントや舞台挨拶・記者会見が行われ、数多くの作品が上映されたのですが、やはりどうしてもコンペティション上映や、特別招待作品に注目が集まるのは仕方が無いところ。

とは言え、普段あまり観る機会のない国の作品が上映されたり、まだ見ぬ新しい才能に出会えることも、映画ファンにとっての大きな魅力となっているのです。

そこで今回は、普段の新作映画レビューとは趣向を変えて、今年の東京国際映画祭で上映されて非常に感銘を受けた邦画と、おそらく日本での劇場公開は難しいと思われる、フィリピンのドキュメンタリー映画の2本をご紹介したいと思います。

サスペンス映画と思わせて、実は観客の常識が覆される!

まず紹介するのは、今年の日本映画スプラッシュ部門で上映され、今回の上映がワールドプレミアとなった邦画『ミセス・ノイズィ』です。

残念ながら各賞の受賞は逃した本作ですが、その意表を突く構成や鑑賞後の満足感は、正に『カメラを止めるな!』を思い起こさせるものでした。

上映前に行われた舞台挨拶の写真を交えながら、まずはこの作品を紹介していきましょう。

ストーリー

その戦いは、一枚の布団から始まった。
小説家である吉岡真紀(篠原ゆき子)は、娘の菜子(新津ちせ)の子育てと執筆上のスランプに悩んでいた。
ある日の早朝、突如として隣の住人である若田美和子(大高洋子)による嫌がらせが始まる。それは日を追うごとに激しさを増し、心の平穏を奪われて精神的にも追い詰められていく真紀は、夫や娘との関係もギクシャクしてしまう。
この騒動を小説の題材にして執筆することで真紀は反撃に出るが、これがきっかけとなって二人の争いは、マスコミやネットを巻き込んでの大騒動へと発展していくのだが…。

左から、大高洋子、篠原ゆき子、天野千尋監督。

ストーリーを見る限りでは、サスペンス映画やホラー映画のような印象を受けますが、実は夫婦の絆や親子愛を描く感動の人間ドラマでもある本作。

今回オリジナル脚本を執筆した、天野千尋監督。

天野千尋監督によるオリジナル脚本の高い完成度に加えて、出演キャスト陣の演技の素晴らしさも、作品成功の大きな要因となっているのですが、中でも、部屋の隣同士で対立を深めていく二人の女性を演じる、篠原ゆき子と大高洋子の演技は必見!

隣人トラブルに巻き込まれる小説家の真紀を演じた、篠原ゆき子。

真紀を演じる篠原ゆき子は、TBSのドラマ『コウノドリ』第2シーズン第5話へのゲスト出演で見せた演技の凄さが、放送後のネット上で「あの女優は誰?」と話題になったので、顔を見れば思い出す方も多いはず。本作でも、子育てと小説執筆の間で悩む女性を見事に演じています。

騒動の発端となる”騒音おばさん”を強烈な個性で演じた、大高洋子。実はこの笑顔、かなりのネタバレに繋がるかも?

更に凄かったのが、騒動の発端となる騒音おばさん=美和子を演じた大高洋子の存在感と演技力でした。

ストーリーが進むうちに、単なる性格の破綻した危険な人物と思われた美和子への印象が、一気に180度変わってしまう意外な展開は、彼女の演技力無くしては成立しなかったでしょう。

撮影時のエピソードを笑顔で語る姿に、チームワークの良さが伺える舞台挨拶。

今まで真紀の側からしか描かれなかった物語が、全く別の側面から描かれることで、それまでの観客の認識が一気に逆転する見事な展開は、是非劇場で体感して頂きたいのですが、観る者の常識や固定観念が覆される快感、そして親子の絆や夫婦の愛情が観客の心に深い余韻を残す展開など、その内容は正に『カメラを止めるな!』を思い起こさせるものでした。

自分に恥じない正しい生き方を貫くことが、現代の日本においていかに困難なことか?

加えて、自分の目に見える部分や情報だけで人物や物事を判断することが、いかに危険で愚かなことかを、二人の女性の対立を通して描いていく本作。

正式に劇場公開されたら、また詳しいレビューをお届けしたいと思いますが、間違いなく多くの映画ファンの話題となる作品なので、是非今からチェックして頂ければと思います。

フィリピンのベテランホラー女優の記録映画って?

次に紹介するのは、できれば正式に劇場公開して欲しいフィリピンのドキュメンタリー映画『リリア・カンタペイ、神出鬼没』です。

ストーリー

エキストラ出演中、あまりに魔女役にぴったりなその風貌のおかげで監督の目にとまり、以来ホラー映画中心に30年間端役人生を続けてきた老女優、リリア・カンタペイ。
実在の老ホラー女優である彼女が、長い女優人生の中で初めてフィリピンの権威ある映画賞の女優賞にノミネートされる。
早くも自分が受賞した時のスピーチ作成で頭が一杯の彼女だが、果たして見事最優秀女優賞に輝くことができるのか?

30年間にわたり、フィリピンのホラー映画女優として活動してきた、リリア・カンタペイ(ネイティブの発音では、クンタパイの方が近い)の足跡を辿るフェイク・ドキュメンタリー映画なのですが、映画ファンにとっては、フィリピンのホラー映画の製作状況を知ることができる点も見逃せません。

実際、リリアの過去の出演作品の映像も紹介されるのですが、悪霊や魔女を演じるリリアが、ほぼ特殊メイク無しでそれらを演じているのには、フィリピン映画ならではの自由度を感じずにはいられませんでした。

現在でもテレビドラマの老女役でオファーを受けたりする彼女ですが、あまりにホラー映画のイメージが強いため、現場でいきなり監督から、他の女優に変えると言われたりする始末。

そんな彼女がなんと、フィリピンの権威ある映画賞の助演女優賞にノミネートされるという奇跡が!

周囲の人々を巻き込んで盛り上がる中、ついに迎えた授賞式当日。客席で発表の時を待つリリアに、果たして奇跡は起こるのか?

実際の授賞式にカメラを持ち込んで撮影した、終盤の映像は臨場感満点なのですが、それまでコメディとして笑っていた観客の意表を突く、感動のラストは必見!

それは正に『ロッキー』や、同じドキュメンタリーの傑作『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』を思い起こさせるものであり、ベストを尽くして闘った敗者こそが、実は人生の勝利者であるという真のテーマが明らかになるラストには、観ていて思わず拍手を送りたくなるほど。

とにかく、主役の老女優リリア・カンタペイのポジティブなキャラクターと、周囲の人々が皆彼女に優しく暖かい態度で接している状況が、観客の心を打つ本作。

フィリピンのホラー映画界の製作状況が描かれる貴重な作品だけに、今後レイトショーなどで限定上映される可能性もありますが、もしも観る機会に恵まれた場合は、是非足を運ばれることを強くオススメします!

(文:滝口アキラ)

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