『ニッポニアニッポン』は岡本喜八&アニメファン必見の反骨ミュージカル映画!

(C)ラピュタ阿佐ヶ谷

「3・11なんて、忘れちゃえば?」

2011年3月11日の東日本大震災から8年が過ぎた3月の後半、思わずドキッとする見出しの映画チラシを手にしてしまいました。

『ニッポニアニッポン フクシマ狂騒曲(ラプソディ)』。チラシには“3.11フクシマミュージカル”とも記されています。

ちと過激な内容の映画なのかな? と思いつつ、裏の解説などを読んでいくうちに、いち映画ファンとして何となくピンとくるものがあり、気がつくと上映館の東京・ユジク阿佐ヶ谷へ足を向けていました。

そして、いざ接してみた『ニッポニアニッポン』は……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街370》

何と、これは日本映画界が誇るエンタテインメントの鬼才・岡本喜八監督作品を筆頭とするさまざまな映画的オマージュに裏打ちされつつ、さらにはアニメーションや特撮までとことん駆使しつくした映画ファン垂涎のオモシロ映画なのでした!

定年間際の区役所職員が
体験するギャグのような悪夢

『ニッポニアニッポン フクシマ狂騒曲』の主人公は、福島県会津若松市の市役所勤務で定年間近の楠穀平(隆大介)です。

妻を亡くし、二人の娘ハルカ(デコウトミリ)と海(慶徳優菜)とともに暮らしていた彼は、原発最前線の町・楢穂町役場の特別震災広報課へ出向を命じられました。

助役の村井(寺田農)に迎えられ、町とフクイチの現状を目の当たりにしていく穀平は言葉もありません。

しかし村井をはじめ広報課の面々の、何ともノーテン……いや明るいことよ⁉

一方その頃、ハルカが勤務する病院に入院している男の子が、誰もいないはずの空間に向かって時折しゃべっているのを目撃し、興味を抱きます。

さらには、最近楢穂町で見かけるようになった特殊な蝶に狂喜する学者センセイ、第二次世界大戦でシベリアへ赴いた兵士たちが時を経てガイコツ姿で凱旋、フクイチには大蛸が襲来し、妖怪たちが“聖者の行進”を奏で始め、なぜか宮澤賢治も現れたりします。

そうこうしているうちに、町は御用学者やゼネコン、官僚などを招いての大宴会を開催!

こうしたギャグのような悪夢の連鎖的状況にずっと違和感を抱き続けてきた穀平の忸怩たる想いは、ついに……!

まず本作は、福島原発事故から時が経った今の日本に違和感を覚える人々の手で作られた反骨の反権力映画ではありますが、ただ単に拳を振り上げるのではなく、ミュージカル仕立てで、さらには様々な手法のアニメーションおよび特撮を駆使して徹底的に風刺し、笑い飛ばしながら映画の可能性を訴求していく画期的なエンタテインメント作品です。

およそ今のメジャーでは作れない類いの作品ではあるでしょう。

しかしこの映画、メジャー大作に負けず劣らずのゴージャス感に満ち溢れているのが強みでもあり、その要素を大いに支えているキーワードが“岡本喜八”であるといっても過言ではありません。

岡本喜八監督といえば『独立愚連隊』や『日本のいちばん長い日』『大誘拐RAINBOW KIDS』など、徹底的に面白いエンタテインメントを一貫して作り続けてきた才人で、サム・ペキンパーやジョン・ミリアスなど海外の映画人にも多大な影響を与えた名匠でもあります。

その作風は軽妙洒脱にしてリズミカル、それでいて反骨精神を忘れることなく、その時代時代への意見具申を巧みな風刺をもって盛り込み続けていました。

そして本作は徹頭徹尾、そんな岡本喜八監督作品のタッチが踏襲されているのです。

細かくリズミカルなカッティング、独特の味わいあるナレーション、時折現れる黒子、台詞の中には岡本映画に倣ったものもチラホラ……。

それもそのはず、監督の才谷遼は高校時代に岡本作品『肉弾』を見て以来、彼を師と仰いで師事するようになり、やがて自身が経営するラピュタ阿佐ヶ谷で岡本監督特集を開催するなど、岡本映画の真髄を知り尽くしている人物でもあるのでした。

今回のキャスティングにしても、『肉弾』の寺田農をはじめ、宝田明、田村奈巳、桜井浩子など岡本映画の出演者が多数参加、また岡本映画の顔のひとりでもあった佐藤允の実子で映画監督の佐藤闘介の姿までお目にかかれたりします。

主演の隆大介もやはり岡本映画の顔・仲代達矢の愛弟子で、まだ無名だった若き日に岡本作品『姿三四郎』に出演しているのでした。

アートアニメーションの旗手
ここに一挙集結!

さらに、アニメーションへの理解があった岡本監督(あの庵野秀明監督も岡本映画のシンパです)の資質とも呼応するかのように、才谷監督は“アートアニメーションの小さな学校”を開設するなどラピュタ阿佐ヶ谷を基点にアートアニメの普及に尽力してきました。

(ロシアの巨匠ユーリー・ノルシュテイン監督との親交もある才谷監督は現在公開中の、ノルシュテインが未完のまま手つかずにいる『外套』のその後の制作状況を追ったドキュメンタリー映画『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』も演出しています)

そんな才谷監督は今回、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズのオープニングでもおなじみのクレイアニメ作家・石田卓也や、『ちびまる子ちゃん』の作画監督・才田俊次、ベラルーシ出身のユリヤ・ラディツカヤなどなど世界中のアニメーション作家を招いて、劇中各所に魅惑的なシーンを構築させています(ノルシュテイン作品の映像も挿入されます)。

そのどれもが秀逸で目を見張らされますが、中でもぶっとんだのが人形アニメの女王とも謳われる眞賀里文子による、何と葛飾北斎の画に出てくる大蛸が原発を襲うというイメージ・シーンで、さらには絵コンテを『シン・ゴジラ』などでおなじみ樋口真嗣が担当しているということもあって、どことなく『キングコング対ゴジラ』の大蛸出現シーンを彷彿させる優れもので、その意味では特撮ファンも必見なのでした。

岡本映画の常連をはじめとするキャスティングや『キンゴジ』テイストも含むアニメ&特撮の数々は、クライマックスの宴会シーンで東宝ミュージカル的な賑わいも見せますが、同時に岡本監督が大映で撮った『ジャズ大名』の乱痴気騒ぎも思い出してならず、さらに申すと佐藤純彌監督のカルト映画『実録私設銀座警察』のクライマックスまで彷彿させられます。
(ラピュタ阿佐ヶ谷は、かつて自腹を切って『実録~』の35ミリプリントを焼いて上映し、その後の再評価ブームのきっかけを作った火付け役的劇場でもあるのでした)

「汚染水、薄めてしまえばわからない!」などと合唱するすさまじいクライマックス大宴会の中、まるでメフィストのように人間の愚かさを嬉々として説き始める寺田農の姿は圧巻です。

また、極限状況に対して成す術もない男を演じさせたら意外に妙味の隆大介の個性も、ここで大いに発揮されています。
(『影武者』『乱』などの勇ましさもいいけど、それ以上に『五条霊戦記』で運命に弄ばれていく弁慶を演じたときの彼は素晴らしかった。あと全然関係ないけど、彼が主演した実写OV『ブラックジャック』3部作は傑作なのでDVD化を希望)

更に本作は原発のみならず戦争そのものの惨禍にまで言及していくあたり、ちと盛り込みすぎかなとも思いつつ、このきな臭いご時世に対しての志やよしと、天国の岡本監督も声をかけてくれているような、そんな気もしてなりませんでした。

こうした岡本喜八&アニメーション&特撮&東宝ミュージカル&ラピュタ阿佐ヶ谷テイストがまんべんなくミックスされた『ニッポニアニッポン』は、現在ラピュタ阿佐ヶ谷の姉妹館ユジク阿佐ヶ谷で上映中。そして4月5日からは福島県まちポレいわき、4月27日からは大分県大分シネマ5での公開も決定しています。

前作『セシウムと少女』を凌駕する才谷監督の大胆なメッセージ性には賛否あるでしょうが、逆にそれも含めて今こそ議論すべき内容の真摯な作品であり、またそういった口コミによって本作の波が全国に拡大していくことを期待しつつ、やはりいち映画ファンとして、岡本喜八監督&往年の東宝映画のファンとして、アニメ&特撮ファンとして、本作は愛してやまない作品であると公言しておきます。

とにもかくにもジャンル・ファンはもとより、オールマイティに映画ファン必見!

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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