アカデミー賞特集 助演男優賞編:バイプレーヤーたちの頂上決戦

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現地時間3月4日に発表される第90回アカデミー賞。その主要部門を解説していく当コラム。
第1回は「助演男優賞」。毎年層の厚いメンバーが揃うこの部門。今年のキーワードを挙げるならば「バイプレーヤーたちの頂上決戦」といったところだろうか。

ノミネート一覧

ウィレム・デフォー『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
ウディ・ハレルソン『スリー・ビルボード』
リチャード・ジェンキンス『シェイプ・オブ・ウォーター』
クリストファー・プラマー『All the Money in the World』
サム・ロックウェル『スリー・ビルボード』

サム・ロックウェル
『スリー・ビルボード』

今年の候補者5名の中で初ノミネートとなったのはサム・ロックウェルただ一人。

(C)2017 Twentieth Century Fox

『スリー・ビルボード』より

それでも彼の知名度は言うまでもない。『キャメロット・ガーデンの少女』で映画ファンから認知され、『グリーン・マイル』で世界的にその存在感が注目されるようになってからは、『ギャラクシー・クエスト』や『チャーリーズ・エンジェル』など、数多くの話題作であらゆる表情を見せつけてきたのだ。

今年で50歳を迎え、俳優としてのキャリアは30年目を迎える名バイプレーヤーのロックウェルに、ついに訪れる栄光の瞬間。しかしそこに立ちはだかるのは彼よりも強力なバイプレーヤーたちの存在出る。

ウィレム・デフォー
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でノミネートのウィレム・デフォー。

『プラトーン』と『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』で助演男優賞候補に挙がった彼。17年ぶりのオスカー参戦となる彼といえば、サム・ライミ版『スパイダーマン』でのグリーン・ゴブリン役をはじめ、『処刑人』などの鬼気迫る表情。そして対照的にウェス・アンダーソン作品で見せるコミカルで少し間の抜けた雰囲気。

今回の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では、主人公の少女たち家族が生活するモーテルの管理人としてその存在感を発揮。早い段階から作品賞入りも噂されていた作品ではあるが、蓋を開けてみればデフォーの助演男優賞のみに留まった。となれば、同作を支持する層の票が一気に流れ込むことも考えられる。

ウディ・ハレルソン
『スリー・ビルボード』

(C)2017 Twentieth Century Fox

『スリー・ビルボード』より

そしてロックウェルと同じく『スリー・ビルボード』からノミネートされたウディ・ハレルソン。主演部門と異なり、同一作品から2人以上がノミネートされることも稀にある助演部門。しかしながら助演男優賞では『バグジー』でハーヴェイ・カイテルとベン・キングスレーがノミネートされて以来、実に27年ぶりとなった。

さらに遡っていけば、デフォーがノミネートされていた『プラトーン』からトム・ベレンジャーも候補入りをしていたり、作品賞受賞作『愛と追憶の日々』ではジャック・ニコルソンとジョン・リスゴーがノミネートされ、ニコルソンが受賞している。また『ラスト・ショー』『ジュリア』『普通の人々』、『ゴッドファーザーPART2』も複数が候補入りして1人が受賞を果たしている。過去17回ほどで5回ある受賞パターンは決して高くないとはいえ、今年は18度目にして6度目のケースが起こる可能性が強い。

とはいえ、ロックウェルかハレルソンかとなったときに、圧倒的に出番の多さ、物語への貢献度を考えれば、ロックウェルに向くことはほぼ間違いないだろう。

リーチャード・ジェンキンス
『シェイプ・オブ・ウォーター』

実は今年、『スリー・ビルボード』以外にも助演男優賞に2枠滑り込むかもしれないと目された作品があと2作品あった。といっても枠は5つ。早い段階からノミネートは堅いと言われていたデフォーの存在があったため、さらに狭き門をめぐる戦いとなっていたのだ。

作品賞のノミネートを獲得した『君の名前で僕を呼んで』では、前評判が高かったマイケル・スタルバーグ(過去に『シリアスマン』で主演男優賞候補に挙がっている)と、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたアーミ・ハーマーの二人がいずれも候補落ち。

そしてもう一本、作品賞をはじめ今年最多の13部門でノミネートを果たした『シェイプ・オブ・ウォーター』では“悪役”マイケル・シャノンが落ち、代わりに主人公の“助言者”であるリチャード・ジェンキンスが勝ち残ったのである。

必然的に、同じ作品内での争いを制したジェンキンスの評価は高くなる。過去に『扉をたたく人』で脚光を浴びた彼が演じるのは、サリー・ホーキンス演じるヒロインの良き友人であり、同性愛者という役柄だ。

ここ数年の社会の変化もあって、同性愛者という役柄は評価をされやすくなっている。そう、7年前に『人生はビギナーズ』で自身が同性愛者であるとカミングアウトする余命わずかな老人を演じたクリストファー・プラマーがその例のひとつだ。もっとも、彼の存在が物語の根幹を担っていたということが大きく、それを踏まえると、今回のジェンキンスの役柄は大きな影響力をもたらすとは考えにくいものがある。

クリストファー・プラマー
『All the Money in the World』

©2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『All the Money in the World』より

そして、そのプラマーが7年ぶりにオスカーの舞台に帰ってきた。しかも、つい3ヶ月前までは彼の名前がここに載ることを想像できた人間は一人もいないことだろう。

ハーヴェイ・ワインスタインに端を発するスキャンダルの数々により、ケヴィン・スペイシーが演じていたシーンをすべてカットし、代役を務めたのがプラマー。(年齢が違いすぎるだろというツッコミが頻発したとはいえ)即座に決断を下したリドリー・スコット監督と、プラマー自身へのハリウッド全体からの株はうなぎのぼりとなって、そのままこのオスカーレースへと滑り込んできたのだ。

前述の『人生はビギナーズ』のとき、プラマーは82歳。ハル・ホルブルックやマックス・フォン・シドーと並び助演男優賞での最高齢での候補者となった彼は、89歳となって3度目のノミネート。男優女優共に俳優部門では最高齢での候補者になったのである。

さて、賞レースの序盤はウィレム・デフォーの圧勝。そこから転じて直前の重要な賞はすべてサム・ロックウェルが制している。となれば、このままオスカーもロックウェルが戴冠する可能性が非常に高いと見てもいいだろう。


    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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