「地獄の門」「考える人」…ロダンとカミーユ、繰り返し語り継がれる物語

(C)Les Films du Lendemain / Shanna Besson

東京・上野の国立西洋美術館の前に、堂々と鎮座する彫刻「地獄の門」や、その一部を抜き出した「考える人」など、誰もが一度は目にしたことがある数々の名作を生み出した〝近代彫刻の父〟オーギュスト・ロダン。

今年没後100年という節目の年を迎える彼の、波乱に満ちた半生を描いた『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』が11月11日より公開される。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.52:ロダンとカミーユ、繰り返し語り継がれる物語>

(C)Les Films du Lendemain / Shanna Besson

パリにあるロダン美術館の全面協力のもと、史実に忠実に物語られた本作は、1880年に国から「地獄の門」の制作依頼を受けたロダンの、芸術家としての苦悩と、弟子であり愛人であったカミーユ・クローデルとの関係を、ちょうど2時間かけて濃密に描き出していく。

女たらしとして知られたロダンが、内縁の妻ローズと、カミーユとの間で揺れていく様、そこにのしかかる「カレーの市民」に対する酷評と、終わらない「地獄の門」の制作。かなり重厚なドラマが繰り広げられるだけに、ある程度の予備知識を持っておいた方が、作品への理解が高まることだろう。

このようないわゆる〝芸術家伝記〟映画というのは、かなりコンスタントに日本でも劇場公開される。これだけ多くの作品が日本未公開でソフトスルーされる中では、かなり特殊なジャンルなのだ。

著名な音楽家や画家、そしてロダンのような彫刻家。誰もが知っている人物の、有名な逸話を映像で見るという体験は、たとえ同じ物語が何度も描かれたとしても、そのアプローチの仕方ひとつで、かなり見え方は変わっていく。

現に、本作ではロダンを中心にカミーユ・クローデルとの物語が描かれていくのだが、ほぼ同じ時期の2人の関係を描いた、1988年制作のブリュノ・ニュイッテン監督の巨編『カミーユ・クローデル』は、まさに本作とは対になるような、カミーユからの視点でロダンとの関係を描いた作品なのである。

カミーユ・クローデル [DVD]

イザベル・アジャーニがカミーユを演じてアカデミー賞候補に挙がった同作で、ロダンを演じたのはジェラール・ドパルデュー。フランスを代表する2人の俳優が、1885年から数年間の2人の物語を演じている。こちらでは、芸術家としての2人の葛藤よりもカミーユが精神のバランスを崩していく様にフォーカスが当たり、かなり陰鬱な空気が流れ続けるのである。

〝ザ・芸術映画〟という空気が漂う長尺な作品ではあるが、今回の『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』の基礎知識を養う上ではかなり役に立つ映画といえよう。

ところで、本作の監督を務めたジャック・ドワイヨン、前作の『ラブバトル』(筆者は一昨年の年間ベスト作品に選んだが)や、日本でもヒットを記録した『ポネット』などで知られる、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの旗手のひとりだ。彼のこれまでの作品のテイストから考えると、このようなタイプの作品はかなり珍しく思える。

それでも、ヴァンサン・ランドン演じるロダンと、イジア・イジュラン演じるカミーユの、感情的にぶつかり合いながら愛を求める様というのは、ある意味では『ラブバトル』に通じる部分もある。いずれにしても、本作のような作品を手がけたことで、ドワイヨンは他のポスト・ヌーヴェルヴァーグ作家たちとは一線を画して一歩芸術的娯楽への素養を高めたことに違いない。

(文:久保田和馬)

関連記事

キャリア最高の作品を送り出した、大胆不敵なフランソワ・オゾンの脚色力
トラン・アン・ユンが映画と文学の融合で生み出した絵画的世界
ドイツの名匠ファティ・アキンが紡ぎだす、青春冒険ロマンの新たな金字塔『50年後のボクたちは』
『笑う故郷』が描き出す、南米映画の強烈な〝人間観察〟の視点
紛争を題材にした映画から引退、『オン・ザ・ミルキー・ロード』エミール・クストリッツァ監督インタビュー

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com