『今夜、ロマンス劇場で』の奥に秘められた映画や映画史の哀しみ

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

今見ている映画の登場人物が、スクリーンから飛び出して来たら?

映画ファンなら誰でも一度は考えたことがあるでしょう。

実際『カイロの紫のバラ』(85)など、そういったモチーフで作られた映画は多数あります。

『キートンの探偵学入門』(24)や『ラスト・アクション・ヒーロー』(93)のように、現実から映画の中の世界に入り込む作品もあります。

上映中のホラー映画と映画館の場内がリンクしていく『デモンズ』(85)なんて怖い作品もありましたね。

そして、ここにまた1本、映画愛にあふれたユニークな作品が誕生しました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.289》

『今夜、ロマンス劇場で』は綾瀬はるかがモノクロ映画のお姫様に扮し、スクリーンの外へお出かけ!
(って。まるで『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンが銀幕の中から飛び出してきたかのような設定ではないか!)

昭和の撮影所&映画館で
繰り広げられるロマンス劇

『今夜、ロマンス劇場で』は、まず1本の古いモノクロ映画が重要なモチーフとなります。

『お転婆姫と三獣士』と名付けられたこの作品、タイトル通り、わがままなお転婆姫・美雪(綾瀬はるか)が、退屈でお城を抜け出し、お供の三獣士の制止も無視して外の世界へ出ていこうという内容のようです。

戦前のトーキー映画ではありますが、どことなく戦後まもない時期の作品のように思えてしまうのは、この作品が『ローマの休日』(53)に倣ったお姫様のエスケープ劇として設定されているからでしょう。

もっともお供の三獣士というのは、いかにも戦前的で、当時は“爆弾三勇士”などの戦意高揚ヒーロー映画が大流行していました。

また作品の雰囲気は昭和喜劇映画の雄・斎藤寅次郎監督作品に倣っているようにも思われます。
(もっともマスコミ向けのプレスの解説を読みますと『オズの魔法使』(39)や日本の“狸御殿”シリーズなどを意識したとのことです)

そして『今夜、ロマンス劇場で』お話は、昭和の映画撮影所と、その近辺にある映画館ロマンス劇場を舞台にした物語。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

主人公は映画監督を目指す助監督の青年・健司(坂口健太郎)。

彼は通い慣れたロマンス劇場の映写室で見つけた古いフィルム缶の中に入っていた映画『お転婆姫と三獣士』にすっかり魅せられ、支配人(柄本明)に頼んで毎日のように繰り返し見ていました。

ところがあるとき、上映中に落雷が起きて(このあたりの設定は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)に倣ってますね)、場内は停電。再び灯りがついたとき、健司の目の前には何と映画から飛び出してきたモノクロの美雪がいたのでした!

これから先のメイン・ストーリーは、直に映画館で確認していただくとして、本作は撮影所と映画館が主な舞台になっていることもあって、わかる人にはわかる映画ネタがたっぷり含まれています。

特に上手くいってるなと唸らされたのは、美雪と健司がガラス越しにキスを交わすところで、これは今井正監督の反戦ラブ・ストーリーの名作『また逢う日まで』(50)の名シーンから採られたものです。

実はこのシーン、単なるオマージュの域にとどまることなく、作品の本質にも関わる重要なポイントにもなり得ているのですが、それも今は言わぬが花。

いずれにしましてもこの作品、宇山佳佑の脚本がとても良く描けています。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

日本映画黄金時代から
斜陽に突入する狭間での愛

個人的に興味深かったのは撮影所の中の諸描写で、日本映画黄金時代の1950年代が終わり、まもなく映画がテレビに押されて斜陽と化していく直前、まだ所内は活気が満ち溢れていた状況が、極彩色の美術などによって巧みに示唆されています。

また、そこに登場する映画スター俊藤龍之介(北村一輝)が通称“ハンサム・ガイ”と呼ばれていることにも日活アクション映画ファンならニンマリさせられることでしょう。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

当時、日活映画は小林旭=マイトガイ、二谷英明=ダンプガイなどと新進スターに“ガイ”のニックネームをつけて売り出す戦略に出ていたのでした。

もっともこの俊藤さん、雰囲気としては『蒲田行進曲』(82)の銀ちゃん風で(俊藤という苗字から、東映やくざ映画の大プロデューサー俊藤浩滋を思い起こすものもあります)、演じる北村一輝も実に楽し気に“映画スター”を怪、いや快演。

また彼が撮影している主演映画も、どこかしら当時エロ・グロ・ナンセンス路線に走っていた新東宝怪奇映画風なのが可笑しいところ。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

このあたりのユーモア描写はTV&映画の『のだめカンタービレ』シリーズ(06~10)や『テルマエ・ロマエ』2部作(12・14)などで知られる武内英樹監督の資質がうまい具合に出ているようです。

そういえばロマンス劇場に貼られている映画ポスターも新東宝作品が圧倒的に多く、日本の映画史に詳しい人からすると、ハッとさせられるものがあります。

もともとは戦後間もない1947年に東宝から分裂して誕生した新東宝は、経営難からアナクロ戦争映画やエロ・グロ路線とも呼ばれたセクシー・サスペンスものやホラー映画などで立て直しを図りますが、結局1961年に倒産してしまいます。

そして時期同じくして、日本映画界は一気に陰りを見せ始めていくのです。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会

実はこの作品、単に名作映画のエッセンスをオマージュ的に詰め込んでいるだけでなく、日本映画業界の流れみたいなものまでドラマの中に上手く組み込んでいるところが秀逸ではあるのですが、それも今はネタばらしになりかねないので論述は控えておかねばなりません。

ただ、本当にこの脚本は日本の映画と映画史が内包する哀しい想いを巧みに取り込みつつ、よく練られていると感心しました。

(1960年での台詞回しが現代口調の俳優がいたりしたのは残念。正直、そのあたりの演技指導などはもう少し徹底してもらいたかったなと……)

映画の中からお姫様が飛び出してのロマンティックでコミカルで、そして大いに泣けるラブ・ストーリー『今夜、ロマンス劇場』は、実はその奥に映画および映画史の影みたいなものまで描出し得た作品なのでした。

『影の車』(70)や『砂の器』(74)、最近では『舟を編む』(13)も印象的だった名優・加藤剛に改めて敬意を表しつつ……。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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